X 線エネルギー 40 keV のときに比べ 70 keV のとき CT 値が増加するのはどれか。
- 水
- 筋 肉
- 脂 肪
- 脳白質
- 脳灰白質
出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)
3.脂 肪
解説
✔ CT値の正体は「水との背比べ」
まず、CT値(HU)の定義を思い出しましょう。
「水を基準(0 HU)にして、X線をどれだけ通しにくいか(線減弱係数 )を比較した数値」です。
- 水より通しにくい(骨など) ➡ プラス
- 水より通しやすい(脂肪・空気) ➡ マイナス
この問題のカギは、「X線のエネルギーが変わると、水とその他の物質の関係がどう変わるか?」 です。
✔ 40keV vs 70keV:主役が変わる!
X線と物質の相互作用には、主役が2人います。
- 光電効果(低いエネルギーで主役)
- 原子番号(Z)が大きいほど、X線をバクバク食べます(吸収します)。
- コンプトン散乱(高いエネルギーで主役)
- 原子番号はあまり関係なく、密度(電子密度)で勝負します。
この2人の主役の交代劇を、「水(酸素O・水素H)」と「脂肪(炭素C・水素H)」で見てみましょう。
- 水の実効原子番号: 約 7.4
- 脂肪の実効原子番号: 約 6.0
- ※脂肪は炭素(Z=6)がメインなので、水(酸素 Z=8)より原子番号が小さいのが最大のポイントです!
【ラウンド1:40 keV(低エネルギー)】
ここでは「光電効果」が支配的です。光電効果は原子番号(Z)の差に敏感です。 原子番号の大きい「水」は、脂肪よりも圧倒的にX線を吸収します。 水と脂肪の差(格差)がめちゃくちゃ開くため、基準の水に比べて脂肪のCT値は「ものすごく低い(マイナスが大きい)」値になります。 (例:-120 HU)
【ラウンド2:70 keV(高エネルギー)】
エネルギーが上がると光電効果は激減し、「コンプトン散乱」が支配的になります。 こうなると原子番号の有利不利はなくなり、純粋な「密度」勝負になります。 水と脂肪の差は、低エネルギーの時ほど大きくありません(格差が縮まる)。 その結果、脂肪のCT値は「そこそこのマイナス」に戻ってきます。 (例:-70 HU)
✔ マイナスの「増加」に注意!
ここで注意ポイントです。
- 40 keV のとき: -120 HU
- 70 keV のとき: -70 HU
-120 から -70 への変化は、数値としてはプラス方向に「増加」しているという点に注意!
✔ 他の選択肢(筋肉・脳など)は?
筋肉や脳(白質・灰白質)は、水よりもタンパク質などが多く、実効原子番号や密度が水よりわずかに高い組織です。 これらは通常、プラスのCT値(30〜50 HU)を持ちます。
- 低エネルギー (40 keV)
- 原子番号の利が効いて、水との差が広がる → より高いプラスになる(例:60 HU)。
- 高エネルギー (70 keV)
- 原子番号の利が消え、差が縮まる → 低いプラスになる(例:40 HU)。
つまり、筋肉や臓器、ヨード造影剤などは、エネルギーが上がるとCT値は「減少」します。 唯一、水より原子番号が低い「脂肪」だけが、逆の動き(増加)を見せるのです。
出題者の“声”

この問題は、昨今のデュアルエナジーCT(DECT)やスペクトラルCTの普及を象徴する良問じゃ。 多くの学生さんが「エネルギーが上がると、CT値は下がる(コントラストが落ちる)」という「一般論」だけで解こうとして、ドツボにハマる問題じゃな。
「管電圧を下げるとコントラストがつく(CT値が上がる)」 これは筋肉や臓器、造影剤に対しては正解じゃが、脂肪に対しては間違いになる。 脂肪はもともとマイナスじゃから、コントラストがつく(0から離れる)ということは、「より小さく(よりマイナスに)」なるということじゃ。
逆に、エネルギーを上げれば、脂肪は0(水)に近づいていく。 マイナスの世界で0に近づく、つまりCT値は「増加」していくというイメージはついておるかね?
CT値とは水との比較であるという本質、そして「脂肪だけがマイナスのCT値を持つ仲間はずれ」だと気付けた者は、このひっかけを見破って正解を選べたはずじゃ。
臨床の“目”で読む

この知識、最新のCT解析ですごく役立ちます。
- 仮想単色X線画像(Virtual Monoenergetic Image: VMI)
- 最近のCTでは、撮影後に「40keVの画像」や「70keVの画像」を自由自在に作れます。
- 40keV(低keV)
- ヨード造影剤(血管や腫瘍)のコントラストさせたい時に使います。この時、背景の脂肪はより黒く(-120 HUとかに)沈むため、結果として「白(血管)と黒(脂肪)のメリハリ(コントラスト)」が最強になります。
- 70keV(高keV)
- 標準的な画像(120kVp相当)に近く、自然な見え方になります。
- 40keV(低keV)
- 最近のCTでは、撮影後に「40keVの画像」や「70keVの画像」を自由自在に作れます。
- 脂肪の定量評価
- 「CT値で脂肪肝を評価しよう」という時、撮影した管電圧(80kVか120kVか)によって、測定値が変わってしまうことを知っておく必要があります。 「低電圧で撮ると、脂肪のCT値は低く出る(負に大きくなる)」。 これを知らないと、「あれ? 去年より脂肪肝が悪化してる?(CT値が下がってる?)」と誤診してしまうかもしれません。 「CT値は絶対的な数字ではない(エネルギーに依存する)」という、常識が問われているのです。
今日のまとめ
- CT値は「水」との相対評価。エネルギー変化で「水との差」がどうなるかを考える。
- 低エネルギーでは光電効果(原子番号Zの差)が強調される。
- 脂肪(低Z):低エネルギーで水との差が拡大(よりマイナスへ) → エネルギーが上がると差が縮小(0に近づく)
- 筋肉・臓器(高Z):低エネルギーで水との差が拡大(よりプラスへ) → エネルギーが上がると差が縮小(0に近づく)



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