X線管装置の動作特性で正しいのはどれか。
- 管電流は電極間距離の2乗に比例する。
- ヒール効果はターゲット角度に影響しない。
- 実焦点の熱電子密度は正焦点、副焦点とも均等である。
- ブルーミング現象は管電流条件で実効焦点寸法に影響する。
- 焦点近傍から発生した焦点外X線の強度は遠方に比べ強い。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
4.ブルーミング現象は管電流条件で実効焦点寸法に影響する。
解説
✔ X線管の「クセ」を理解する
X線管は、単純にX線を発生させるだけの装置ではなく、その動作条件によって様々な特性(クセ)を示します。
この問題は、画質や線量に影響する、そうした代表的な現象を正しく理解しているかを確認しています。
✔ 各選択肢について
1. 管電流は電極間距離の2乗に比例する。
- ❌ 誤り
- 管電流 [mA] の大きさは、主にフィラメントの温度(フィラメント電流)によって決まります。
- フィラメントを高温に熱するほど、より多くの熱電子が飛び出し、管電流は大きくなります。陽極と陰極の距離は、直接的な制御因子ではありません。
2.ヒール効果はターゲット角度に影響しない。
- ❌ 誤り
- ヒール効果は、ターゲット角度に大きく影響されます。
- ターゲット角度が小さい(ターゲット面が急峻である)ほど、X線が陽極内で通過する距離の差が大きくなるため、ヒール効果はより顕著になります。
3.実焦点の熱電子密度は正焦点、副焦点とも均等である。
- ❌ 誤り
- まず、一般的に使われる用語は「正焦点・副焦点」ではなく「小焦点・大焦点」です。そして、フィラメントから放出される電子ビームの密度は、中心部が最も高く、周辺にいくほど低くなる不均一な分布をしています。
4.ブルーミング現象は管電流条件で実効焦点寸法に影響する。
- ✅ 正解
- ブルーミング現象とは、大電流(高mA)を設定した際に、フィラメントから放出される電子同士のマイナス電荷による反発(空間電荷効果)が強まり、電子ビームが広がってしまう現象です。これにより、陽極上の実効焦点が設定値よりも大きくなり、画像の鮮鋭度(解像度)が低下する原因となります。
5.焦点近傍から発生した焦点外X線の強度は遠方に比べ強い。
- ❌ 誤り
- 焦点外X線とは、陽極の焦点で反射した電子が、焦点以外の部分に当たって発生する不要なX線です。これは画像のコントラストを低下させる原因となりますが、その強度は主たるX線に比べて非常に弱く、この選択肢のような特性は一般的ではありません。
出題者の“声”

この問題は、X線管の「教科書的な理想の姿」だけでなく、その「現実のクセ」まで含めて理解しておるかを問うておる。プロの技師なら、道具の長所も短所も知っておかねばならんからのう。
ブルーミング現象は、その代表的な「クセ」じゃな。
「大電流を流せばX線は増えるが、その代償として焦点がボケて切れ味が悪くなる」。このトレードオフの関係を分かっておるかが、まず一つのポイントじゃ。
そして、ヒール効果とターゲット角度の関係、管電流の制御方法といった、X線管の基本特性も試しておる。 一つひとつの現象を、なぜそうなるのかという物理的な理由とセットで覚えておけば、迷うことはないはずじゃ。
臨床の“目”で読む

X線管の動作特性は、私たち放射線技師が日々直面する「画質」と「撮影条件」の最適化に深く関わっています。
ーブルーミング現象との付き合い方ー
臨床現場では、被写体の動きを止めるために、非常に短い撮影時間(=大電流)が求められることがよくあります(例: 小児の撮影、心臓の動きを追う循環器領域など)。
しかし、大電流を流せば流すほど、ブルーミング現象によって画像のボケ(幾何学的不鮮鋭)が大きくなるというジレンマが生じます。
私たちは、「被写体ブレ」と「幾何学的ブレ」のどちらを優先的に避けるべきかを瞬時に判断し、許容される範囲で最適なmA値と撮影時間を選択するという、高度な判断を常に行っているのです。
ーヒール効果の積極的な利用ー
ヒール効果は、画質を均一にするためのテクニックとして、特に被写体の厚み(吸収差)が大きい撮影で積極的に利用されます。
例えば、胸部撮影では、厚みのある横隔膜側を陰極側に、薄い肺尖部側を陽極側に合わせることで、濃度ムラを抑えた良好な画像を得ることができます。これは、X線管の「クセ」を逆に利用した、プロの知恵と言えます。
今日のまとめ
- ブルーミング現象とは、大電流(高mA)時に電子ビームの反発で実効焦点が大きくなり、画像の解像度が低下する現象である。
- ヒール効果は、ターゲット角度が小さいほど顕著になる。
- 管電流の大きさは、主にフィラメント電流(フィラメントの温度)によって制御される。
- 臨床では、被写体ブレを防ぐための高mAと、焦点のボケを防ぐための低mAとの間で、常に最適なバランスを考える必要がある。
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