乳房用X線装置で正しいのはどれか。
- X線放射口にはRhが用いられる。
- 管電流の精度は±10%以内である。
- 焦点寸法は1〜2 mmが標準的である。
- 陽極のターゲットにはAlが用いられる。
- ヒール効果を利用し乳房全体の線量均一化を行っている。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
5.ヒール効果を利用し乳房全体の線量均一化を行っている。
解説
✔ なぜマンモグラフィ装置は特別なのか?
乳房は、骨と違って内部がすべて軟部組織で構成されており、しかも病変と正常組織のX線吸収差が非常に小さいのが特徴です。
そのため、マンモグラフィ装置には、このわずかなコントラスト差を最大限に引き出し、かつ微細な構造を鮮明に写し出すための、以下のような特殊な設計がされています。
- 線量分布の最適化
- 圧迫した乳房の厚み分布に合わせて、ヒール効果を積極的に利用します。
- 低エネルギーX線の利用
- 軟部組織のコントラストを高めるため、モリブデン(Mo)やロジウム(Rh)といった特殊なターゲット/フィルタを使用し、低エネルギーの特性X線を効率よく利用します。
- 高い空間分解能
- 微小な石灰化を描出するため、非常に小さな焦点(0.1〜0.3 mm)を用います。
✔ 各選択肢について
1. X線放射口にはRhが用いられる。
- ❌ 誤り
- Rh(ロジウム)は、X線を発生させる陽極ターゲットや、線質を調整するフィルタとして使用される金属ですが、X線が出る窓である放射口(通常はベリリウム製)の材料ではありません。
2.管電流の精度は±10%以内である。
- ❌ 誤り
- 画質と線量を安定させるため、より高い精度が求められます。JIS規格では、管電流の精度は±5%以内と定められています。
3.焦点寸法は1〜2 mmが標準的である。
- ❌ 誤り
- これは一般撮影装置の焦点寸法です。マンモグラフィでは、微細な石灰化を鮮明に描出するために、0.1〜0.3 mmという非常に小さな焦点が標準的に用いられます。
4.陽極のターゲットにはAlが用いられる。
- ❌ 誤り
- 乳房撮影に最適な低エネルギーの特性X線を効率よく発生させるため、陽極ターゲットには主にモリブデン(Mo)やロジウム(Rh)が用いられます。Al(アルミニウム)は、一般撮影のフィルタなどには使われますが、マンモグラフィのターゲットには適しません。
5.ヒール効果を利用し乳房全体の線量均一化を行っている。
- ✅ 正解
- 圧迫された乳房は、体の中心に近い胸壁側が厚く、乳頭側が薄くなります。X線強度が陰極側で強く、陽極側で弱くなるヒール効果を利用し、厚い胸壁側を陰極側に合わせることで、乳房全体に均一な線量が分布するように工夫されています。これにより、濃度ムラのない適切な画像が得られます。
出題者の“声”

この問題は、「マンモグラフィは、ただの小さな胸部撮影ではない」ということを、分かっておるかを試しておる。一般撮影の常識が、ここでは通用せんことが多々あるからのう。
- ターゲットは? → Mo/Rhじゃ!
- 焦点は? → 0.1〜0.3mmじゃ!1mmなんて大きすぎる。
- 精度は? → ±5%じゃ!±10%では甘い。
そして、最大のポイントはヒール効果じゃな。
一般撮影では画質を均一にするための「テクニック」として使うが、マンモグラフィでは装置設計の段階から「標準機能」として組み込まれておる。この「厚い胸壁側を陰極へ」というポジショニングの鉄則は、ヒール効果という物理現象に裏打ちされた、極めて合理的な理由があるのじゃ。
臨床の“目”で読む

マンモグラフィにおけるこれらの特徴は、すべて「質の高い画像を、いかに少ない被ばくで得るか」という目標に集約されます。
ーターゲット/フィルタの組み合わせー
臨床では、乳房の厚みや乳腺密度に応じて、ターゲットとフィルタの組み合わせ(例: Mo/Mo, Mo/Rh, Rh/Rh)を自動または手動で切り替えます。これにより、それぞれの乳房に最適なエネルギーのX線(線質)を供給し、コントラストと被ばくのバランスを最適化しています。
ー焦点と拡大撮影ー
0.1 mm台の小焦点は、特に拡大撮影でその真価を発揮します。微細な石灰化の形や辺縁の状態を詳細に観察する必要がある場合、拡大撮影を行いますが、このとき焦点が小さいことで、拡大によるボケを最小限に抑え、シャープな画像を得ることができるのです。
ーポジショニングとヒール効果ー
ヒール効果を最大限に活かすための「胸壁側=陰極、乳頭側=陽極」という配置は、マンモグラフィ撮影の基本中の基本です。
私たち放射線技師は、ポジショニングの際に、この物理原理を意識し、装置の性能を100%引き出すことで、診断価値の高い画像を提供しています。
今日のまとめ
- マンモグラフィは、低エネルギーX線と高解像度が求められるため、ターゲットにMo/Rh、焦点に0.1~0.3mmを用いるなど、特殊な設計がされている。
- ヒール効果を積極的に利用し、厚い胸壁側を陰極側に配置することで、乳房全体の濃度を均一化している。
- 管電流の精度は±5%以内など、一般撮影よりも厳しい品質管理基準が定められている。
- これらの特徴は、軟部組織のコントラストと空間分解能を最大限に高めるための工夫である。
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