【第76回 午前 66】神経はベテラン?幹細胞はルーキー?細胞の成熟度と放射線

理工学・放射線科学

細胞と組織の放射線感受性で正しいのはどれか。

  1. 筋肉は肝臓より放射線感受性が高い
  2. 放射線の晩期有害事象にはしきい値が存在する。
  3. 細胞の分化度が高いほど放射線感受性は高くなる。
  4. 治療可能比とは腫瘍致死線量を α/β 値で割ったものである。
  5. 肝臓では最大被ばく線量が晩期有害事象発生予測に最も強力な因子である。

出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)


2.放射線の晩期有害事象にはしきい値が存在する。


解説

✔ 「分化度が高い」ってどういう意味?(選択肢3)

多くの学生が引っかかるのが「分化度が高い=細胞分裂が活発=放射線に弱い(感受性・高)」という間違った連想です。

「分化」とは、細胞が特定の役割を持つために「成熟すること」を指します。

  • 分化度が低い細胞(幹細胞など)
    • まだ何にでもなれるルーキー。分裂しまくって数を増やす。➡ 放射線に弱い(感受性・高)
  • 分化度が高い細胞(神経細胞、筋肉細胞など)
    • 役割が完全に固定された大ベテラン。もう分裂しない。➡ 放射線に強い(感受性・低)

つまり、ベテラン(分化度が高い)は落ち着いているので、放射線には強いのです。「ベルゴニー・トリボンドーの法則」の大原則ですね。 したがって、選択肢3は「低くなる」が正しく、誤りです。 同じ理由で、選択肢1の筋肉(超・大ベテラン)も、肝臓より感受性は低いため誤りです。

✔ その「晩期」、どっちの意味?(選択肢2)

「晩期…時間が経ってから起きる…発がん!確率的影響だから、しきい値なし!」 と飛びついた人は、出題者の思う壺です。

放射線の世界には、2つの「晩期」が存在します。

  1. 晩期影響(放射線防護)
    • 被ばくによる発がん・遺伝的影響。これは「確率的影響」なので、しきい値はありません
  2. 晩期有害事象(放射線治療)
    • 治療の数ヶ月〜数年後に正常臓器に出る副作用(合併症)。これは細胞が大量死して起こる「組織反応(確定的影響)」なので、しきい値はあります

✔ 各選択肢について

4.治療可能比とは腫瘍致死線量を α/β 値で割ったものである。

  • 誤り
  • 治療可能比 = 正常組織の耐容線量 ÷ 腫瘍致死線量 です。α/β 値は関係ありません。
  • この数値が「1」より大きければ安全に治療できる、という指標です。

5.肝臓では最大被ばく線量が晩期有害事象発生予測に最も強力な因子である。

  • 誤り
  • 臓器には「直列」と「並列」があります。
    • 直列臓器(脊髄、消化管など)
      • 1箇所でも限界を超えると全体が機能停止する。➡ 「最大線量」が重要。
    • 並列臓器(肝臓、肺、腎臓など)
      • 一部が死んでも残りがカバーする。➡ 「平均線量)」や「照射される体積」が重要。肝臓は並列臓器なので、最大線量ではなく平均線量が予測因子になります。

出題者の“声”

この問題は、知識が「点」で終わっているか、「線」で繋がっているかを試しておる。

「晩期」と聞けば条件反射で「しきい値なし!」と答えしまったり 「分化」という言葉の本当の意味(成熟)を理解せずに丸暗記していたりするものを振るい落とす問題じゃ。

治療における「晩期有害事象」にしきい値(限界値)があるからこそ、放射線技師は「脊髄のしきい値は45Gyだから、絶対にそれ以下に抑えよう」と治療計画を立てることができる。 もし、しきい値がなくて「1Gyでも当たったら将来必ず脊髄が麻痺するかもしれない」のであれば、怖くて放射線治療なんて成立しないんじゃ。

「しきい値があるから、安全な治療ができる」。 この大前提を理解しているかを問うておるのじゃ。


臨床の“目”で読む

治療計画(プランニング)の現場では、選択肢5の「臓器の構造」の知識が使われます。

  • 脊髄は「最大線量」を守る
    • 肺がんや頭頸部がんの放射線治療計画を立てる時、「脊髄の最大線量がしきい値を超えていないか」を確認します。脊髄は直列臓器なので、全体の平均線量が低くても、1点でも限界を突破したら下半身不随などの致命傷になるからです。
  • 肝臓や肺は「ボリューム」を見る
    • 一方、肝臓がんの治療では「V30(30Gy照射される体積)が〇〇%以下か」や「平均線量が〇〇Gy以下か」を確認します。並列臓器である肝臓は、一部に高いピーク線量(最大線量)が当たることよりも、「臓器全体のうち、どれくらいの面積がダメージを受けたか」で合併症のリスクが決まるからです。

「この臓器を守るためには、DVH(線量体積ヒストグラム)のどこを見ればいいのか?」 この設問は、その実践的な読影力の土台なのです。


今日のまとめ

  1. 分化度が高い = 成熟している = 分裂しない = 放射線に強い!
  2. 晩期「影響」 = 発がんなど(確率的影響) ➡ しきい値なし
  3. 晩期「有害事象」 = 治療の副作用(確定的影響) ➡ しきい値あり
  4. 直列臓器(脊髄など)は 「最大線量」 を評価。
  5. 並列臓器(肝臓など)は 「平均線量・体積」 を評価。

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