第77回 午後 29

放射線治療技術学

直線加速器で平坦な線量プロファイルを期待して測定したところ,図のような線量プロファイル(実線)が得られた。考えられる原因はどれか。

  1. X線出力が不足していた。
  2. コリメータが非対称に開口していた。
  3. コリメータの下に意図しない構造物が入っていた。
  4. 照射野サイズに対応しない平坦化フィルタを使用していた。
  5. X線のエネルギーに対応しない平坦化フィルタを使用していた。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.コリメータの下に意図しない構造物が入っていた。


解説

✔ 線量プロファイルの異常:形状から原因を読み解く 📉

放射線治療の品質管理(QA)において、線量プロファイル(ビームの強度分布)が平坦であることは、均一な線量を照射するための基本条件です。 提示されたプロファイルは、平坦ではなく、片側に向かって直線的になだらかに低下しています。これは「左右非対称」な異常です。

✔ なぜ傾斜が起こるのか?

プロファイルの形状異常を考えるとき、まず「左右対称」か「左右非対称」かを見極めることが重要です。

  • 左右対称の異常(例: 中央が落ち込む、両端が高すぎる”ホーン”)
    • ビームの中心軸上で、左右対称に配置されている部品(例: 平坦化フィルタ)の不適合などが原因として考えられます。
  • 左右非対称の異常(例: 片側への傾斜)
    • ビームの片側だけを部分的に遮蔽する何かが、ビームの通り道に入り込んでいる可能性が極めて高いです。

この思考プロセスから、最も可能性が高い原因は、コリメータの下(患者側)に、意図しない構造物が片側だけはみ出している状況だと推測できます。


✔ 各選択肢について

1. X線出力が不足していた。

  • 誤り
  • プロファイルの形状は変わらず、全体の線量値だけが低くなります。

2.コリメータが非対称に開口していた。

  • 誤り
  • 照射野の中心がズレたり、左右の半影(エッジ)の形が非対称になったりしますが、平坦部が全体的に傾く原因にはなりにくいです。

3.コリメータの下に意図しない構造物が入っていた。

  • 正解
  • ウェッジトレイの縁や固定金具などがビームの片側にわずかにはみ出すと、その部分が連続的に減弱され、プロファイルに傾きが生じます。

4.照射野サイズに対応しない平坦化フィルタを使用していた。

  • 誤り
  • 照射野サイズとフィルタが不適合な場合、過剰なホーンや中央の落ち込みといった、左右対称の形状異常が生じるのが典型的です。

5.X線のエネルギーに対応しない平坦化フィルタを使用していた。

  • 誤り
  • これも同様に、左右対称の形状異常の原因となります。

出題者の“声”

この問題は、ただの暗記では太刀打ちできない、品質管理におけるトラブルシューティングの思考力を問うておる。

プロファイルの異常を見たとき、その「形状」にこそ原因を突き止めるヒントが隠されておるのじゃ。

「対称な異常か、非対称な異常か?」――まず、ここを見極めるのが鉄則。

「対称な異常」なら、フィルタのような対称な部品を疑う。「非対称な異常」なら、片側だけを遮るような非対称な原因を疑う。

「プロファイルが傾いている」→「非対称な異常だ」→「何かが片側を邪魔しているな」と連想できれば、答えは自ずと3番に絞られる。現場での物理学とは、こういう思考プロセスのことじゃ。


臨床の“目”で読む

日々のQAでこのようなプロファイルの傾きを発見した場合、以下の手順で原因を特定していきます。

  1. 目視点検
    • まずリニアックの照射ヘッド周りをよく観察し、ウェッジトレイやシャドウブロックトレイの縁、固定金具、自作の固定具などがはみ出していないかを確認します。
  2. アクセサリを外して再測定
    • 目視で原因が分からなければ、トレイなどの付属品をすべて取り外した状態で再度測定し、問題が付属品にあるのか、装置本体にあるのかを切り分けます。
  3. 基本パラメータの確認
    • それでも傾きが解消されない場合、水ファントムの水平やガントリ角度の精度など、測定系の基本的なセッティングを再確認します。
  4. 原因解消と再QA
    • 原因を特定・解消した後、再度QAを行って正常な状態であることを確認し、臨床使用を再開します。

このような異常を放置すると、腫瘍内の線量分布が不均一になったり、隣接するリスク臓器に想定外の線量が当たったりする危険があるため、原因が特定されるまで臨床照射を一時停止するのが安全管理の原則です。


今日のまとめ

  1. 線量プロファイルが片側へ傾斜している場合、ビームの片側が部分的に遮蔽されていることが最も有力な原因である。
  2. 具体的には、コリメータの下にトレイの縁や固定具などが意図せずはみ出しているケースが多い。
  3. 平坦化フィルタの不適合左右対称の異常(中央落ち、過度のホーン)を、コリメータの非対称開口は照射野の端(エッジ)の異常を引き起こしやすい。
  4. 臨床現場(QA)で異常を発見した際は、目視点検 → アクセサリ除去 → 再測定という手順で原因を切り分ける。

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