細胞に総線量12 Gyを照射した場合、細胞の生存率が最も高くなる条件はどれか。
ただし、他の条件は全て同じとし、細胞のα/βは10 Gyとする。
- 1 Gy/回とし、週3回4週間で照射する。
- 1 Gy/回とし、週4回3週間で照射する。
- 2 Gy/回とし、連続する6日間で照射する。
- 1 Gy/回とし、1日2回、連続する6日間で照射する。
- 2 Gy/回とし、1日2回、連続する3日間で照射する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1.1 Gy/回とし、週3回4週間で照射する。
解説
✔ 最も「生物学的なダメージ」が小さいのはどれか?
この問題は、「細胞の生存率が最も高くなる条件はどれか?」と聞いています。これはつまり、「5つの選択肢のうち、細胞に対する生物学的なダメージが最も小さい照射方法はどれか?」ということです。
この「生物学的なダメージ」を、異なる分割照射スケジュール間で比較するための共通の物差しが、生物学的効果線量(BED:Biologically Effective Dose)です
✔ 線量効果式(LQモデル)でBEDを計算する
BEDは、LQモデルを用いて以下の式で計算できます。
BED = n × d (1 + d / (α/β))
- n: 分割回数
- d: 1回線量 (Gy)
- α/β: 組織の放射線感受性を示す値(今回は10Gyと指定)
この式の鉄則は「BEDの値が小さいほど、生物学的な効果は低く、細胞の生存率は高くなる」ということです。
では、各選択肢のBEDを計算してみましょう。

✔ BEDが同じ場合は?
計算結果を見ると、まず選択肢3と5はBEDが14.4と高く、ダメージが大きいので除外できます。
残る選択肢1, 2, 4は、すべてBEDが13.2で同じです。
BEDが同じ場合、次に比べるのは「照射期間の長さ」です。
放射線照射では、照射と照射の間に生き残った細胞が再び増えようとします(再増殖:Repopulation)。
照射期間が長ければ長いほど、この再増殖が起こる時間も長くなります。 その結果、最終的な細胞の数は多くなり、生存率は最も高くなります。
したがって、BEDが同じ13.2の中で、最も照射期間が長い選択肢1が、最も生存率が高くなると判断できます。
出題者の“声”

この問題は、同じ線量でも照射の仕方(分割・頻度・回復時間)で効果が変わることを知っておるかを試しておるんじゃ。
ただBEDの計算式を覚えているだけでは解けんように作ってある。 計算結果を見て、3つの選択肢が同じBED(13.2)になった時点で「やっぱりそう来るよね?」と思えるか。そこがワシの仕掛けた最初の罠じゃ。
計算だけで思考停止する者は、ここで運任せの選択をすることになる。 しかし、一歩進んだ者はこう考える。
「BEDが同じなら、次に影響する因子は何じゃろうか?」と。 その答えが「時間」、すなわち「再増殖」の概念じゃ。
放射線生物学の4つのR(Repair, Reassortment, Reoxygenation, Repopulation)を本質的に理解しておれば、照射期間が最も長い選択肢が最も生存率が高い、と見抜けるはずじゃ。 この問題は、計算力と思考力の両方を試す、なかなか奥深い一問なのじゃ。
臨床の“目”で読む

BED計算や分割照射の理論は、まさに放射線治療の現場そのものです。
① なぜ分割照射をするのか?
そもそも、がん治療で分割照射を行う最大の目的は、正常組織の晩期有害事象を抑えるためです。 正常組織(特に晩期反応組織)は、1回線量が小さい方が回復しやすい(α/β値が小さい)という性質があります。この性質を利用し、1回線量を小さくして(例: 2Gy/回)、正常組織のダメージを抑えつつ、腫瘍には十分な総線量を照射するのです。
② α/β値の意味
問題文にある「α/β=10Gy」は、早期反応組織(皮膚・粘膜など)や、多くのがん組織でみられる典型的な値です。 一方で、脳や脊髄、肺などの晩期反応組織はα/β値が低く(約2~3Gy)、1回線量が多いと回復しにくい、大きなダメージを受けます。このα/β値の違いを理解することが、安全な治療計画の鍵となります。
③ 多分割照射・加速照射の実際
臨床では、腫瘍の再増殖を抑えるために、1日の照射回数を増やして(例: 1日2回照射)、全体の治療期間を短縮する「加速多分割照射」という治療法もあります。これは、今回の問題の「再増殖」の概念を逆手に取った戦略ですね。
私たち放射線技師は、こうした生物学的背景を理解することで、なぜ「週5回で6週間」や「1日2回」といった複雑なスケジュールが組まれているのかを深く理解し、日々の業務をより高い精度で実践することができるのです。
今日のまとめ
- 細胞の生存率を比較するには、生物学的効果線量(BED)を計算する。
- BEDの基本は「値が小さいほど、生存率は高い」。
- BEDが同じ場合は、「照射期間が長い」ほど細胞の再増殖が起こり、生存率は高くなる。
- この理論は、正常組織を守りつつ腫瘍を叩く「分割照射」の基本原理である。
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