第77回 午前 83

エックス線撮影技術学

X線撮影におけるグリッドの使用で正しいのはどれか。ただし、撮影条件は一定とする。

  1. 鮮鋭度が低下する。
  2. 粒状性が向上する。
  3. 被ばく線量が減少する。
  4. 画像コントラストが向上する。
  5. 骨組織でのX線透過性が減少する。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


4.画像コントラストが向上する。


解説

✔ グリッドの役割:画像の「霧」を取り除く

X線が体を透過する際、一部はまっすぐ検出器に向かいますが(一次X線)、多くは体内で方向を変えて散乱します(散乱線)。

この散乱線は、画像全体を白っぽく覆う「霧」のようになり、画像のコントラストを著しく低下させる原因となります。

グリッドの役割は、この「霧(散乱線)」を取り除くことです。 ブラインドカーテンをイメージすると分かりやすいでしょう。

  • 一次X線カーテンにまっすぐ向かう光のように、グリッドのスリットを通過できる。
  • 散乱線:斜め方向から来る光のように、ブラインドの羽根(鉛箔)に吸収され、遮断される。

これにより、検出器には有用な一次X線だけが届き、画像のコントラストが劇的に向上します。


✔ 各選択肢について

1. 鮮鋭度が低下する。

  • 誤り
  • グリッドは散乱線を除去するもので、画像の幾何学的なボケ(不鋭)には直接影響しません。むしろ、霧が晴れることで、画像の見かけ上の鮮明さ(コントラスト分解能)は向上します。

2.粒状性が向上する。

  • 誤り
  • 粒状性(画像のザラザラ感)は、主にX線光子の数(線量)に依存します。グリッドの使用自体が粒状性を直接変化させるわけではありません。

3.被ばく線量が減少する。

  • 誤り
  • これが最も重要な副作用です。グリッドは散乱線だけでなく、一部の一次X線も吸収してしまいます。そのため、グリッドなしの場合と同じ濃度の画像を得るには、より多くのX線量(mAs値)が必要となり、結果として患者の被ばく線量は増加します。

4.画像コントラストが向上する。

  • 正解
  • 散乱線という「霧」を除去することがグリッドの最大の目的であり、これにより画像コントラストは著しく向上します。

5.骨組織でのX線透過性が減少する。

  • 誤り
  • グリッドは患者と検出器の間に置かれるものであり、患者自身の体(骨組織など)のX線透過性に影響を与えることはありません。

出題者の“声”

この問題は、X線撮影における最も基本的なトレードオフ、すなわち「画質向上 vs 被ばく増加」の概念を、グリッドという道具を通じて理解しておるかを試しておる。

グリッドは、画質を劇的に良くする魔法の板じゃ。

しかし、その魔法には代償が伴う。それが「被ばく線量の増加」じゃ。 「散乱線がカットされるから、線量も減るはずだ」という安易な思い込みは、ここでは通用せん。「コントラスト向上のために、線量増加を許容する」というのが、グリッド使用の本質じゃからな。

この「グリッド = コントラストUP = 被ばくUP」という三点セットを、頭に叩き込んでおけば、どんな問題が出ても迷うことはないぞ。


臨床の“目”で読む

グリッドを使うか使わないか、という判断は、私たち放射線技師が日常的に行う重要な意思決定の一つです。

ーグリッドはいつ使うのか?ー

明確なルールはありませんが、一般的に以下の条件で散乱線が多く発生するため、物理グリッドの使用が推奨されます。

  • 被写体が厚い場合: 目安として厚さ10cm以上(腹部、骨盤、腰椎など)
  • 管電圧が高い場合: 目安として80kV以上

ー進化する散乱線対策:「バーチャルグリッド」とは?ー

近年、物理的なグリッドを用いずに、ソフトウェア処理で散乱線を除去する「バーチャルグリッド(ソフトウェアグリッド)」技術が急速に普及しています。

これは、グリッドなしで撮影した低コントラストな画像から、AIなどの高度な画像処理技術を用いて散乱線成分を推定し、それを引き算することで、あたかも物理グリッドを使って撮影したかのような高コントラスト画像を得る技術です。

この技術の最大のメリットは、大幅な被ばく低減です。物理グリッドによるX線の吸収がないため、撮影線量を半分近くまで減らせる場合もあります。

また、グリッドのセンタリングが不要なため、特にポータブル撮影での失敗を減らし、業務効率を向上させる切り札として期待されています。


今日のまとめ

  1. グリッドの主な目的は、散乱線を除去し、画像コントラストを向上させることである。
  2. コントラスト向上の代償として、物理グリッドを使用すると患者の被ばく線量は増加する。
  3. グリッドは、画像の鮮鋭度(空間分解能)や組織のX線透過性には直接影響しない。
  4. 近年では、被ばくを低減しつつコントラストを改善できるソフトウェア技術「バーチャルグリッド」の利用が拡大している。

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