高純度Ge半導体検出器の基本構成に含まれないのはどれか。
- 高圧電源
- 線形増幅器
- 前置増幅器
- 光電子増倍管
- 多重波高分析器
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
4.光電子増倍管
解説
✔ 高純度Ge半導体検出器(HPGe)の信号処理の流れ
HPGe検出器は、γ線のエネルギーを非常に精密に測定できる、高性能な半導体検出器です。
その原理は、γ線がゲルマニウム結晶内でエネルギーを失い、そのエネルギー量に比例した数の「電子・正孔対(電荷)」を直接作り出すことにあります。
この、発生したごく微弱な電荷を、最終的にエネルギースペクトルとして表示するまでの一連の流れ(信号処理チェーン)を理解することが、この問題を解くカギです。
- 検出器本体+高圧電源
- 高圧電源がGe結晶に電圧をかけ、γ線の入射によって生成された電子と正孔を効率よく集めます。
- 前置増幅器 (プリアンプ)
- 集められた非常に微弱な電荷の信号を、ノイズの影響を受けにくい電圧パルスに変換し、最初の増幅を行います。
- 線形増幅器 (主増幅器)
- プリアンプから送られてきたパルスを、さらに大きく増幅し、解析しやすい波形に整形します。
- 多重波高分析器 (MCA)
- 増幅されたパルスの「波高(電圧の高さ)」を測定します。この波高は、元のγ線のエネルギーに比例するため、パルスを波高ごとに仕分け・計数することで、精密なエネルギースペクトルを作成します。
✔ 光電子増倍管(PMT)はどこで使われる?
一方、光電子増倍管 (PMT)は、微弱な「光」を検出して、それを電気信号に変換・増幅する装置です。 これは、シンチレーション検出器(例: NaI(Tl)検出器)で使われる部品です。
シンチレーション検出器は、①放射線がシンチレータに当たって「光」を発生させ、②その光をPMTで検出する、という二段階のプロセスを踏みます。
HPGe検出器は放射線を直接「電荷」に変換し、「光」を介さないため、光電子増倍管は全く必要ありません。
✔ 各選択肢について
1. 高圧電源
- ❌ 誤り
- Ge結晶に電圧をかけ、電荷を収集するために必須。
2.線形増幅器
- ❌ 誤り
- 信号をさらに増幅・整形するために必須。
3.前置増幅器
- ❌ 誤り
- 微弱な電荷を最初の電圧パルスに変換するために必須。
4.光電子増倍管
- ✅ 正解
- 光を電気信号に変換する部品。HPGeには不要。
5.多重波高分析器
- ❌ 誤り
- エネルギー分析(スペクトル作成)のために必須。
出題者の“声”

この問題は、放射線検出器の「チーム構成」を正しく理解しておるかを試しておる。「半導体チーム」のメンバーと、「シンチレーションチーム」のメンバーを、ごちゃ混ぜにしておらんか?というわけじゃ。
光電子増倍管(PMT)は、シンチレーションチームのスター選手。放射線検出器の世界では有名人じゃが、今回の半導体チームには呼ばれておらん。
「検出器の部品」というだけで、何となく全部一緒くたに覚えておる者は、この有名人(PMT)の名前に惑わされてしまう。
大切なのは、「その検出器は何を信号として拾うのか?」を常に意識することじゃ。
HPGeは「電荷」を、シンチレータは「光」を拾う。
この最初の違いが分かっていれば、PMTが場違いな存在であることは一目瞭然じゃろう。
臨床の“目”で読む

HPGe検出器は、その最大の特徴である「極めて高いエネルギー分解能」を活かして、特に核医学の分野で重要な役割を果たしています。
ー放射性医薬品の品質管理(QC)ー
患者さんに投与する放射性医薬品は、目的の核種が正しい純度で含まれているかを確認する必要があります。 例えば、テクネシウム (Tc-99m) を使う検査では、その親核種であるモリブデン (Mo-99) がごく微量に混入していないかをチェックする「モリブデンブレークスルー試験」が義務付けられています。
Tc-99mの140keVのγ線と、Mo-99の740keVのγ線はエネルギーが大きく離れていますが、これを正確に分離・定量するには、NaI (Tl)検出器よりもHPGe検出器のほうが遥かに優れています。HPGe検出器を使うことで、ごく微量の不純物も見逃さずに検出でき、医薬品の品質と患者さんの安全を担保しているのです。
ーなぜ臨床“画像”には使われない?ー
これほど高性能なら、SPECTカメラにも使えば良いのに、と思うかもしれません。
しかし、HPGe検出器は、
- 非常に高価であること
- 液体窒素などで常時冷却が必要なこと
- NaI(Tl)結晶に比べて検出効率が低いこと
などの理由から、一般的な撮像装置として使うには不向きです。
その高い分析能力は、主に実験室での精密測定や品質管理の現場で発揮されます。
今日のまとめ
- HPGe半導体検出器は、放射線を直接「電荷」に変換する。光電子増倍管(PMT)は不要。
- HPGe検出器の信号処理チェーンは、高圧電源 → 前置増幅器 → 線形増幅器 → 多重波高分析器 の流れが基本。
- 光電子増倍管(PMT)は、光を信号に変換する部品であり、シンチレーション検出器に必須の構成要素である。
- HPGe検出器の非常に高いエネルギー分解能は、臨床では放射性医薬品の純度管理などで活かされている。
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