NEW!第77回 午前 48

基礎医学大要

悪性腫瘍とその発生原因の組合せで誤っているのはどれか。

  1. 胃癌 ― ヘリコバクターピロリ菌
  2. 肝臓癌 ― A型肝炎ウイルス
  3. 外陰部癌 ― ヒトパピローマウイルス
  4. カポジ肉腫 ― ヒトヘルペスウイルス
  5. 成人T細胞白血病 ― ヒトT細胞白血病ウイルス

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


2.肝臓癌 ― A型肝炎ウイルス


解説

✔ 感染症が原因となる悪性腫瘍とは?

  • 特定のがんが、ウイルスや細菌への「慢性的な感染」をきっかけに発生することが知られています。
  • 特に慢性的な感染は、臓器に持続的な炎症を引き起こし、その過程で細胞の遺伝子が傷つき、がん化のリスクが高まります

✔ 各選択肢について

1. 胃癌 ― ヘリコバクターピロリ菌

  • 正しい
  • ヘリコバクターピロリ菌感染は、慢性胃炎 → 胃粘膜の萎縮 → がん化の流れでリスクを高めます。
  • 除菌治療により胃癌発症率が下がることも確認されています。

2.肝臓癌 ― A型肝炎ウイルス

  • 誤り
  • A型肝炎ウイルス(HAV)は、主に経口感染で急性の肝炎を引き起こしますが、慢性化することはなく、発がんの原因にはなりません
  • 肝細胞がんの主因となるのは、血液や体液を介して感染し、慢性肝炎を引き起こすB型肝炎ウイルス(HBV)C型肝炎ウイルス(HCV)です。

3.外陰部癌 ― ヒトパピローマウイルス

  • 正しい
  • 子宮頸がんと同様に、ハイリスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)感染が、外陰がんや腟がんの主要な原因となります。
  • ワクチン予防も進められています。

4.カポジ肉腫 ― ヒトヘルペスウイルス

  • しい
  • ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)の感染が発症に関与。
  • 特にHIV感染などで免疫力が低下した患者に好発する、血管由来の悪性腫瘍です。

5.成人T細胞白血病 ― ヒトT細胞白血病ウイルス

  • 正しい
  • ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)がT細胞に感染し、数十年という長い潜伏期間を経て、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)を発症させます。
  • 日本では九州・沖縄に多く見られます。

出題者の“声”

この問題の狙いは、悪性腫瘍とその原因となる病原体の「正しい組合せ」を、正確に理解できているかを確認することじゃ。特に、「一見もっともらしいが、実は間違っている」という選択肢に惑わされない、知識の解像度を試しておる。

「肝臓癌 ー A型肝炎ウイルス」という選択肢は、“肝炎ウイルス”というくくりで雑に覚えているが間違いやすい典型的な罠じゃ。

どの病原体が、どんな背景を持つ人々に、どのがんを引き起こすのか。その“背景ごと”覚えていなければ、応用は利かん。 例えば、

  • HPVと聞けば、子宮頸がんだけでなく、外陰がんや中咽頭がんまで思い浮かぶか。
  • HHV-8と聞けば、カポジ肉腫、特にHIV感染者などの免疫不全状態と結びつくか。
  • HTLV-1と聞けば、成人T細胞白血病、そして日本の九州・沖縄という地域性まで連想できるか。

このように、単なる語句の暗記ではなく、「病態・疫学・病原体」を一体として立体的に理解しているか。それこそが、この問題で本当に確かめたかったことなのじゃ。


臨床の“目”で読む

「どのがんが、どの病原体と関連しているか」という知識は、日常の画像診断だけでなく、患者さんへの説明や安全管理においても非常に重要な背景情報となります。

  • 肝細胞がんと肝炎ウイルス肝細胞がんの患者さんを診る際、その背景にB型・C型肝炎ウイルスがいないかを考えるのは基本です。ウイルス性肝炎の患者さんには、定期的な超音波検査やCT/MRIによるフォローアップが行われます。
  • HPV関連がん(子宮頸がん、中咽頭がんなど):近年、特に中咽頭がんにおいてHPV関連のものが増加しています。これらのがんは、従来の喫煙や飲酒が原因のものとは性質が異なり、放射線治療などへの反応性が比較的良好であることも知られています。
  • 免疫不全とウイルス関連腫瘍(カポジ肉腫など):HIV感染者など免疫力が低下した患者さんの画像を読影する際は、日和見感染症だけでなく、カポジ肉腫(HHV-8関連)や悪性リンパ腫(EBウイルス関連)といったウイルス関連腫瘍の発生を常に念頭に置く必要があります。
  • 感染対策への意識:これらの知識は、私たち自身の感染対策意識にも直結します。B型/C型肝炎ウイルス、HTLV-1、HIVなどは血液や体液を介して感染します。造影検査時のルート確保や、IVRの介助など、血液に触れる可能性がある場面では、スタンダードプリコーション(標準予防策)の遵守が極めて重要です。患者さんの感染症情報を知ることは、適切な画像情報を提供するだけでなく、自分自身と他の患者さんを感染から守るための行動につながるのです。

私たち放射線技師も、「この患者さんはC型肝炎の既往があるから、肝臓の結節に注意し、処置時の血液曝露にも一層気をつけよう」といった、病気の背景を推測し、診断と安全管理の両面に活かす視点を持つことが、チーム医療への貢献につながります。


キーワード

  • ウイルス関連がん
  • HBV
  • HCV
  • HPV
  • HHV-8
  • HTLV-1

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