第77回 午前 23

放射線治療技術学

骨髄移植の前処置で行われる放射線治療はどれか。

  1. 全脳照射
  2. マントル照射
  3. 全身X線照射
  4. 全身電子線照射
  5. 全脳全脊髄照射

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.全身X線照射


解説

✔ 骨髄移植前処置における放射線治療の役割

骨髄移植を成功させるためには、移植前に患者さん自身の体に対して、化学療法や放射線治療を行います。この「前処置」には、主に以下の3つの重要な目的があります。

  • 造血機能の抑制(骨髄破壊):患者さん自身の骨髄を空にし、ドナーから提供される新しい造血幹細胞が根付く(生着する)ためのスペースを作る。
  • 免疫抑制:移植された細胞が、患者さんの免疫系によって拒絶されるのを防ぐ。
  • 残存腫瘍細胞の根絶:体内に残っている可能性のある微小な腫瘍細胞を根絶する。

この目的を達成するために、全身にわたって効果を及ぼす必要があるため、「全身X線照射(TBI: Total Body Irradiation)」が用いられます。


✔ 各選択肢について

1. 全脳照射

  • 誤り
  • 主に脳転移や、白血病が中枢神経系へ広がるのを防ぐ目的(中枢神経浸潤の予防・治療)で行われる局所照射

2.マントル照射

  • 誤り
  • ホジキンリンパ腫などに対して、頸部・腋窩・縦隔といった上半身のリンパ節領域を「マント」のように覆う、古典的な領域照射

3.全身X線照射

  • 正解
  • 骨髄移植の前処置として、造血機能抑制免疫抑制腫瘍制御の目的で行われる。
  • 通常、総線量10~12Gyを1日2回、数日間に分けて照射。

4.全身電子線照射

  • 誤り
  • 電子線は体内での飛程が短く深部まで到達しない
  • そのため、皮膚に限局した病変に対して全身の皮膚に照射する目的(TSEI: Total Skin Electron Irradiation)で用いられ

5.全脳全脊髄照射

  • 誤り
  • 脳と脊髄全体を一つの照射野に収める治療法で、髄芽腫や白血病など、脳脊髄液を介して播種(はしゅ)するリスクが高い腫瘍の治療・予防に用いられる領域照射

出題者の“声”

この問題では、数ある放射線治療法の中から「目的」「適応」を正しく結びつけて理解できているかを試したかったのじゃ。

ポイントは「骨髄移植の前処置」という目的じゃな。これは、新しい造血幹細胞が根付くように、体全体の下地を整える治療じゃ。そのためには、全身の骨髄に線量を届ける必要がある。

そうなると、まず全脳照射やマントル照射のような「局所」「領域」を対象とする治療は選択肢から外れる。残るは「全身」と名のつくX線照射か電子線照射じゃが、ここで線種の物理的特性の知識が問われる。電子線は皮膚のすぐ下までしか届かん。全身の骨髄を叩くには、体を突き抜ける力を持つX線でなければならんのじゃ。

国家試験では、このように「治療目的」→「照射範囲」→「適切な線種」という思考プロセスを問う問題が頻出じゃ。それぞれの治療法を、目的とセットで整理しておくことが合格への近道じゃぞ。


臨床の“目”で読む

臨床現場において、TBI(全身X線照射)は極めて特殊な位置づけの治療です。これは、特定の腫瘍を叩くというよりも、「体を“入れ替える”ための準備」という、より大きな枠組みの中で行われます。

放射線技師がTBIに携わる際、最も重要なのは「なぜこの治療が必要なのか」という目的の深い理解です。

  • なぜ全身なのか? → 骨髄は全身の骨に散在しており、微小な腫瘍もどこに潜んでいるか分からないから。
  • なぜX線なのか? → 全身の深部にある骨髄まで、均一に線量を届ける必要があるから。
  • なぜ分割照射なのか? → 一度に高線量を照射すると、肺などの正常臓器へのダメージ(特に間質性肺炎など)が大きすぎるため、線量を分割して晩期有害事象を軽減するため。

全脳照射や全脳全脊髄照射が「局所・領域制御」を目指すのに対し、TBIは「全身制御」と「移植環境の整備」という複合的な目的を持ちます。この目的の違いを理解していれば、各治療法の使い分けは明確になります。

日々の業務において、照射の目的と物理的な根拠を結びつけて考えられること。それが、高精度な治療を安全に実施し、患者さんを守る専門家としての責務です。


キーワード

  • 骨髄移植(造血幹細胞移植)
  • 全身X線照射(TBI)
  • 全身電子線照射(TSEI)

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