エネルギーフルエンスが一様なγ線場において指頭形電離箱で電離電流を測定するとき、測定値で正しいのはどれか。
- 空洞の体積に反比例する。
- 充填気体の密度に比例する。
- 充填気体のW値に比例する。
- 集電極の印加電圧に反比例する。
- 電離箱壁からの二次電子の飛程に比例する。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
2.充填気体の密度に比例する。
解説
✔ 電離箱の基本原理:「電離量=電流」
電離箱は、放射線が箱の中の気体に当たることで生じる「電離」を測定する装置です。
原理は非常にシンプルです。
- 放射線が気体に当たると、気体分子から電子が弾き飛ばされ、「プラスイオン」と「マイナスの電子」のペア(イオンペア)ができます。
- 電離箱の内部には電圧がかけられており、これらのイオンと電子を電極に集めます。
- この集められた電荷の流れが「電離電流」となります。
つまり、電離がたくさん起これば起こるほど、測定される電流は大きくなります。
✔ 何が電離量に影響するのか?
- 気体の量が多いほど、電離量は増える
- 放射線にとっての「的」である気体分子が多ければ多いほど、衝突の機会が増え、電離も多くなります。気体の量は、空洞の体積と気体の密度の両方に比例します。(気体の質量 = 体積 × 密度)
- W値が小さいほど、電離量は増える
- W値とは、「1つのイオンペアを作るのに必要なエネルギー」のことです。この値が小さいほど、同じエネルギーでもたくさんのイオンペアを作れる「燃費の良い」気体だと言えます。したがって、電離電流はW値に反比例します。
✔ 各選択肢について
1. 空洞の体積に反比例する。
- ❌ 誤り
- 空洞の体積に比例します。
- 体積が大きいほど、中にある気体の量が増え、電離量も増えるため、電流は大きくなります。
2.充填気体の密度に比例する。
- ✅ 正解
- 気体の密度に比例します。
- 密度が高いほど、同じ体積でも気体分子がぎっしり詰まっているため、電離量が増え、電流も大きくなります。
3.充填気体のW値に比例する。
- ❌ 誤り
- W値に反比例します。
- W値が大きい(燃費が悪い)と、同じエネルギーでも作られるイオンペアの数が減るため、電流は小さくなります。
4.集電極の印加電圧に反比例する。
- ❌ 誤り
- 通常の使用領域(飽和領域)では、発生した電荷をすべて集めるのに十分な電圧がかけられています。
- そのため、それ以上に電圧を上げても電流はほとんど変化せず、電圧に依存しません。
5.電離箱壁からの二次電子の飛程に比例する。
- ❌ 誤り
- これは、二次電子平衡という、電離箱が正しく測定するための条件に関わる話です。
- 充分に小さな指頭形では二次電子平衡が成立しており、飛程の影響は無視できるため、電流は飛程に依存しません。
出題者の“声”

この問題は、放射線測定の基本である「電離箱」の動作原理を、物理的なイメージで理解しておるかを試しておる。 ただ公式を覚えるのではなく、「なぜそうなるのか?」を考えることが肝心じゃ。
「どうすれば、もっとたくさんのイオンペアが作れるか?」 この視点で考えれば、自ずと答えは見えてくる。
- 部屋(空洞)を大きくする → 比例
- 部屋の中の人(分子)を増やす(密度を上げる) → 比例
- イオンペアを作るのにエネルギーがたくさん必要(W値が大きい) → 反比例
この単純な理屈が分かっておれば、選択肢に惑わされることはない。
放射線物理とは、こういう身近なイメージの積み重ねなのじゃ。
臨床の“目”で読む

電離箱の原理、特に「測定電流は気体の密度に比例する」という性質は、現場で日常的に行われる線量測定の精度管理(QA)」において、極めて重要です。
-なぜ「温度・圧力補正」が必要なのか?ー
私たちが普段使っている指頭形電離箱の中に入っているのは、特別な気体ではなく、その場の「空気」です。 空気の密度は、温度と圧力(気圧)によって変化します。
- 温度が上がると → 空気は膨張し、密度は下がる
- 圧力が上がると → 空気は圧縮され、密度は上がる
もし、この密度の変化を無視して測定すると、夏と冬、あるいは晴れの日と台風の日とで、測定値がバラバラになってしまいます。
これを防ぐため、私たちは電離箱で線量を測定する際には、必ずその場の温度と気圧を測定し、「温度圧力補正係数(Pₜ,ₚ)」を乗じて、基準となる状態(標準状態)での値に換算しています。
これは、まさに「電離電流は密度に比例する」という物理原理を、臨床現場で正確に適用している、非常に重要なプロセスなのです。
今日のまとめ
- 電離箱で測定される電離電流は、空洞内の気体がどれだけ電離したかに比例する。
- 電離量は、気体の体積と密度に比例し、気体のW値に反比例する。
- この「電流は密度に比例する」という原理のため、臨床での正確な線量測定には温度・圧力補正が不可欠である。
- 通常の使用電圧(飽和領域)では、電離電流は印加電圧に依存しない。
コメント