第77回 午前 63

理工学・放射線科学

50 keV光子のAl(原子番号13、原子量27、密度2.7 g·cm⁻³)に対する線減弱係数が1.0 cm⁻¹であるとき、この光子エネルギーに対するAlの電子断面積[b](バーン)に最も近いのはどれか。
ただし、アボガドロ数を6.0×10²³、1 b=10⁻²⁴ cm²とする。

  1. 0.08
  2. 0.4
  3. 1.3
  4. 4.8
  5. 17

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3. 1.3


解説

✔ ゴール:マクロな現象「減弱」とミクロな現象「断面積」を繋ぐ

この問題は、放射線が物質を通過するときに弱まるというマクロな現象(線減弱係数 μ)と、光子1個が電子1個と相互作用する確率の大きさを示すミクロな指標(電子断面積 σe)を結びつける計算問題です。

この2つを繋ぐ架け橋が、物質1cm³あたりにどれだけ電子が存在するかを示す「電子密度 Neです。

基本的な関係式は以下の通りです。

μ = Ne × σe

この式を解くために、以下の3ステップで進めましょう。

  • Step 1: Alの電子密度(Ne)を計算する。
  • Step 2: 上の式を使い、電子断面積(σe)を cm² 単位で求める。
  • Step 3: 単位を cm² から b(バーン)に換算する。

✔ Step 1: 電子密度(Ne)の計算

電子密度(Ne [個/cm³])は、以下の式で求められます。

Ne = (ρ / A) × NA × Z

  • ρ (密度) = 2.7 [g/cm³]
  • A (原子量) = 27 [g/mol]
  • NA (アボガドロ数) = 6.0 × 10²³ [個/mol]
  • Z (原子番号/電子数) = 13 [個/原子]

実際に計算すると、

Ne = (2.7 / 27) × (6.0 × 10²³) × 13

  = 0.1 × (6.0 × 10²³) × 13

Ne = 7.8 × 10²³ [個/cm³]

✔ Step 2: 電子断面積(σe)の計算

μ = Ne × σe の式を σe について解くと、

σe = μ / Ne

  • μ (線減弱係数) = 1.0 [cm⁻¹]
  • Ne (電子密度) = 7.8 × 10²³ [cm⁻³]

σe = 1.0 / (7.8 × 10²³)

σe ≈ 1.28 × 10⁻²⁴ [cm²]

✔ Step 3: 単位をバーン(b)へ換算

問題の指示より、1 b = 10⁻²⁴ cm² なので、

1.28 × 10⁻²⁴ [cm²] = 1.28 [b]

この値に最も近い選択肢は 3. の 1.3 となります。


出題者の“声”

この問題は、放射線物理の基本的な公式を正しく使いこなし、正確に計算を遂行できるかを試す、典型的な計算問題じゃ。物理の本質を問うというよりは、手順通りに処理できるかという技量を見ておる。

ワナは主に計算の過程に潜んでおる。

  • 原子密度と電子密度の違いを理解し、ちゃんと原子番号(Z)を掛け算したか?
  • 10²³のような大きな桁数の計算を、慌てずに処理できたか?
  • 最後に「バーン」への単位換算を忘れなかったか?

一見複雑に見えるが、分解すれば一つひとつは基本的な計算じゃ。

落ち着いて、自分が持っている知識の引き出しから正しい公式を取り出し、正確に当てはめる。

こういう問題こそ、基礎力が試されるのじゃよ。


臨床の“目”で読む

日常業務で我々が「電子断面積」を計算することはありません。しかし、この問題に出てくる「線減弱係数 μ」は、臨床現場、特にCT検査において非常に重要な役割を果たしています。

CT値の正体は「線減弱係数

CT画像は、人体のあらゆる場所の「X線の弱まりやすさ」を測定し、それを画像化したものです。この「X線の弱まりやすさ」こそが、線減弱係数(μ)なのです。

  • 骨のように密度も原子番号も高く、μが大きい部位は、X線をよく吸収するため白く写ります。
  • 空気のように密度が低く、μが小さい部位は、X線が素通りするため黒く写ります。
  • このμの値を基準(水のμ=0)に変換したものが、おなじみのCT値(Hounsfield Unit)です。

つまり、CT画像とは、体内の「μの分布図」そのもの。

そして、そのμの値は、今回計算したような組織の密度や電子の数(=電子断面積の総和)によって決まっています。

この計算問題は、我々が普段見ているCT画像の、さらに奥にある物理的な背景を理解する良い機会になるのです。


今日のまとめ

  1. 線減弱係数(μ)、電子密度(Ne)、電子断面積(σe)の関係は μ = Ne × σe
  2. 計算のプロセスは ①電子密度を求める → ②断面積を求める → ③単位換算する
  3. 電子密度は Ne = (ρ/A) ・NA・Z で計算できる。
  4. この物理の基本が、CT値(CT画像)の原理に直接繋がっている。

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