LET で正しいのはどれか。
- 単位は m-1 である。
- 荷電粒子の電荷の2乗に反比例する。
- 荷電粒子の運動エネルギーに比例する。
- カットオフエネルギーが無限大のとき線衝突阻止能と同義である。
- 単位質量当たりに付与する全エネルギーが同じとき LET は等しい。
出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)
4.カットオフエネルギーが無限大のとき線衝突阻止能と同義である。
解説
✔ ステップ1:「阻止能」と「LET」の違いを知る
放射線が物質の中を進むとき、エネルギーをどう扱うかで2つの見方があります。
- 阻止能:放射線自身が、1cm進むごとに「いくらエネルギーを失ったか(落としたか)」。
- LET(線エネルギー付与):放射線が、1cm進むごとに、その場所(局所)の細胞に「いくらエネルギーを与えたか」。
「落とした分だけ、そこに与えたことになるんじゃないの?」と思いますよね。 実は、違うんです。ここに「デルタ線(二次電子)」という厄介者が登場します。
放射線がぶつかって弾き飛ばされた電子(デルタ線)が、ものすごいスピード(高いエネルギー)を持っていると、その場に留まらず、遠くの別の場所まで飛んでいってしまいます。
つまり、「放射線がここで落としたエネルギー」 ≠ 「ここに与えられたエネルギー」 になってしまうのです。
✔ ステップ2:カットオフエネルギー(足切りライン)とは?
お財布からお金を落とした(阻止能)とします。 重い「小銭」は足元に落ちますが、軽い「一万円札」は風に乗って遠くへ飛んでいってしまいます。 足元(局所)に落ちたお金(LET)を数えたいとき、遠くへ飛んでいった一万円札を含めてしまうと、正確な計算になりません。
そこで物理学者はルールを決めました。 「〇〇円(〇〇 eV)以上のお金(エネルギー)を持った電子は、遠くに飛んでいくから、ここでのLETの計算からは除外(足切り)しよう!」
この足切りラインのことを「カットオフエネルギー(Δ:デルタ)」と呼びます。 そして、この足切りルールを適用して計算したLETを「制限LET」と呼びます。
✔ ステップ3:カットオフエネルギーが「無限大」になったら?
もし、この足切りライン(カットオフエネルギー)を「無限大(∞)」に設定したらどうなるでしょうか?
それはつまり、「どれだけ高額なお札(エネルギー)であっても、絶対に足切りしない(すべて足元に落ちたとみなす)」という強引なルールです。 遠くへ飛んでいく分を除外しないのですから、結果として「お財布から落とした全額(阻止能)」 = 「足元に落ちた全額(LET)」 になります。
物理の言葉で言えば、「カットオフエネルギーが無限大(Δ=∞)のとき、LET(L∞)は線衝突阻止能と同義になる」のです。
✔ 各選択肢について
1.単位は m-1 である。
- ❌ 誤り
- LETは「単位長さあたりに与えるエネルギー」なので、単位は keV/μm や J/m などになります。
- m-1(毎メートル)は、X線などの「線減弱係数」の単位です。
2.荷電粒子の電荷の2乗に反比例する。
- ❌ 誤り
- 電荷(プラスやマイナスの電気の強さ)が大きいほど、周りの電子を強く引っ張る(ブレーキが強くかかる)ため、LETは大きくなります。反比例ではなく「比例」します。
3.荷電粒子の運動エネルギーに比例する。
- ❌ 誤り
- スピード(運動エネルギー)が速いほど、あっさりと通り抜けてしまうため、周りにエネルギーを与えるヒマがありません。比例ではなく、おおよそ「反比例」します。
5.単位質量当たりに付与する全エネルギーが同じとき LET は等しい。
- ❌ 誤り
- 「単位質量あたりに付与する全エネルギー」は、LETではなく「吸収線量(Gy:グレイ)」のことです。
- 吸収線量が同じ(例:全体で10 Gy)であっても、X線のようにパラパラと広く与えるか(低LET)、アルファ線のように一直線にドカンと与えるか(高LET)で、LETの値は全く異なります。
出題者の“声”

この問題は、LETという言葉を「ただの暗記」で済ませているか、それとも「物理的なストーリー」として理解しているかを試しておる。
「デルタ線」という、エネルギーを持ち逃げする泥棒の存在。 それをどこまで許容するかという「カットオフエネルギー」の概念。 この2つを知らなければ、なぜわざわざ「制限LET」という面倒な指標が存在するのか理解できんじゃろう。
「無限大なら阻止能と同じになる」というフレーズは、数式を丸暗記しても意味がない。 「持ち逃げを一切考慮しないなら、落とした分がそのまま付与された分になる」という、理屈を理解しているか。そこを問うているんじゃよ。
臨床の“目”で読む

「なぜわざわざ、遠くに飛んでいくエネルギーを除外した制限LETなんて考えるの?」 と思うかもしれません。 実はこれ、「細胞のDNAをどれくらい確実に壊せるか」を評価するために絶対に必要な考え方なのです。
放射線治療において重要なのは、「DNAの二重らせん構造」という直径わずか数ナノメートルの極小ターゲットを破壊することです。 もし、デルタ線が数マイクロメートルも遠くへ飛んでいってしまったら、それは「狙ったDNA」には当たっていません。 つまり、生物学的なダメージ(RBE:生物学的効果比)を正確に予測するためには、「DNAのすぐそば(局所)に落ちたエネルギーだけをカウントする(制限LET)」必要があるのです。
物理の「足切り」ルールは、細胞レベルのミクロな治療効果を予測するための、臨床直結のツールなのです。
今日のまとめ
- 阻止能 = 放射線が「失った」エネルギー。
- LET = その場に「与えた」エネルギー。
- 遠くへ持ち逃げするエネルギー(デルタ線)を除外するラインが「カットオフエネルギー」。
- カットオフエネルギーが無限大(除外しない)なら、LET = 阻止能 になる!
- LETは、電気の強さ(電荷の2乗)に比例し、スピード(運動エネルギー)に反比例する!


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