MRI装置でボリューム送信コイルを使用した場合、JISで規定されている通常操作モードでの全身SAR[W/kg]の上限値はどれか。
- 0.1
- 0.5
- 2.0
- 3.2
- 10.0
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
3. 2.0
解説
✔ SARとは?:MRIの「熱」の指標
SAR(Specific Absorption Rate:比吸収率)とは、MRI検査中にRFパルス(電波)のエネルギーが、患者さんの体にどれくらいの割合で吸収されるかを示した指標です。単位は [W/kg] で、簡単に言えば「体の熱の上がりやすさ」を表す安全性のための数値です。
✔ JIS規格で定められた操作モードとSAR上限値
RFパルスによる体温上昇のリスクを管理するため、JIS規格(IEC規格と整合)では、装置の操作モードごとにSARの上限値が厳密に定められています。
- 通常操作モード (Normal Operating Mode)
- 全ての患者に危険がおよばないレベル。技師の特別な操作や監視なしに、安全に検査できるモードです。
- 第一水準管理操作モード (First Level Controlled Mode)
- 患者によっては生理的ストレス(体温上昇など)を引き起こす可能性があるレベル。このモードを使用するには、技師がリスクを認識した上で、意図的に操作し、患者への注意喚起や監視を強化する必要があります。
そして、それぞれのモードでのSAR上限値は以下の通りです。

✔ 各選択肢について
1.0.1
- ❌ 誤り
2.0.5
- ❌ 誤り
3.2.0
- ✅ 正解
- 通常操作モードにおける全身平均SARの上限値です。
4.3.2
- ❌ 誤り
- これは、通常操作モードおよび第一水準管理操作モードにおける頭部平均SARの上限値です。
5.10
- ❌ 誤り
- これは、通常操作モードおよび第一水準管理操作モードにおける局所(躯幹)SARの上限値です。
出題者の“声”

この問題は、MRIの安全管理における最も基本的な数値を、正確に覚えておるかを試しておる。
これはただの数字ではない。日々、患者さんをRF加熱のリスクから守るための、極めて重要な「一線」なのじゃ。
ワナは、様々なSARの数値を並べて、受験者を混乱させることにある。 「全身」なのか「頭部」なのか?「通常モード」なのか「第一水準」なのか? 問題文の条件を正確に読み取り、数多ある上限値の中から、対応するただ一つの数値を引き出せるか。そこが実力の見せ所じゃ。
「2.0 W/kg」という数字は、MRI技師にとって常識。絶対に間違えてはならんぞ!
臨床の“目”で読む

SARの管理は、MRIを撮像する放射線技師の日常業務そのものです。
ーSARは常に変動するー
SARの値は、常に一定ではありません。以下の要因で大きく変動します。
- 静磁場強度
- SARは静磁場強度の2乗に比例します。つまり、1.5T装置に比べて3T装置は、理論上SARが4倍になりやすく、より厳密な管理が求められます。
- 撮像シーケンス
- 高速スピンエコー(FSE/TSE)法など、RFパルスを多用するシーケンスはSARが高くなる傾向があります。
- 患者さんの体格
- 体重が重いほど、同じ撮像条件でもSARは高くなります。
私たちがスキャンを開始する前、装置はこれから行う撮像のSAR値を予測・表示します。もし、その値が通常操作モードの上限(2.0 W/kg)を超えてしまう場合、装置は警告を発し、そのままではスキャンを開始できません。
その際、私たち技師は、
- TRを延長する、フリップアングルを調整する、スライス枚数を減らすなど、撮像パラメータを調整してSARを下げる。
- もしくは、臨床的にどうしてもその撮像が必要な場合は、リスクを理解した上で「第一水準管理操作モード」に切り替え、患者さんの監視を強化する。
といった判断を下します。このように、画質と安全性のバランスを取りながらSARを管理することは、MRI検査の質と安全を担保する上で不可欠なスキルなのです。
今日のまとめ
- SARは、MRI検査でのRF波による体温上昇のリスク指標で、単位は[W/kg] 。
- JIS規格で定められた通常操作モードにおける全身SARの上限値は 2.0 W/kg である。
- 3.2 W/kgは頭部、10 W/kgは局所(躯幹)の上限値であり、混同しないこと。
- SARの管理はMRI技師の重要な安全管理業務であり、特に高磁場装置(3T)では常に意識する必要がある。
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