呼吸器核医学検査で正しいのはどれか。2つ選べ。
- ⁹⁹ᵐTc–MAA は脳への生理的集積を認める。
- 右左シャントが疑われる場合は全身像を撮影する。
- 肺高血圧症では ⁹⁹ᵐTc–MAA の集積が上肺野で欠損する。
- 肺塞栓症では ⁸¹ᵐKr と ⁹⁹ᵐTc–MAA の集積ミスマッチを起こす。
- ⁹⁹ᵐTc–MAA の投与時は注射器内への血液の逆流があることを確認する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
2.右左シャントが疑われる場合は全身像を撮影する。
4.肺塞栓症では ⁸¹ᵐKr と ⁹⁹ᵐTc–MAA の集積ミスマッチを起こす。
解説
✔ 呼吸器核医学検査の基本構成
肺機能評価のために、以下2つの検査を組み合わせます:
- 換気シンチグラフィ(⁸¹ᵐKrなど)→ 空気の通り(換気)の様子を見る。
- 灌流シンチグラフィ(⁹⁹ᵐTc–MAA)→ 血流(灌流)の分布を見る。
この2つの画像を重ねて評価することで、肺塞栓症やシャントの有無などを判断します。
✔ 各選択肢について
1. ⁹⁹ᵐTc–MAA は脳への生理的集積を認める。
- ❌ 誤り
- 通常、⁹⁹ᵐTc–MAA は肺に集積し、脳に生理的集積は見られません。
- 脳集積があれば右左シャントなどの病的所見です。
2.右左シャントが疑われる場合は全身像を撮影する。
- ✅ 正解
- MAA粒子が肺を通過し、脳や全身に回る異所性集積があれば右左シャントの可能性があります。
- 全身像で確認します。
3.肺高血圧症では ⁹⁹ᵐTc–MAA の集積が上肺野で欠損する。
- ❌ 誤り
- 肺高血圧症は、肺動脈の抵抗が亢進し、末梢の小血管が狭窄・閉塞していく疾患です。
- このため、肺全体の灌流は低下しますが、比較的下肺野の血流が保たれやすく、上肺野への血流がむしろ相対的に増加する(再分布)傾向がみられます。
- つまり、肺高血圧症では「上肺野の集積が欠損する」のではなく、下→上への血流再分布によって、むしろ上肺野が目立ってくることがあります。
4.肺塞栓症では ⁸¹ᵐKr と ⁹⁹ᵐTc–MAA の集積ミスマッチを起こす。
- ✅ 正解
- 肺塞栓症(PE:Pulmonary Embolism)では、肺動脈が塞栓によって閉塞され、該当部位の血流が途絶します。
- 換気シンチグラフィ(⁸¹ᵐKr)では、空気は正常に肺胞まで届くため、換気は保持されます。
- 一方、灌流シンチグラフィ(⁹⁹ᵐTc–MAA)では、血流が途絶した領域に集積が見られなくなります。
- このように、換気は正常なのに、灌流が欠損しているという“換気–灌流(V/Q)ミスマッチ”は、肺塞栓症に特有の典型的所見です。
5.⁹⁹ᵐTc–MAA の投与時は注射器内への血液の逆流があることを確認する。
- ❌ 誤り
- ⁹⁹ᵐTc–MAAを含む放射性医薬品を静脈注射する際、注射器内への血液の逆流は厳禁です。
- MAAは微細な粒子が凝集した状態のため、逆流した血液と混ざることで凝集・塊化を起こしやすく、それにより注射器の閉塞や、最悪の場合肺血管の塞栓といった合併症を引き起こすリスクがあります。
- 正しい手順は、注射器を静脈ラインに接続後、軽く押して逆流がないことを確認する、そして血管内に確実に流入する状態で、無理なく投与することが原則です。
出題者の“声”

この問題では、呼吸器核医学の基本中の基本──“換気シンチ”と“灌流シンチ”の目的と読み方が、きちんと身についておるかを確認したかったのじゃ。
特に押さえておきたいのは、
「V/Qミスマッチ=肺塞栓症のサイン」、
そして「右左シャントでは、MAAが肺を通らず脳や腎臓に異所性集積する」という鉄板知識じゃ。
引っかけとしては、「脳への集積=正常?」」や「血液の逆流を確認する?」」といった、もっともらしく聞こえるが実は誤りという選択肢を用意しておったのじゃよ。
実際の手技でも、“いつものルーチン”としてやっていることを、きちんと理由をもって説明できるかどうか。それが、現場で信頼される放射線技師=合格レベルの技師というわけなんじゃな。
臨床の“目”で読む

肺塞栓症(PE)の診断では、V/Q ミスマッチがあるかどうかが非常に重要な判断ポイントです。
換気が保たれているのに血流が欠けている場合は、血管の閉塞=肺塞栓の可能性が高くなります。
一方で、右左シャントの評価では観点が異なります。
⁹⁹ᵐTc–MAAが肺を通らず、そのまま全身に飛んでいくような場合は、脳・腎・末梢への異所性集積として現れます。このため、右左シャントでは“全身像の撮影”が必須になるのです。
また、見落とされがちですが重要なのが、注射時の“逆流厳禁”ルールです。
MAAは微粒子製剤であるため、血液が注射器に逆流すると凝集しやすく、粒子が塊になる危険があります。この塊が肺に入れば、本来の検査目的とは逆に人工的な塞栓を起こしてしまう可能性すらあるのです。
だからこそ、“知っている”だけではなく、「なぜそれをやってはいけないのか」まで理由を説明できるかどうかが、実際の臨床現場では求められる力です。
キーワード
- ⁹⁹ᵐTc─MAA(肺血流シンチ)
- ⁸¹ᵐKr換気シンチ
- V/Q ミスマッチ
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