胸部 CT の線量が DRL を超えていた。 検査条件見直しで適切なのはどれか。
- 管電流を上げる。
- 撮影範囲を拡大する。
- 自動露出機構の目標 SD を上げる。
- 空間分解能の高い再構成関数に変更する。
- 再構成法を逐次近似法から FBP 法に変更する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)
3.自動露出機構の目標 SD を上げる。
解説
✔ DRLを超えたらどうする? 線量と画質のトレードオフ
DRL(診断参考レベル)とは、「標準的な体格の患者さんに対して、これくらいの線量で検査するのが一般的ですよ」という目安の値です。 これを超えてしまった場合、画質を維持しすぎている(過剰被ばくの)可能性があります。 線量を下げるためには、「画質(ノイズ)を少し妥協する」必要があります。
CT装置には「自動露出機構(AEC:Auto Exposure Control)」が搭載されており、設定した画質になるように、X線の量(管電流 mA)を自動調整してくれます。 この時の「画質の目標値」が「目標SD(Standard Deviation:標準偏差)」です。
- SD とは、画像のザラザラ具合(ノイズ)の指標です。
- SDが小さい = ノイズが少ない(きれい) ➡ たくさんのX線が必要 ➡ 線量アップ
- SDが大きい = ノイズが多い(ザラザラ) ➡ 少ないX線で済む ➡ 線量ダウン
つまり、線量を下げたいなら、「もう少しノイズが増えてもいいよ(目標SDを上げる)」と装置に指示を出せば良いのです。
✔ 各選択肢について
1.管電流を上げる。
- ✅ 正解
- 管電流(mA)はX線の量そのものです。上げれば当然、被ばく線量は増加してしまいます。
2.撮影範囲を拡大する。
- ❌ 誤り
- 撮影範囲(スキャンする長さ)が伸びれば、総被ばく量(DLP:Dose Length Product)は増加します。不要な範囲はカットするのが被ばく低減の鉄則です。
3.自動露出機構の目標 SD を上げる。
- ✅ 正解
- 目標SDを上げる(数値を大きく設定する)ことは、「設定画質のレベルを下げる(ノイズを許容する)」ことを意味します。 装置は「あ、そんなに頑張らなくていいんだ」と判断し、管電流を下げてくれるため、結果として線量が下がります。 (※メーカーによっては「ノイズインデックス(Noise Index)」など呼び名が変わりますが、考え方は同じです)
4.空間分解能の高い再構成関数に変更する。
- ❌ 誤り
- いわゆる「骨条件(High Res)」のような関数にすると、画像のエッジが強調されますが、同時にノイズも目立つようになります。 同じノイズレベルを維持しようとすれば線量を上げる必要がありますし、単に関数を変えるだけでは直接的な被ばく低減対策にはなりません。
5.再構成法を逐次近似法から FBP 法に変更する。
- ❌ 誤り
- これは逆効果です!
- 逐次近似法(IR法)は、計算の力でノイズを強力に除去する技術です。これを使うことで、少ないX線でもきれいな画像が作れるようになりました。
- 昔ながらのFBP法(フィルター補正逆投影法)に戻してしまうと、ノイズ除去能力がなくなるため、同じ画質を得るためにはもっと多くの線量が必要になってしまいます。
出題者の“声”

この問題は、2025年の「Japan DRLs 2025」改訂を見据えたタイムリーな問題じゃ。 DRLは決して「超えてはいけない規制値」ではないが、「自施設の検査が適切かを見直すための鏡」じゃ。
線量を下げるには、何かを犠牲にせねばならん。それが「ノイズ(SD)」じゃ。 学生さんはよく「SDを上げる=画質が良くなる」と勘違いするが、逆じゃぞ。 SD(標準偏差)はバラつき(ノイズ)の量じゃ。 「目標SDを上げる」というのは、「ノイズが増えた画像になってもいいから、線量を下げてくれ」という命令なんじゃ。
「線量を下げたい」➡「ノイズを許容する」➡「目標SDを高く設定する」。 この論理の鎖をしっかり繋げておくのじゃぞ。
臨床の“目”で読む

現場では、この「目標SD(Noise Index)」の設定こそが、CT撮影条件を決める肝になります。
- 1. 「SD 10」と「SD 15」の違い
- 例えば、腹部CTで目標SDを「10」に設定すると、滑らかな画像になりますが、線量は高くなります。 これを「15」に変更すると、画像は少しザラつきますが、線量はガクンと下がります。 我々技師の仕事は、「診断に支障がない適切なSD値」を見極めることです。 「きれいな画像」が良い画像とは限りません。「診断できる画質で、最小の線量」こそが、プロの仕事(最適化)なのです。
- 2. 逐次近似(IR)から、AI技術(DLR)へ
- 選択肢5にある通り、被ばく低減の主役として長らく活躍してきたのが「逐次近似応用再構成(IR法)」です。 しかし今、さらにその先を行く「ディープラーニング画像再構成(DLR)」が急速に普及しています。 AIの力でノイズだけを賢く除去するこの技術は、IR法よりもさらに、「超・低線量でも、驚くほど自然で高画質な画像」を生み出します。 「線量を下げたいなら、IR、そして最新のDLRを活用する」。これが令和の常識になりつつあるのです。
- 3. Japan DRLs 2025への対応
- 2025年の改訂では、より細かい検査種別や、最新の装置性能を反映した基準値が示されています。 この問題のように「DRLを超えてしまった!」という場面は、実際に多くの病院で起こりうることです。その時、適当にmAを下げるのではなく、「医師と相談して画質を担保しながら目標SDを見直す」という理論的なアプローチができるかどうかが問われています。
今日のまとめ
- DRLを超えたら、画質(ノイズ)と線量のバランスを見直す(最適化)。
- 目標SDを上げる = ノイズを許容する = 管電流が下がる = 被ばく低減。
- 目標SDを下げる = 高画質を求める = 管電流が上がる = 被ばく増加。
- 現代の被ばく低減技術は、IR法に加え、AIを用いたDLR(ディープラーニング再構成)が主流になりつつある。
- 私が出題者だったら2026年国家試験には必ずDRLs関連の問題を出題します。それくらいホットな話題ですw



コメント