歯科用コーンビームCT装置で正しいのはどれか。
- 90度回転して撮影する。
- 視野サイズが変更できない。
- ヘリカルスキャンを用いる。
- 幾何学的ひずみ補正が必要である。
- 検出器にイメージングプレートが用いられる。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
4.幾何学的ひずみ補正が必要である。
解説
✔ 歯科用コーンビームCT(CBCT)とは?
- 歯科用コーンビームCTは、その名の通り、円錐状(コーン)のX線ビームを使い、主に歯科・口腔外科領域の高精細な3D画像を得るための装置です。
- 医科用CT(MSCT)が、寝台を動かしながらファン状のビームでらせん状にスキャンする(ヘリカルスキャン)のに対し、CBCTは寝台を固定したまま、X線管と検出器が対象の周りを1回転するだけで3次元データを収集するのが大きな特徴です。
✔ なぜ「幾何学的ひずみ補正」が不可欠なのか?
CBCTの「コーンビームで撮影し、平面の検出器(FPD)で受ける」という仕組みは、原理的に画像の「歪み」を生じさせやすいという宿命を持っています。
- 円錐状のビーム
- 点状の線源から広がるX線は、検出器の中心では垂直に入射しますが、周辺部では斜めに入射します。
- 機械的な誤差
- 装置が180度~360度回転する際に、ごくわずかな回転のズレや機械的なブレが生じます。
これらの要因が組み合わさることで、再構成した3D画像に幾何学的な歪みが生じてしまいます。
インプラント治療などで精密な寸法精度が求められる歯科領域において、この歪みを数学的に補正するキャリブレーション(校正)は、診断に耐えうる画像を再構成するために不可欠なプロセスなのです。
✔ 各選択肢について
1. 90度回転して撮影する。
- ❌ 誤り
- 3D画像を再構成するためには、通常180度以上(多くの装置では360度)の回転データ収集が必要です。
2.視野サイズが変更できない。
- ❌ 誤り
- 多くの装置では、診断目的に応じて撮影範囲(FOV: Field of View)を変更できます。不要な被ばくを避けるため、関心領域に合わせて視野を絞るのが原則です。
3.ヘリカルスキャンを用いる。
- ❌ 誤り
- ヘリカルスキャンは、寝台を動かしながら撮影する医科用CTの技術です。CBCTは患者を固定したまま円軌道で1回転するのが基本です。
4.幾何学的ひずみ補正が必要である。
- ✅ 正解
- 前述の通り、コーンビームと回転機構に起因する歪みを取り除き、寸法的に正確な画像を得るために、幾何学的ひずみ補正は必須のプロセスです。
5.検出器にイメージングプレートが用いられる。
- ❌ 誤り
- 1回転の間に多数の投影データを高速に収集する必要があるため、FPD(フラットパネルディテクタ)などの高速デジタル検出器が用いられます。イメージングプレート(IP)は、静止画を記録するCRシステムで使われるもので、CBCTには使用しません。
出題者の“声”

この問題は、歯科用コーンビームCTという「専門家」と、医科用CTという「万能選手」の、原理的な違いを分かっておるかを試しておる。
「CT」という名前がついとるからといって、医科用CTの常識をそのまま当てはめようとすると、ワナにはまるぞ。
- 「CTだからヘリカルスキャンだろう」→ × CBCTは1回転じゃ!
- 「デジタル検出器だから歪みはないだろう」→ × コーンビームだからこそ歪み補正が必須じゃ!
この2つのポイントが、CBCTを理解する上での最大のキモじゃな。
それぞれの装置には、その目的に合わせた最適な設計思想がある。その背景まで含めて理解できていれば、これは決して難しい問題ではない。
臨床の“目”で読む

歯科用CBCTは、その特徴から歯科領域で爆発的に普及し、今やなくてはならない存在となっています。
ーCBCTの臨床的な強みー
- 高い空間分解能
- 医科用CTよりも細かいピクセルサイズの検出器を用いることが多く、歯や歯槽骨、顎関節といった硬組織の微細な構造を、極めて鮮明に描出できます。インプラント埋入計画や、歯根の破折・病巣の診断に絶大な威力を発揮します。
- 短い撮影時間と低被ばく
- 1回転で撮影が完了するため、撮影時間は10~20秒程度と非常に短いです。また、撮影範囲を必要な部分だけに限定できるため、医科用CTで頭部全体を撮影する場合に比べて、被ばく線量を大幅に低減できます。
ーCBCTの限界ー
一方で、CBCTは軟部組織のコントラスト分解能が低いという弱点があります。そのため、腫瘍の進展範囲やリンパ節転移の評価など、軟部組織の情報が重要な場合は、医科用CTやMRIが選択されます。まさに「適材適所」ですね。
今日のまとめ
- 歯科用コーンビームCTは、円錐状(コーン)X線ビームとFPDを用い、寝台を固定したまま1回転してデータ収集を行う。
- 医科用CTで用いられるヘリカルスキャンとは原理が異なる。
- コーンビームの原理上、幾何学的ひずみが生じやすく、正確な画像を得るためにその補正が不可欠である。
- 主な用途は歯科・口腔外科領域で、高い空間分解能と限定範囲での低被ばくが大きな利点である。
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