骨髄移植の前処置で行われる放射線治療はどれか。
- 全脳照射
- マントル照射
- 全身X線照射
- 全身電子線照射
- 全脳全脊髄照射
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
3.全身X線照射
解説
✔ 骨髄移植前処置における放射線治療の役割
骨髄移植を成功させるためには、移植前に患者さん自身の体に対して、化学療法や放射線治療を行います。この「前処置」には、主に以下の3つの重要な目的があります。
- 造血機能の抑制(骨髄破壊):患者さん自身の骨髄を空にし、ドナーから提供される新しい造血幹細胞が根付く(生着する)ためのスペースを作る。
- 免疫抑制:移植された細胞が、患者さんの免疫系によって拒絶されるのを防ぐ。
- 残存腫瘍細胞の根絶:体内に残っている可能性のある微小な腫瘍細胞を根絶する。
この目的を達成するために、全身にわたって効果を及ぼす必要があるため、「全身X線照射(TBI: Total Body Irradiation)」が用いられます。
✔ 各選択肢について
1. 全脳照射
- ❌ 誤り
- 主に脳転移や、白血病が中枢神経系へ広がるのを防ぐ目的(中枢神経浸潤の予防・治療)で行われる局所照射。
2.マントル照射
- ❌ 誤り
- ホジキンリンパ腫などに対して、頸部・腋窩・縦隔といった上半身のリンパ節領域を「マント」のように覆う、古典的な領域照射。
3.全身X線照射
- ✅ 正解
- 骨髄移植の前処置として、造血機能抑制、免疫抑制、腫瘍制御の目的で行われる。
- 通常、総線量10~12Gyを1日2回、数日間に分けて照射。
4.全身電子線照射
- ❌ 誤り
- 電子線は体内での飛程が短く、深部まで到達しない。
- そのため、皮膚に限局した病変に対して全身の皮膚に照射する目的(TSEI: Total Skin Electron Irradiation)で用いられる。
5.全脳全脊髄照射
- ❌ 誤り
- 脳と脊髄全体を一つの照射野に収める治療法で、髄芽腫や白血病など、脳脊髄液を介して播種(はしゅ)するリスクが高い腫瘍の治療・予防に用いられる領域照射。
出題者の“声”

この問題では、数ある放射線治療法の中から「目的」と「適応」を正しく結びつけて理解できているかを試したかったのじゃ。
ポイントは「骨髄移植の前処置」という目的じゃな。これは、新しい造血幹細胞が根付くように、体全体の下地を整える治療じゃ。そのためには、全身の骨髄に線量を届ける必要がある。
そうなると、まず全脳照射やマントル照射のような「局所」や「領域」を対象とする治療は選択肢から外れる。残るは「全身」と名のつくX線照射か電子線照射じゃが、ここで線種の物理的特性の知識が問われる。電子線は皮膚のすぐ下までしか届かん。全身の骨髄を叩くには、体を突き抜ける力を持つX線でなければならんのじゃ。
国家試験では、このように「治療目的」→「照射範囲」→「適切な線種」という思考プロセスを問う問題が頻出じゃ。それぞれの治療法を、目的とセットで整理しておくことが合格への近道じゃぞ。
臨床の“目”で読む

臨床現場において、TBI(全身X線照射)は極めて特殊な位置づけの治療です。これは、特定の腫瘍を叩くというよりも、「体を“入れ替える”ための準備」という、より大きな枠組みの中で行われます。
放射線技師がTBIに携わる際、最も重要なのは「なぜこの治療が必要なのか」という目的の深い理解です。
- なぜ全身なのか? → 骨髄は全身の骨に散在しており、微小な腫瘍もどこに潜んでいるか分からないから。
- なぜX線なのか? → 全身の深部にある骨髄まで、均一に線量を届ける必要があるから。
- なぜ分割照射なのか? → 一度に高線量を照射すると、肺などの正常臓器へのダメージ(特に間質性肺炎など)が大きすぎるため、線量を分割して晩期有害事象を軽減するため。
全脳照射や全脳全脊髄照射が「局所・領域制御」を目指すのに対し、TBIは「全身制御」と「移植環境の整備」という複合的な目的を持ちます。この目的の違いを理解していれば、各治療法の使い分けは明確になります。
日々の業務において、照射の目的と物理的な根拠を結びつけて考えられること。それが、高精度な治療を安全に実施し、患者さんを守る専門家としての責務です。
キーワード
- 骨髄移植(造血幹細胞移植)
- 全身X線照射(TBI)
- 全身電子線照射(TSEI)
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