頭部の血管造影写真を示す。矢印で示すのはどれか。

- 椎骨動脈
- 内頚動脈
- 脳底動脈
- 浅側頭動脈
- 中大脳動脈
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
2.内頚動脈
解説

✔ この画像で何が分かるか?
この画像は、カテーテルを用いて総頚動脈から造影剤を注入して撮影した、脳血管造影写真です。
総頚動脈から分岐する、脳を栄養する内頚動脈(ICA)と、顔面や頭皮を栄養する外頚動脈(ECA)の両方が描出されています。
✔ 脳を栄養する2大動脈ルート
脳を栄養する動脈は、大きく2つの系統に分かれます。この「前方」と「後方」のルートを理解することが、頭部血管解剖の基本です。
- 前方循環
- 脳の前方〜側方を栄養する系統です。首の前方を上る内頚動脈が主役です。
- 後方循環
- 脳の後方や脳幹を栄養する系統です。首の骨の中を上る椎骨動脈と、それが合流した脳底動脈が主役です。
この画像では、特徴的なS字状のカーブ(内頚動脈サイフォン)を描いて頭蓋内を上行する血管が明瞭に写っており、これはまさしく前方循環の主役である「内頚動脈」の典型的な走行です。
✔ 各選択肢について
1. 椎骨動脈
- ❌ 誤り
- 後方循環の血管です。
- 椎骨動脈は鎖骨下動脈から分岐するため、総頚動脈から造影するこの撮影では通常描出されません。
2.内頚動脈
- ✅ 正解
- 矢印は、頭蓋内に入り、S字状のカーブ(サイフォン部)を描く、前方循環のメイン血管である内頚動脈を指しています。
3.脳底動脈
- ❌ 誤り
- 左右の椎骨動脈が合流してできる後方循環の血管です。
4.浅側頭動脈
- ❌ 誤り
- これは、頭皮など頭蓋骨の外側を栄養する外頚動脈の枝です。
5.中大脳動脈
- ❌ 誤り
- 中大脳動脈(MCA)は、内頚動脈から分岐する重要な血管の一つです。
出題者の“声”

この問題は、脳血管という「頭の中の地図」を、正しく読めるかを試しておる。
まず、首から頭へ向かう主要血管と、そこから分岐する前方循環(内頚動脈が主役)と後方循環(椎骨動脈が主役)という、大きなエリア分けを理解しておるか。それが第一関門じゃ。
この写真の、特徴的なS字カーブ(サイフォン)は、内頚動脈のトレードマーク。これを見れば、即座に「前方循環の内頚動脈!」と答えられねばならん。
血管解剖の基本中の基本、この問題でつまずいておるようでは、国試は厳しい戦いになるぞ。国試に絶対に落としてはいけない問題があるとするならば、これはそれに該当するサービス問題じゃ。
臨床の“目”で読む

内頚動脈は、脳血管造影やMRA、CTAにおいて、最も重要な評価対象となる血管の一つです。
ーなぜ内頚動脈が重要なのか?ー
内頚動脈は、臨床的に問題となる病変の好発部位だからです。
- 動脈硬化による狭窄・閉塞
- 特に首の部分(頚部内頚動脈)は、動脈硬化によるプラークで血管が狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)しやすく、これが脳梗塞の大きな原因となります。カテーテルによるステント治療(CAS: Carotid Artery Stenting)の良い適応となります。
- 脳動脈瘤
- 頭蓋内のS字カーブ(サイフォン部)や主要な分岐部は、血流のストレスがかかりやすく、脳動脈瘤の好発部位です。くも膜下出血の原因となるこの動脈瘤の評価は、血管撮影の重要な目的です。
私たち放射線技師は、これらの病変を正確に描出するため、日常的にCTAやMRAを撮影し、またIVR(血管内治療)チームの一員として血管撮影装置を操作します。診断と治療を強力にサポートするため、私たち自身がこの血管解剖を熟知していることは必須です。
今日のまとめ
- 脳の動脈は、内頚動脈が主体の前方循環と、椎骨動脈・脳底動脈が主体の後方循環に大別される。
- 写真に示された、特徴的なS字カーブ(サイフォン部)を持つ血管は、前方循環の主役である内頚動動脈である。
- 中大脳動脈は内頚動脈から分岐するの主要な血管、浅側頭動脈は外頚動脈の枝であり、区別が必要。
- 内頚動脈は、脳梗塞の原因となる狭窄や、脳動脈瘤の好発部位として、臨床的に極めて重要な血管である。
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