重荷電粒子の質量衝突阻止能で正しいのはどれか。
- 物質の密度に反比例する。
- 物質の原子番号に反比例する。
- 入射粒子の質量に反比例する。
- 入射粒子の電荷数に比例する。
- 入射粒子のエネルギーに反比例する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
5.入射粒子のエネルギーに反比例する。
解説
✔ 線衝突阻止能とは?:「物質のブレーキ力」
線衝突阻止能とは、陽子線やα線のような荷電粒子が物質の中を進むときに、周りの原子との衝突(電離・励起)によって、どれだけエネルギーを失っていくかを示す指標です。言わば「物質が荷電粒子にかけるブレーキの強さ」のようなものです。
そして、質量衝突阻止能は、このブレーキ力を物質の密度で割り算することで、物質ごとの密度(スカスカか、ぎっしりか)の影響を取り除き、純粋な「ブレーキ性能」を比較できるようにした値です。
✔ ベーテの式が示す「ブレーキの強さ」の決まり方
このブレーキの強さ(質量衝突阻止能 S/ρ)が何に依存するかは、ベーテの式で表されます。
その関係をざっくりとまとめると、以下のようになります。
質量衝突阻止能 ∝ (入射粒子の電荷)² / (入射粒子のエネルギー)
つまり、ブレーキ力は…
- 入射粒子の電荷(z)の2乗に比例する
- 電荷が大きい粒子ほど、周りの電子を強く引きつけるため、ブレーキは強くかかる。
- 入射粒子のエネルギー(E)に反比例する
- 高エネルギーで速い粒子ほど、原子の横をあっという間に通り過ぎてしまうため、相互作用する時間が短く、ブレーキは弱くなる。
✔ 各選択肢について
1. 物質の密度に反比例する。
- ❌ 誤り
- 「質量」衝突阻止能は、密度の影響をなくすために、あらかじめ密度で割り算した指標です。そのため、密度には依存しません。
- ちなみに、線衝突阻止能(物質中の単位長さあたりのエネルギー損失)は物質の密度に比例します。
2.物質の原子番号に反比例する。
- ❌ 誤り
- 物質の原子番号(Z)や平均励起エネルギー(I)に依存しますが、単純な反比例の関係ではありません。
3.入射粒子の質量に反比例する。
- ❌ 誤り
- Betheの式より、主に電荷(z)の2乗とエネルギー(E)に依存します。
4.入射粒子の電荷数に比例する。
- ❌ 誤り
- Betheの式より、「電荷数」ではなく「電荷数の2乗 (z²)」に比例します。
5.入射粒子のエネルギーに反比例する。
- ✅ 正解
- 前述の通り、高エネルギー(高速)の粒子ほど相互作用する時間が短いため、単位距離あたりに失うエネルギーは小さくなります。
出題者の“声”

この問題は、放射線物理学の最重要公式の一つ、「ベーテの式」の本質を理解しておるかを問うておる。 あの長い数式を丸暗記せい、というわけではない。
「何に比例し、何に反比例するのか」という、その物理的な意味を掴んでおるかが大事なのじゃ。
ワシが仕掛けたワナは「電荷」と「電荷の2乗」の違い。うっかりしていると4番を選んでしまうじゃろ。
「エネルギーに反比例」という、「エネルギーが大きいと速すぎて止まれない」というイメージを持てるかが勝負の分かれ目じゃった。
このポイントさえ押さえていれば、確実に得点できる問題じゃ。
臨床の“目”で読む

「入射粒子のエネルギーに反比例する」という性質こそが、最先端の粒子線治療(陽子線治療や重粒子線治療)の基本原理であり、最大のメリットを生み出しています。
ーブラッグピーク(Bragg Peak)の形成ー
- 陽子などの重荷電粒子は、高エネルギーで体内に侵入します。このとき、エネルギーが高いため阻止能は低く、体の表面近くの正常組織にはあまりエネルギーを与えません。
- 粒子は体内を進むにつれて徐々にエネルギーを失い、速度が遅くなっていきます。
- 速度が遅くなると、ベーテの式の通り阻止能が急激に増大し、止まる直前に持っているエネルギーの大部分を放出します。
- この、止まる直前にエネルギー放出が最大になる現象を「ブラッグピーク」と呼びます。
ー粒子線治療への応用ー
このブラッグピークを利用することで、体の表面や、がんの手前にある正常組織へのダメージを最小限に抑えながら、がん病巣の位置にピンポイントで最大のダメージを与えることが可能になります。
これは、体を突き抜けていくX線治療にはない、粒子線治療ならではの大きな利点です。
阻止能の原理が、そのまま最先端のがん治療を支えているのです。
今日のまとめ
- 質量衝突阻止能は、物質が荷電粒子を止める「ブレーキ力」のようなもの。
- ブレーキ力は、粒子の「(電荷)²に比例」し、「エネルギーに反比例」する。
- エネルギーに反比例するのは、高速な粒子ほど相互作用する時間が短いため。
- この原理によって、粒子線治療の要である「ブラッグピーク」が形成される。
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