第77回 午前 78

画像工学

トモシンセシスで正しいのはどれか。

  1. FPDを用いた断層撮影である。
  2. 乳房用X線装置のみに搭載されている。
  3. 1回の撮影で1枚の断層画像を取得する。
  4. 断層振れ角が大きいほど断層厚は厚くなる。
  5. 目的断面を幾何学的にぼかすことによって断層画像を取得する。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1.FPDを用いた断層撮影である。


解説

✔ トモシンセシスとは?:デジタル時代の「パラパラ漫画」断層撮影

トモシンセシスは、FPD(フラットパネルディテクタ)を用いた、デジタル断層撮影技術の一種です。

その原理は、X線管を一定の角度範囲で連続的に動かしながら、複数の異なる角度から低線量で撮影し、得られた多数の投影データをコンピュータで再構成することで、任意の深さの断層画像を得る、というものです。
「色々な角度から見た景色を、後からコンピュータで重ね合わせて、見たい深さにピントを合わせる」とイメージすると分かりやすいでしょう。


✔ 各選択肢について

1. FPDを用いた断層撮影である。

  • 正解
  • トモシンセシスは、FPDの高速なデータ読み出し能力があって初めて可能になった、デジタル時代の断層撮影技術です。

2.乳房用X線装置のみに搭載されている。

  • 誤り
  • 乳房(マンモグラフィ)での応用が最も有名ですが、その有用性から、近年では一般撮影装置(胸部、整形外科領域)や血管撮影装置などにも搭載が広がっています。

3.1回の撮影で1枚の断層画像を取得する。

  • 誤り
  • 1回の連続した撮影(スイープ)で、多数の投影データを収集します。そのデータから、コンピュータ処理によって何十枚もの連続した断層画像を再構成することができます。

4.断層振れ角が大きいほど断層厚は厚くなる。

  • 誤り
  • 断層振れ角(X線管が動く角度範囲)が大きいほど、より多くの角度からの情報が得られるため、深さ方向の分解能が向上し、断層厚は薄くなります。

5.目的断面を幾何学的にぼかすことによって断層画像を取得する。

  • 誤り
  • これはフィルム時代に行われていた「従来型(アナログ)トモグラフィ」の原理です。
  • 従来法は、X線管とフィルムを連動させて動かし、目的断面以外を物理的に「ぼかす」ことで断層像を得ていました。一方、トモシンセシスは、デジタルデータを用いた数学的な画像再構成によって断層像を得る、全く異なる原理です。

出題者の“声”

この問題は、トモシンセシスという技術を、その「デジタルならでは」の本質で理解しておるかを試しておる。

最大のワナは、5番の選択肢じゃな。これは、昔ながらの「アナログ断層撮影」の原理そのもの。トモシンセシスを、ただの「断層撮影」という言葉の響きだけで捉えておる者は、この古典的なワナにまんまと引っかかる。

「トモシンセシス = デジタル再構成」 「従来型トモグラフィ = 幾何学的なボケ」

この決定的な違いを、頭の中で明確に区別できているか。そして、振れ角と断層厚の関係(大きいほど薄くなる)といった、断層撮影の基本原則を覚えているか。そこが、合否を分けるポイントじゃった。


臨床の“目”で読む

トモシンセシスが臨床で最も威力を発揮するのは、やはり乳房撮影(マンモグラフィ)です。

なぜマンモグラフィで重宝されるのか?

通常の2Dマンモグラフィでは、乳腺組織が重なり合ってしまい、その陰に隠れた小さな病変を見つけるのが難しい場合があります。 トモシンセシスは、この「乳腺の重なり」を分解し、あたかも乳房をパラパラ漫画のように一枚ずつめくって観察できるため、

  • 病変の検出能が向上する(特に高濃度乳腺で有効)
  • 正常な乳腺の重なりを、病変と誤読するリスクが減る

といった大きなメリットがあります。これにより、偽陽性(がんでないものをがんと疑うこと)による不要な精密検査を減らしつつ、早期がんの発見率を高めることが期待されています。

その他の領域への応用

この「重なりの分離」という利点は、他の部位でも有効です。

例えば、整形外科領域では、金属インプラントの周囲や、複雑な骨折の評価に応用されています。

胸部領域では、肺結節と血管の重なりを分離して、結節の性状をより詳細に評価するのに役立ちます。


今日のまとめ

  1. トモシンセシスは、FPDを用いたデジタル断層撮影技術である。
  2. 1回の撮影で得た多数の投影データから、コンピュータ処理で多数の断層画像を再構成する。
  3. 目的断面以外を「ぼかす」従来法とは原理が全く異なる
  4. 断層振れ角が大きいほど、断層分解能は高くなり、断層厚は薄くなる
  5. 臨床では、主にマンモグラフィで乳腺の重なりを分離し、病変の検出能を向上させるために用いられる。

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