ヒトの半致死線量で正しいのはどれか。
- 50~60 Gyである。
- Dq線量と同義である。
- 生存率が50%になる線量である。
- 被ばく後30日の生存率で判定する。
- 定位放射線治療の線量計算に使用する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
3.生存率が50%になる線量である。
解説
✔ 半致死線量(LD50)とは?
半致死線量(LD50: a median Lethal Dose)とは、ある集団が放射線を一度に全身被ばくした際、その集団の50%(半分)が一定期間内に死亡すると推定される線量のことです。 放射線による急性障害の重篤度を示す、非常に重要な指標となります。
一般的に、特別な治療を行わない場合、ヒトの半致死線量はLD50/60(60日以内に50%が死亡する線量)が用いられ、その値は約4Gyとされています。
✔ 各選択肢について
1. 50~60 Gyである。
- ❌ 誤り
- これは、がんを叩くための放射線治療で、ごく狭い範囲に照射する際の線量です。
- 全身にこの線量を被ばくすれば、致死率100%をはるかに超える致死的な値です。
2.Dq線量と同義である。
- ❌ 誤り
- Dq線量(準しきい線量)は、細胞レベルでの放射線感受性を示す指標です。
- 細胞生存曲線の「肩」の幅を表し、「細胞が修復できるダメージの限界」のようなものです。
- 個体(全身)の致死を扱うLD50とは全く別の概念です。
3.生存率が50%になる線量である。
- ✅ 正解
- これが半致死線量(LD50)の定義そのものです。
4.被ばく後30日の生存率で判定する。
- ❌ 誤り
- これはLD50/30の定義です。LD50は、必ずしも期間が30日とは限りません。
- マウスではLD50/30が使われますが、ヒトでは回復が遅いためLD50/60が指標として用いられます。
5.定位放射線治療の線量計算に使用する。
- ❌ 誤り
- 治療計画では腫瘍制御確率や正常組織の耐容線量をもとに線量が決定され、全身急性被ばく評価のLD50は使用されません。
出題者の“声”

この問題は、「半致死線量(LD₅₀)」という、普段の臨床では使わんがゆえに多くの者がうろ覚えにしておる、重要な基本知識を問うておる。
治療や検査の線量と違い、「致死性」を扱う概念は少し毛色が違うからのう。だからこそ、知識が曖昧な者をふるいにかけるには、もってこいなのじゃ。ワシが仕掛けたワナは、主に3つじゃ。
- ① 治療線量との混同
- 局所照射と全身被ばくの絶望的な違いを、本当に理解しておるか?
- ② 細胞レベルとの混同
- 「Dq線量」という専門用語で惑わす。細胞一個の話と個体(ヒト)の話を、ごちゃ混ぜにしておらんか?
- ③ 期間の限定
- 「30日」という具体的な数字で、中途半端に知識がある者を迷わせる。より普遍的な定義はどちらか、試しておるのじゃ。
これらのワナを冷静にかいくぐり、「LD₅₀とは、集団の半分が死ぬ線量である」という大原則に立ち返れた者だけが、正解できる。
臨床で直接使うことはないからこそ、「聞いたことはあるが、正確には知らん」となりがちな部分じゃ。そこを見事にあぶり出す、なかなか渋い良問じゃろ?じゃが、放射線安全の根幹をなす知識じゃからな。きちんと押さえておれば、これは確実に得点すべき一問じゃ!
臨床の“目”で読む

「LD50なんて、原発事故でもない限り臨床で使わないでしょ?」と思うかもしれません。その通り、この数値を直接治療に使うことはありません。しかし、この概念を理解しておくことには、非常に大きな意味があります。
- 放射線防護の「ものさし」として
- ヒトの致死線量がわずか4Gy程度であることを知っているからこそ、私たちは医療被ばくを「mGy(ミリグレイ)」や「μGy(マイクログレイ)」という千分の一、百万分の一の単位で厳しく管理するのです。LD50は、我々が扱う放射線がいかに低線量とはいえ、その根底にあるリスクの大きさを教えてくれる「安全管理の原点」と言えます。
- リスクコミュニケーションの基礎として
- 患者さんや一般の方に放射線の安全性を説明する際にも、致死線量のような極端な高線量と、医療で使う低線量との間には、圧倒的な差があることを論理的に説明できる必要があります。
LD50の知識は、放射線技師としてのリスク感覚を校正し、安全への意識を高く保つための土台となるのです。
今日のまとめ
- 半致死線量(LD50)は、被ばくした集団の50%が死亡する線量のこと。
- ヒトのLD50/60(60日値)は、およそ4Gy。
- 治療で使う線量(数十Gy)や、細胞レベルのDq線量とは全くの別物。
- 臨床で直接使う数値ではないが、放射線防護の重要性を理解する上での原点となる。
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