真性半導体の絶対零度におけるエネルギーバンド構造で正しいのはどれか。2つ選べ。
- 伝導帯は空帯となっている。
- 禁制帯にキャリアは存在しない。
- 禁制帯の幅は絶縁体より大きい。
- 価電子帯の電子は電流に寄与する。
- フェルミ準位は価電子帯に存在する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1.伝導帯は空帯となっている。
2.禁制帯にキャリアは存在しない。
解説
✔ エネルギーバンドとは?:電子たちのマンション
物質の中の電子は、どこにでも存在できるわけではなく、決まったエネルギーの階層(軌道)にしかいられません。
この電子が入れる階層を、マンションのフロアのようにイメージしたものがエネルギーバンドです。
- 価電子帯
- 電子がぎっしり詰まった「居住フロア」。満員電車のように、電子は身動きが取れず、このままでは電流は流れません。
- 伝導帯
- 自由に動き回れる「屋上のフリースペース」。電子がここまで上がってくると、自由に動けて電流を流すことができます。
- 禁制帯
- 価電子帯と伝導帯の間にある、電子が存在できない「立ち入り禁止の空間」。この空間の広さ(バンドギャップ)が、その物質が電気を通しやすいかどうかを決めます。
そして「絶対零度」とは、全ての熱エネルギーがゼロになった極限状態です。
この状態では、電子はジャンプするためのエネルギーを全く持てません。
✔ 各選択肢について
1. 伝導帯は空帯となっている。
- ✅ 正解
- 絶対零度では、電子はジャンプするエネルギーを持たないため、全員が下の「居住フロア(価電子帯)」にいます。そのため、上の「フリースペース(伝導帯)」は完全に空っぽ(空帯)になります。
2.禁制帯にキャリアは存在しない。
- ✅ 正解
- 禁制帯は、そもそも電子が存在できない「立ち入り禁止の空間」です。したがって、電気を運ぶキャリア(電子や正孔)は存在できません。
3.禁制帯の幅は絶縁体より大きい。
- ❌ 誤り
- 禁制帯の幅は、絶縁体 > 半導体 > 導体(ほぼゼロ)の順になります。
- 絶縁体は、この「立ち入り禁止の空間」が非常に広いため、電子が簡単にはジャンプできず、電気が流れないのです。
4.価電子帯の電子は電流に寄与する。
- ❌ 誤り
- 絶対零度では、価電子帯は電子で完全に満席の状態です。
- 満員電車で人が動けないのと同じで、電子が動く余地がないため、電流には寄与しません。
- 電流が流れるのは、電子が伝導帯にジャンプして「空席(正孔)」ができた場合です。
5.フェルミ準位は価電子帯に存在する。
- ❌ 誤り
- フェルミ準位とは、電子が存在する確率が50%になるエネルギーレベルのことです。
- 不純物を含まない真性半導体では、フェルミ準位は禁制帯のほぼ中央に位置します。
出題者の“声”

この問題は、半導体物理の根幹をなす「バンド理論」を、その物理モデルとして正しくイメージできているかを試しておる。 ただの言葉の暗記で挑むと、必ず足元をすくわれるぞ。
ワシが試したかったのは、特に「絶対零度」という特殊な条件下での状態を想像できるかじゃ。
「半導体は電気を通す」という普段のイメージに引きずられると、「価電子帯の電子も動くんじゃないか?」とか「伝導帯にも少しは電子がいるんじゃないか?」といった誤解をしてしまう。
熱エネルギーがゼロなら、電子はジャンプできない。この大原則に立ち返り、電子が一番低いエネルギー状態に落ち着いている様子を思い描けるか。それができれば、これは2つとも確実に選べるサービス問題じゃ。
臨床の“目”で読む

「半導体のバンド理論なんて、臨床と関係ない物理の話でしょ?」と思うかもしれません。しかし、これは私たちが日常的に使う放射線検出器の心臓部そのものです。
ー半導体検出器の原理ー
FPD(フラットパネルディテクタ)や一部のCTで使われる半導体検出器は、まさにこのバンド理論を応用したものです。
- 半導体(シリコンやアモルファスセレンなど)にX線やγ線が入射します。
- 放射線の高いエネルギーが、価電子帯にいる電子に与えられます。
- エネルギーを得た電子は、禁制帯を飛び越えて、伝導帯へとジャンプします。
- これにより、伝導帯に「電子」、価電子帯にその抜け殻である「正孔」のペア(電子正孔対)が生成されます。
- この電子と正孔を、電圧をかけて集めて電気信号として読み取ることで、放射線を検出しているのです。
つまり、放射線のエネルギーを使って、価電子帯から伝導帯へ電子を強制的にジャンプさせる。これが半導体検出器の動作原理です。この原理を理解していると、なぜ放射線で画像が作れるのか、その根本が見えてきます。
今日のまとめ
- 半導体のエネルギーバンドは、電子がいる価電子帯、電子が動ける伝導帯、電子が存在できない禁制帯の3つで構成される。
- 絶対零度では熱エネルギーがないため、電子はジャンプできず、伝導帯は空っぽ、価電子帯は満席となる。
- 禁制帯には、いかなる場合もキャリア(電子・正孔)は存在できない。
- このバンド理論は、半導体放射線検出器が放射線を電気信号に変換する基本原理となっている。
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