骨塩定量用のファントム写真を示す。これを使用する測定法はどれか。

- 定量的CT(QCT)法
- 定量的超音波(QUS)法
- X線写真濃度測定(RA)法
- 単一エネルギーX線吸収測定(SXA)法
- 二重エネルギーX線吸収測定(DXA)法
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1.定量的CT(QCT)法
解説
✔ このファントムの正体と目的
写真に示されているのは、複数の異なる濃度の骨模倣物質(リン酸カルシウムなど)のロッドが、物質の中に配置された、定量的CT(QCT)法専用の校正用ファントムです。
✔ QCT(定量的CT)法とは?
QCT法は、この専用ファントムを患者さんと一緒にCTで撮影し、得られた画像を用いて骨密度を測定する方法です。
- まず、CT画像上で、濃度の分かっているファントム内の各ロッドのCT値(HU)を測定します。
- この「既知の骨塩濃度」と「CT値」の関係から、検量線(キャリブレーションカーブ)を作成します。
- 次に、同じ画像上にある患者さんの椎骨などのCT値を測定し、この検量線に当てはめることで、その部位のCT値を正確な体積骨密度(mg/cm³)に変換します。
✔ 各選択肢について
1. 定量的CT(QCT)法
- ✅ 正解
- 写真のファントムは、CT撮影時に患者の体幹部と同時にスキャンし、CT値を骨塩量に換算するために用いられる、QCT法特有のものです。
2.定量的超音波(QUS)法
- ❌ 誤り
- QUS法は、踵(かかと)の骨などに超音波を当て、その伝播速度や減衰から骨の状態を評価する方法です。X線もCTも使用しません。
3.X線写真濃度測定(RA)法
- ❌ 誤り
- RA法は、手のX線写真と、同時に撮影したアルミニウム製の階段状の板(ステップウェッジ)との濃度を比較する、より簡易的な方法です。
4.単一エネルギーX線吸収測定(SXA)法
- ❌ 誤り
- SXA法は、単一エネルギーのX線ビームを用いて、主に前腕などの末梢骨の骨量を測定する古い方法です。
5.二重エネルギーX線吸収測定(DXA)法
- ❌ 誤り
- DXA(デキサ)法は、骨粗しょう症の標準的な診断方法ですが、2種類の異なるエネルギーのX線を用いて面積骨密度(g/cm²)を測定します。その校正用ファントムは、通常、平坦な板状のものです。
出題者の“声”

この問題の鍵は、写真に写ったファントムの形状じゃ。この「患者の体の下に敷いて、CTで一緒にスキャンする」ことを前提とした円柱状のファントムを見れば、即座に「QCT法!」と結びつけられねばならん。
最大のワナは、最もメジャーな骨密度測定法である「DXA法」との混同じゃな。
しかし、思い出してみい。CTは三次元の断層像を撮る装置じゃ。だから、QCTで得られるのは、真の「体積」骨密度 (mg/cm³) 。
一方、DXAは二次元の平面像じゃ。だから、得られるのは見かけ上の「面積」骨密度 (g/cm²) 。 この「体積か、面積か」という決定的な違いと、それに伴うファントムの形状の違いを理解しておれば、間違うことはないはずじゃ。
臨床の“目”で読む

骨粗しょう症の診断におけるゴールドスタンダードはDXA法ですが、QCT法にはDXA法にはない、独自の臨床的価値があります。
ーQCT法の強み:真の骨密度と分離測定ー
- 真の体積骨密度の測定
- QCTは、骨を三次元的に評価するため、骨の大きさや厚みに影響されない、真の体積骨密度(vBMD)を測定できます。
- 海綿骨の分離測定
- 椎体骨は、外側の硬い皮質骨と、内側のスポンジ状で代謝が活発な海綿骨からなります。QCTでは、この海綿骨だけを選択的に測定することができます。骨粗しょう症による骨量減少や、治療による骨量増加は、まずこの海綿骨から現れるため、QCTは治療効果の早期判定などに非常に感度が高いとされています。
- 加齢性変化の影響を受けにくい
- 高齢者では、背骨の変形(変形性脊椎症)や大動脈の石灰化などが、DXA法による測定値に影響を与え、骨密度を実際よりも高く見せてしまうことがあります。QCTでは、関心領域(ROI)を椎体内部に設定するため、これらの影響を避けて正確な骨密度を測定できます。
このように、QCTは日常的なスクリーニング検査ではありませんが、より詳細な評価が必要な場合や、DXA法の測定が困難な症例において、強力な診断ツールとなるのです。
今日のまとめ
- 写真のファントムは、定量的CT(QCT)法で用いられる校正用ツールである。
- QCT法は、ファントムを用いてCT値(HU)を体積骨密度(mg/cm³)に変換する。
- 最も一般的なDXA法は面積骨密度(g/cm²)を測定する方法であり、原理もファントムも異なる。
- QCT法は、海綿骨を分離測定できるため、治療効果の早期判定などに優れている。
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