【第76回 午前 36】乳がん放射線治療の秘密!選択肢に隠された罠とは?

放射線治療技術学

乳癌に対する放射線治療で正しいのはどれか。

  1. 外部放射線治療における軽症の急性期放射線皮膚炎に対して抗生剤を使用する。
  2. 乳房部分切除術後の予防的放射線治療では健側の全乳房を照射範囲に含める。
  3. 乳房全切除術後の予防的外部放射線治療における投与線量は、1回 2 Gy で総線量 40 Gy である。
  4. 腋窩リンパ節転移が 4 つ以上ある症例において術後外部放射線治療で領域リンパ節(鎖骨上)を含める。
  5. 乳房部分切除術後に対する予防的外部放射線治療における投与線量は、1回 2 Gy で総線量 40 Gy である。

出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)


4.腋窩リンパ節転移が 4 つ以上ある症例において術後外部放射線治療で領域リンパ節(鎖骨上)を含める。


解説

✔ 「4個以上」はハイリスク! エリア拡大のサイン

乳がんの手術で「腋窩(わき)のリンパ節」に転移が見つかった場合、その数が治療方針を大きく左右します。

  • 転移 0個:再発リスク低。乳房(または胸壁)のみ照射。
  • 転移 1〜3個:グレーゾーン。患者さんの年齢やがんの性質を見て、エリアを広げるか決める。
  • 転移 4個以上超ハイリスク。がん細胞がリンパに乗って鎖骨の方まで逃げている可能性が高い。 ➡ そのため、「鎖骨上リンパ節」まで照射範囲(マントルを変えるイメージ)に含めることが強く推奨されています。

これが「N2期(転移4〜9個)」以上の治療ガイドラインです。 この「4」という数字は、放射線腫瘍医にとっての常識的なボーダーラインなのです。


✔ 各選択肢について

1.外部放射線治療における軽症の急性期放射線皮膚炎に対して抗生剤を使用する。

  • 誤り
  • 皮膚が赤くなったりヒリヒリしたりする(日焼けのような)状態に、抗生物質は使いません。
  • 基本は「保湿剤(ヒルドイドなど)」や、炎症を抑える「ステロイド軟膏」を使います。
  • 抗生剤を使うのは、皮膚が破れて「細菌感染(化膿)」を起こした場合だけです。

2.乳房部分切除術後の予防的放射線治療では健側の全乳房を照射範囲に含める。

  • 誤り
  • 「健側(がんがない方の胸)」に放射線を当ててはいけません!
  • 放射線は発がんリスクもゼロではないため、正常な乳房への被ばくは極力避けるのが鉄則です。照射するのは「患側(病気があった側)」のみです。

3.乳房全切除術後の予防的外部放射線治療における投与線量は、1回 2 Gy で総線量 40 Gy である。

  • 誤り
  • 計算してみましょう。 「1回 2 Gy で 40 Gy」ということは、「20回照射」です。 乳がんの標準的な治療(通常分割照射)は、「1回 2 Gy × 25回 = 総線量 50 Gy」です。
  • 最近流行りの「寡分割照射(短期間で終わらせる方法)」だとしても、「1回 2.66 Gy × 16回 = 42.56 Gy」などが標準であり、「2Gyで40Gy」という設定は通常行いません。

4.腋窩リンパ節転移が 4 つ以上ある症例において術後外部放射線治療で領域リンパ節(鎖骨上)を含める。

  • 正解
  • 前述の通り、転移個数が多い(4個以上)場合は、再発予防のために鎖骨上窩までエリアを広げて照射します(領域リンパ節照射:RNI)。

5.乳房部分切除術後に対する予防的外部放射線治療における投与線量は、1回 2 Gy で総線量 40 Gy である

  • 誤り
  • 選択肢3と同様です。

出題者の“声”

この問題は、学生にとっては厳しいかもしれんのう。 普通は「乳房温存療法=50Gy」と覚えて終わりじゃからな。

じゃが、現場に出れば「鎖骨上窩照射(鎖骨上野)」のオーダーは日常茶飯事じゃ。 その時、「なんでこの患者さんは胸だけじゃなくて、首の付け根まで当てるんだろう?」と疑問に思えるかどうか。

それが「リンパ節転移の数」とリンクしておることを知ってほしくて、あえてこの問題を出したんじゃ。 「4個以上なら広範囲」。これだけはしっかり覚えるんじゃ。


臨床の“目”で読む

現場の技師にとって、この「鎖骨上」を含めるかどうかは、非常に重要なポイントです。

  • 位置合わせがシビアになる
    • 乳房だけなら多少ズレても命に関わりませんが、「鎖骨上」を狙うとなると話は別です。 すぐ近くには「肺尖部」や「腕神経叢(腕の神経の束)」があります。 もしズレて神経に当たりすぎると、腕がしびれたり動かなくなったりする後遺症が出てしまいます。 だから、鎖骨上照射がある患者さんの位置合わせ(セットアップ)は、一段と慎重になります。
  • 照射野のつなぎ目(マッチライン)
    • 「胸の照射野」と「鎖骨上の照射野」をつなげて照射する場合、そのつなぎ目(マッチライン)に、線量が重なりすぎて「ホットスポット」ができたり、逆に隙間が空いて「コールドスポット」ができたりしないように、「ハーフビーム法」などのテクニックを使います。

今日のまとめ

  1. 転移4個以上はハイリスク ➡ 鎖骨上リンパ節も照射する。
  2. 乳がんの標準線量は 50 Gy / 25回(2 Gy/回)。
  3. 皮膚炎に抗生剤は使わない(基本は保湿・ステロイド)。
  4. 健側(反対側)の乳房は絶対に照射しない。

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