陽子線の水に対する質量阻止能とエネルギーとの関係を図に示す。
10 MeV 重陽子線の水に対する質量阻止能 [MeV・cm2・g-1] に最も近いのはどれか。

- 20
- 30
- 50
- 80
- 100
出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)
4.80
解説
✔ ステップ1:陽子と重陽子の違いを知る
まず、登場人物のスペックを確認します。
- 陽子:重さ「1」、電気「+1」
- 重陽子:陽子1個+中性子1個なので、重さは「2」、電気は陽子と同じ「+1」です。
質量阻止能(ブレーキのかかりやすさ、周囲に落とすエネルギーの量)は、粒子の「電気の大きさ」と「スピード(速度)」だけで決まります。 陽子も重陽子も、電気は同じ「+1」です。 ということは、「スピードが同じなら、陽子も重陽子も質量阻止能は全く同じになる」という超重要ルールが成り立ちます。
✔ ステップ2:ダンプカーと軽自動車のスピード勝負
問題は「10 MeV の 重陽子」です。 この重陽子と「同じスピード」で走っている陽子を探せば、グラフが使えることになります。
ここで、運動エネルギーの公式「エネルギー = 1/2 × 質量(m) × 速度の2乗(v2) 」を思い出してください。 同じ 10 MeV というエネルギー(馬力)を持っていても、重陽子は重さが2倍(ダンプカー)なので、陽子(軽自動車)よりもスピードが遅くなります。
ダンプカー(重さ2)と軽自動車(重さ1)を「同じスピード」で走らせるにはどうすればいいでしょうか? 当然、ダンプカーには軽自動車の「2倍の馬力(エネルギー)」が必要です。 逆に言えば、「ダンプカー(重陽子)の半分のエネルギーを持った軽自動車(陽子)が、ちょうど同じスピードになる」のです。
- 10 MeV の 重陽子(重さ2)
- = 5 MeV の 陽子(重さ1)
これで変換完了です! 「10 MeVの重陽子」の質量阻止能は、「5 MeVの陽子の質量阻止能」と完全に一致します。
✔ ステップ3:対数グラフを正しく読む
あとは、グラフの横軸で「5 MeV」の場所を探し、縦軸の値を読むだけです。 しかし、このグラフはメモリの幅が等間隔ではない「対数グラフ」です。
- 横軸(エネルギー):10の0乗は「1」、10の1乗は「10」です。その間にある縦線は、左から 2, 3, 4, 5… と数えます。
- 縦軸(質量阻止能):10の1乗は「10」、10の2乗は「100」です。その間にある横線は、下から 20, 30, 40… と数えます。
グラフの横軸で「5(10の0乗と10の1乗の中間より少し右の線)」の場所を上にたどります。 斜めの直線とぶつかったところから、今度は左に水平にたどって縦軸を読みます。 すると、10の2乗(100)の少し下、「80」のラインに重なることがわかります。
出題者の“声”

この問題は、グラフを思考停止で読まず、「粒子の物理的背景を想像できているか」を試しておる。
「グラフがある! 10 MeV だからここを読んで…答えは40くらい? あれ、選択肢にないぞ?」 とパニックになった者は、私の仕掛けた罠にどっぷり浸かっておる証拠じゃ。
阻止能というのは、粒子の「速度(v)」に反比例して大きくなる(Betheの式)。 エネルギー(E)ではなく、速度(v)が主役なんじゃよ。 だから、違う重さの粒子を比較するときは、「エネルギーを核子数(重さ)で割って、同じ速度の条件にそろえる(エネルギー/核子)」という一手間が絶対に必要になる。 この「変換の儀式」を知っている者だけが、正しい数値に辿り着ける問題というわけじゃ。
臨床の“目”で読む

この「速度が遅くなると阻止能が上がる」という性質は、最先端の「粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)」の心臓部です。
粒子線が患者さんの体に入った直後は、スピードが速いので阻止能は低く(グラフの右側)、エネルギーをあまり落としません。 しかし、体の奥深くに差し掛かり、徐々にスピードが落ちてくると、一気に阻止能が跳ね上がります(グラフの左側に移動する)。 そして止まる直前に、持っているエネルギーをドカン!と爆発的に放出します。
これを「ブラッグピーク」と呼びます。 正常な組織にはあまりダメージを与えず、体の深いところにある「がん」の場所でピンポイントに爆発させる。このような治療ができるのは、今日解いた「阻止能とスピードの関係」という物理法則が働いているからなのです。
今日のまとめ
- 阻止能(ブレーキ)の強さは、粒子の電気と「スピード」で決まる!
- 重陽子は陽子の「2倍の重さ」。
- 同じスピードにするには、エネルギーを半分にする。
- 「10 MeV の重陽子」 = 「5 MeV の陽子」


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