第77回 午前 37

医療安全管理学

検査待ち合いで患者が床に倒れており、時折いびきのような音を立てて首を動かしている。呼びかけに対する反応はあいまいである。周囲に他の人はいない。対応で正しいのはどれか。

  1. 胸骨圧迫開始の前に院内緊急コールをする。
  2. 胸骨圧迫は1分間に50〜70回のテンポで行う。
  3. 呼吸しているので直ちに心肺蘇生を開始する必要はない。
  4. 1分間以上は肩を叩いて呼びかけ反応の有無を明確にする。
  5. 胸骨圧迫で心拍が再開しない場合にAEDの持参を依頼する。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1. 胸骨圧迫開始の前に院内緊急コールをする。


解説

✔ BLS(一次救命処置)の初期対応フロー(成人の場合)

  1. 周囲の安全確認
  2. 反応の確認:肩をたたき、「大丈夫ですか?」と大声で呼びかける。
  3. 応援を呼ぶ:反応がない、または普段通りでない場合、直ちに人を呼び、院内緊急コール(または119番通報)とAEDの手配を依頼する。
  4. 呼吸の確認:胸と腹部の動きを見て、普段通りの呼吸があるか10秒以内で確認する。
    • 注意点:設問にある「いびきのような音(死戦期呼吸)」は、心停止直後に見られる異常な呼吸であり、「呼吸なし」と判断します。
  5. 胸骨圧迫の開始:普段通りの呼吸がなければ、ただちに質の高い胸骨圧迫(速さ:100~120回/分、深さ:約5cm)を開始。

✔ 各選択肢について

1. 胸骨圧迫開始の前に院内緊急コールをする。

  • 正解
  • 救助者が一人の場合、まず応援を呼ぶこと(通報とAED手配)が最優先です。
  • 一人の力でできることには限界があり、応援チームやAEDをできるだけ早く現場に到着させることが、救命の鍵となります。

2.胸骨圧迫は1分間に50〜70回のテンポで行う。

  • 誤り
  • 質の高い胸骨圧迫のテンポは1分間に100~120回です。

3.呼吸しているので直ちに心肺蘇生を開始する必要はない。

  • 誤り
  • 「いびきのような呼吸」や「あえぐような呼吸」は死戦期呼吸といい、心停止のサインです。
  • 「普段通りの呼吸なし」と判断し、ただちに胸骨圧迫を開始しなければなりません。

4.1分間以上は肩を叩いて呼びかけ反応の有無を明確にする。

  • 誤り
  • 反応と呼吸の確認は、合わせて10秒以内で行います。
  • 1分も時間をかければ、その間に救命のチャンスは失われていきます。

5.胸骨圧迫で心拍が再開しない場合にAEDの持参を依頼する。

  • 誤り
  • AED(自動体外式除細動器)は、心停止の原因が電気ショックで治療可能な不整脈(心室細動など)であった場合に唯一の有効な治療手段です。
  • 応援を呼ぶのと同時に、可及的速やかにAEDの手配を依頼する必要があります。

出題者の“声”

この問題では、BLS(一次救命処置)の初期対応において、「どの順番で何をするか」「どんな症状をどう判断するか」を、しっかり理解しておるかを見たかったのじゃ。

「いびきのような呼吸」を「寝ているだけかな?」と誤解し、対応が遅れるケースは後を絶たん。これを「呼吸あり」と判断すれば、その時点でゲームオーバーじゃ。この知識は絶対に忘れてはいん。

また、“まず通報する”という対応も、単独救助者であれば最初に行うべき基本行動じゃ。
胸骨圧迫を始める前に、周囲に助けを求め、AEDを依頼することが、最短の救命連携につながるのじゃ。

この問題は、「BLSを知っている」では不十分。
その場面で、何を見て・どう判断し・どう動くか――“行動として再現できるか”が問われておるのじゃ!


臨床の“目”で読む

医療従事者にとって、BLSは特別なスキルではなく、身につけていて当然の「基本動作」です。

そして、この問題を「自分には関係ないから、とりあえず暗記だけしておこう」と感じたなら、それは非常に危険な思い込みです。

「誰かがやってくれるだろう」という考えは、医療現場では通用しません。いくら頭で手順を覚えていても、いざというときには体が動かない――それが普通です。
だからこそ、手順は完璧に覚えるだけでなく、繰り返しシミュレーションして“迷わず動ける自分”をつくっておくことが重要です。

実際にやってみると、

  • どれくらいの強さで胸骨圧迫すればいいか(ポキッと胸骨が折れることもあります)
  • どこまで深く押すべきかなど、人体モデルと実際の人間とでは感覚が大きく異なります。

そして放射線技師は、単独で患者と検査室にいる状況が多く、初期対応の遅れが生死を分ける場面にもなり得ます。特に血管造影室(心臓カテーテル室)などでは、心停止に遭遇する可能性は決して低くありません。年間数回は実際にCPRを行う機会があるのが現実です。

放射線技師も、人の命を預かる医療チームの一員です。
自分の手で命を救える」――その意識を常に持って、現場に立ち続ける覚悟が必要です。


キーワード

  • BLS(Basic Life Support)
  • 院内緊急コール
  • AED
  • 死戦期呼吸
  • 胸骨圧迫(100〜120回/分)

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