X線の細胞への影響で正しいのはどれか。
- 殺細胞効果は細胞周期S期後期で高い。
- 悪性腫瘍細胞のα/β値は低いものが多い。
- DNAの一重鎖切断よりも二重鎖切断を主に起こす。
- 総線量が同じならば1回照射と比較して2分割照射では細胞生存率は低い。
- 低酸素状態にある悪性腫瘍では1回照射より分割照射で殺細胞効果が高い。
出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)
5.低酸素状態にある悪性腫瘍では1回照射より分割照射で殺細胞効果が高い。
解説
✔ がんの弱点「酸素」を補給せよ!(再酸素化)
がん細胞は急速に成長するため、血管が追いつかず、中心部は酸素不足(低酸素)になっています。 放射線は「酸素」があると、殺細胞効果が約2.5〜3倍に跳ね上がります(酸素効果)。逆に言うと、低酸素のがん細胞は「放射線が効きにくい(無敵モード)」なのです。
ここで「分割照射」が効きます。
- 1回目の照射:表面の「酸素がいっぱいある細胞」だけが死ぬ。
- 休憩期間:腫瘍が少し縮むことで、奥の「低酸素細胞」に血管が近づき、酸素が供給される(再酸素化)。
- 2回目の照射:酸素を得て「無敵モード」が解除された細胞を一網打尽にする!
これを繰り返すことで、1回でまとめて当てるよりも、結果的に多くのがん細胞を殺すことができます。
これが正解の 5番 です。
✔ 各選択肢について
1.殺細胞効果は細胞周期S期後期で高い。
- ❌ 誤り
- 細胞周期の中で、S期(DNA合成期)後半は最も放射線に強い(抵抗性)時期です。
- 逆に、M期(分裂期)が最も弱い(感受性が高い)です。「分裂中は無防備」と覚えましょう。
2.悪性腫瘍細胞のα/β値は低いものが多い。
- ❌ 誤り
- α/β値(アルファ・ベータ値)は、「放射線への反応の速さ」を表す数字です。
- がん細胞や早期反応組織(皮膚・粘膜)は、細胞分裂が速いので「高い(約10Gy)」です。
- 逆に、晩期反応組織(神経・腎臓など)は「低い(約3Gy)」です。
3.DNAの一重鎖切断よりも二重鎖切断を主に起こす。
- ❌ 誤り
- X線のような低LET放射線は、DNAに対して無数の「ひっかき傷(一本鎖切断)」を作ります。
- 完全にバチンと切れる「二重鎖切断(DSB)」は、一本鎖切断に比べて圧倒的に少ないです(確率は低いが、起きたら致命的)。
4.総線量が同じならば1回照射と比較して2分割照射では細胞生存率は低い。
- ❌ 誤り
- 放射線を2回に分けると、その間の休憩時間に細胞がダメージを修復してしまいます(亜致死損傷の回復)。
- そのため、1回でドカンと当てるよりも、分割した方が細胞は生き残りやすくなります(生存率は高い)。
- 「じゃあダメじゃん!」と思うかもしれませんが、「がん細胞よりも正常細胞の方が回復力が高い」ため、正常組織を守るためにあえて分割するのです。
出題者の“声”

この問題は、「放射線治療の生物学的根拠(4つのR)」を理解しているか試しておる。
「なぜ治療期間が1ヶ月以上もかかるんですか?」 患者さんのこの問いに、どう答えるか?
「分割することで、正常な細胞には回復する時間を与え(修復)、がん細胞には酸素を行き渡らせて叩きやすくする(再酸素化)。このサイクルを回すために、毎日少しずつ当てる必要があります。」
治療スケジュールの意味を、生物学の視点から語れるようになってほしいんじゃよ。
臨床の“目”で読む

この知識は、治療計画の現場で非常に重要です。
- 「寡分割照射」の有効性
- 解説で「分割すると生存率が上がる(効きが悪くなる)」と言いました。しかし最近は、前立腺がんや肺がんなどで、あえて回数を減らして1回量を増やす「寡分割照射」が増えています。 これは、前立腺がんなどのα/β値が例外的に低い(正常組織に近い)ため、「ちまちま分割するメリットが少ないから、一気に叩こう!」という戦略です。
- 貧血の患者さんは要注意
- 「酸素効果」の知識があれば、治療中の「貧血」が大敵であることがわかります。ヘモグロビンが低いと、がん細胞に酸素が運ばれず、放射線の効きが悪くなってしまいます。だから放射線腫瘍医は、治療中の採血データを気にしますし、場合によっては輸血をすることもあります。「ただの貧血」と思わず、「治療効果を下げる要因」として見ることができるか。ここがポイントです。
今日のまとめ
- 再酸素化(Reoxygenation):分割して腫瘍を削ると、奥に酸素が届いて効きやすくなる(低酸素がんに有効)。
- 修復(Repair):分割すると、正常細胞が回復する(生存率が上がる)。
- 再分布(Redistribution):分割すると、効きやすいM期に細胞が進んでくる。
- 再増殖(Repopulation):治療期間が長すぎると、がんが増えてしまう(これはデメリット)。



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