第77回 午後 21

基礎医学大要

我が国の悪性腫瘍で正しいのはどれか。

  1. 咽頭癌は男性より女性に多い。
  2. 乳癌の組織型で最も多いのは腺癌である。
  3. 子宮頸癌の組織型で最も多いのは腺癌である。
  4. 胃癌の組織型で最も多いのは扁平上皮癌である。
  5. ホジキンリンパ腫の方が非ホジキンリンパ腫よりも多い。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


2.乳癌の組織型で最も多いのは腺癌である


解説

✔ 組織型:「腺癌」と「扁平上皮癌」を区別する

悪性腫瘍は、発生した細胞の種類によって「組織型」に分類されます。特に頻度が高いのが「腺癌」「扁平上皮癌」で、この2つの違いを理解することが重要です。

  • 腺癌
    • 母乳や消化液などの分泌物を出す「腺組織」から発生するがんです。したがって、乳腺、大腸、前立腺、肺など、腺組織が豊富な臓器に発生します。
  • 扁平上皮癌
    • 体の表面や、食道・気管・子宮頸部のように、管の内側を覆う「扁平上皮」という粘膜から発生するがんです。

この基本ルールに当てはめると、乳腺から発生する乳癌の組織型は、腺癌が最も多いと判断できます。


✔ 各選択肢について

1. 咽頭癌は男性より女性に多い。

  • 誤り
  • 咽頭癌の主なリスク因子は喫煙飲酒です。そのため、罹患率は男性が女性よりも圧倒的に高くなります。

2.乳癌の組織型で最も多いのは腺癌である。

  • 正解
  • 乳癌は、乳汁を分泌する乳腺組織から発生するため、その大多数が腺癌です。
  • 中でも浸潤性乳管癌が代表的です。

3.子宮頸癌の組織型で最も多いのは腺癌である。

  • 誤り
  • 子宮頸部は、扁平上皮で覆われているため、扁平上皮癌が最多です。
  • 近年、腺癌も増加傾向にありますが、依然として扁平上皮癌が主流です。

4.胃癌の組織型で最も多いのは扁平上皮癌である。

  • 誤り
  • 胃は、消化液を分泌する腺組織が豊富なので、腺癌が大多数を占めます。胃の扁平上皮癌は非常に稀です。

5.ホジキンリンパ腫の方が非ホジキンリンパ腫よりも多い。

  • 誤り
  • 悪性リンパ腫全体で見ると、欧米ではホジキンリンパ腫の割合が比較的高いですが、日本では非ホジキンリンパ腫が約9割以上を占め、圧倒的に多くなっています。

出題者の“声”

この問題は、主要ながんの「組織型」「疫学」という、基本中の基本を正確に記憶しておるかを試しておる。がんは臓器ごとに「よく見られる顔つき」が決まっておるのじゃ。

学生がよく間違えるのは、3番や4番のように、腺癌と扁平上皮癌の発生母地を混同してしまうパターンじゃ。

「子宮頸部=扁平上皮」「胃・乳腺=腺組織」という基本を外すと、一気に得点を落とすことになる。

また、5番のリンパ腫の割合も、日本人として知っておくべき疫学じゃ。

この問題は、ひっかけに惑わされず、がんに関する基本的な常識を即答できるかを試す、実力チェック問題じゃな。


臨床の“目”で読む

臨床現場では、がんと診断された後、まず組織型を確定させる「病理診断」が行われます。なぜなら、組織型によって治療法が大きく異なるからです。

  • 乳癌
    • ほとんどが腺癌であり、さらにホルモン受容体やHER2といったタンパク質の発現を調べ、手術・薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)放射線療法を組み合わせた、個別化治療が行われます。
  • 子宮頸癌
    • 扁平上皮癌が多く、ヒトパピローマウイルス(HPV)との関連が深いため、検診による早期発見が重要です。放射線感受性が高く、放射線治療が良い適応となることが多いです。
  • 胃癌
    • 腺癌が主体で、その中でも分化度(顔つきの良し悪し)によって、がんの進行様式や予後が変わってきます。
  • 悪性リンパ腫
    • 日本では非ホジキンが大多数であり、さらに数十種類の細かい病型に分類され、それぞれで治療薬や治療方針が全く異なります。

私たち放射線技師も、自分が撮影しているがんがどのような組織型で、どのような特徴を持つのかを知っておくことで、画像所見と病理を結びつけて考える、より深い視点を養うことができます。


今日のまとめ

  1. 基本ルール: 腺組織(乳腺、胃など)からは腺癌が、扁平上皮(子宮頸部など)からは扁平上皮癌が発生しやすい。
  2. 乳癌・胃癌の組織型は腺癌が最多。
  3. 子宮頸癌の組織型は扁平上皮癌が最多。
  4. 咽頭癌は喫煙・飲酒の影響で男性に多い 🚻。
  5. 日本の悪性リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫が圧倒的に多い。

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