MRI の化学シフトアーチファクトが軽減されるのはどれか。
- 加算回数を増やす。
- 脂肪信号を抑制する。
- 受信バンド幅を狭くする。
- 周波数エンコード数を増やす。
- 静磁場強度が高い装置を使用する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)
2.脂肪信号を抑制する。
解説
✔ MRIアーチファクト「5大ボス」を攻略せよ!
MRIには様々なアーチファクト(虚像)が出現します。 まずは今回のテーマである「化学シフト」を理解し、その後に他のボスキャラたちを一気に整理しましょう。
① 化学シフトアーチファクト(Chemical Shift Artifact)
- 現象
- 腎臓や椎体など、水と脂肪が接している場所で、境界線が黒く抜けたり(あるいは白く重なったり)して、位置がズレて見える現象。
- 原因
- 「水」と「脂肪」の共鳴周波数がわずかに違う(約3.5ppm)ため、装置が位置を読み間違えてしまう(周波数エンコード方向にズレる)。
- 対策
- 脂肪信号を抑制する:ズレる原因である脂肪自体を消してしまえば、アーチファクトも消える!
- 受信バンド幅を「広く」する:1画素あたりの周波数の幅を広げると、相対的にズレが目立たなくなる。
- 静磁場強度の「低い」装置を使う:磁場が低いほど、水と脂肪の周波数差(Hz)も小さくなるため。
その他の重要アーチファクト
② 折り返しアーチファクト
- 現象
- お腹の端っこが、反対側に飛び出して重なって見える。
- 原因
- 撮影視野(FOV)が、被写体よりも小さいとき。
- 対策
- FOVを大きくする。
- オーバーサンプリングを使用する。
③ モーションアーチファクト(Motion / Ghosting)
- 現象
- 画像全体に、被写体の形をした淡い影(ゴースト)が、位相エンコード方向に等間隔で出現する。
- 原因
- 呼吸、心拍、血流、体動などの「動き」。
- 対策:
- 息止め、固定を行う。
- 心電図同期や呼吸同期を使う。
- 位相エンコード方向を入れ替える(アーチファクトの出る向きを変えて、見たい場所から逃がす)。
④ 磁化率アーチファクト
- 現象
- 金属や空気の周りで、画像が激しく歪んだり、信号が抜けたりする。
- 原因
- 体内の金属(クリップなど)や空気との境界で、磁場が局所的に乱れるため。
- 対策
- FSE法(高速スピンエコー)を使う(磁場の乱れを補正する能力が高い)。
- エコー時間(TE)を短くする。
⑤ トランケーションアーチファクト(Truncation / Gibbs ringing)
- 現象
- 信号が急激に変わる境界(頭蓋骨と脳など)で、波紋のような縞模様が出る。
- 原因
- データ収集の細かさ(マトリクス)が不足している。
- 対策
- マトリクス数を増やす(空間分解能を上げる)。
✔ 各選択肢について
1.加算回数を増やす。
- ❌ 誤り
- 加算回数を増やすと、ランダムなノイズが減ってS/N比(画質)は良くなりますが、化学シフトのような「決まった法則でズレるもの」は改善しません。くっきりズレるだけです。
2.脂肪信号を抑制する。
- ✅ 正解
- 化学シフトは「水と脂肪のズレ」です。片方の主役である脂肪を消してしまえば(脂肪抑制法)、ズレようがありません。最も効果的な対策の一つです。
3.受信バンド幅を狭くする。
- ❌ 誤り
- これは逆効果(悪化)です! バンド幅を「狭く」すると、1画素に割り当てられる周波数幅(Hz/pixel)が小さくなります。すると、水と脂肪の周波数差(Hz)が、より多くの画素数にまたがってズレてしまうため、アーチファクトは大きくなります。 軽減させるには、バンド幅を「広く」しなければなりません。
4.周波数エンコード数を増やす。
- ❌ 誤り
- マトリクス(画素数)を増やして高精細にしても、物理的な周波数のズレ自体は解消されません。むしろ画素サイズが小さくなることで、ズレが目立ちやすくなることもあります。
5.静磁場強度が高い装置を使用する。
- ❌ 誤り
- これも逆効果(悪化)です! 水と脂肪の周波数差(3.5 ppm)は、磁場強度に比例して開きます。 1.5T装置よりも3.0T装置の方が、周波数の差(Hz)は2倍になり、アーチファクトも2倍ひどくなります。
出題者の“声”

この問題は、原理を理解しておらんと、選択肢3や5の「逆ひっかけ」にやられるぞ。
一般的に「バンド幅を狭くする」「高磁場装置を使う」というのは、画質(S/N比)を良くするための正攻法じゃ。 しかし、化学シフトに関してはこれが逆効果になる。
理屈はシンプルじゃ。 まず、「高磁場ほど、水と脂肪の周波数差(Hz)は広がる」。だからズレは大きくなる。 次に、「バンド幅を狭くすると、1画素あたりの許容量(Hz)が小さくなる」。だから同じ周波数差でも、何画素分もまたいでズレてしまう。
これらを防ぐには、「低磁場にする」か「バンド幅を広げる(画質は少しザラつくが)」しかない。 だが一番手っ取り早いのは、そもそもズレる原因である「脂肪の方を消してしまう(抑制する)」ことじゃ。 これが最もスマートな解決策じゃよ。
臨床の“目”で読む

現場では、このアーチファクトの特性を考えながら、技師がコントロールしています。 特に重要なのが「出る方向」と「例外」です。
- 「ズレる方向」を操れ!
- 通常の撮影(SE法など)において、化学シフトは「周波数エンコード方向」に出ます。 例えば、脊椎(背骨)のMRIを撮る時、もしズレる方向が「頭足方向(縦)」だと、椎体の終板(骨と椎間板の境界)がアーチファクトで歪んで見えてしまい、診断の邪魔になります。 そこで、周波数エンコード方向を「左右方向(横)」などに設定変更します。 こうすれば、ズレは横に出るので、大事な椎体の上下のラインはきれいに保たれます。 「アーチファクトを消す」だけでなく、「邪魔にならない方向に逃がす」ことも重要です。
- 基本は「周波数方向」に出る…だが例外が!
- 「化学シフトは周波数エンコード方向に出る」これはSE法などの基本ルールです。 しかし、拡散強調画像(DWI)などで使われるEPI法(エコープラナー法)だけは例外です!
- EPI法では、「位相エンコード方向」に、しかも巨大なズレとして出現します。 通常のMRIなら数ピクセルのズレで済むものが、EPIでは数センチメートルもズレてしまうことがあるのです。 だからこそ、DWIを撮る時は「強力な脂肪抑制(Fat Sat)」が不可欠なんです。
今日のまとめ
- 化学シフト:水と脂肪の周波数のズレ。対策は「脂肪抑制」「バンド幅を広く」「低磁場」。
- EPI法(DWI)の例外:化学シフトは「位相方向」に巨大なズレとして出るため、脂肪抑制が必須。
- 折り返し:FOV不足。対策は「FOV拡大」「オーバーサンプリング」。
- モーション:体の動き。対策は「位相エンコード方向の変更」「同期」。
- 磁化率:金属や空気による磁場の乱れ。対策は「FSE法」「TE短縮」。



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