NEW!第77回 午前 95

画像工学

エッジ法によるプリサンプルドMTFで正しいのはどれか。

  1. 単位は mm² である。
  2. ESF のトレンド補正をする。
  3. LSF は ESF を微分して得る。
  4. LSF のパワースペクトルである。
  5. 金属エッジを画素列に対して 15 度傾けて撮影する。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.LSF は ESF を微分して得る。


解説

✔ MTFとは?:「解像度(鮮鋭度)」の究極の指標

まず、MTF (Modulation Transfer Function)とは、その画像診断装置が、被写体の持つ細かな模様をどれだけ忠実に再現できるかを示す、「解像性能(鮮鋭度)」の最も優れた指標です。このMTFを精密に測定する代表的な方法が「エッジ法」です。

✔ MTF測定のレシピ(エッジ法)

エッジ法は、まるで料理のレシピのように、決まった手順で進められます。

【Step 1】 傾けたエッジを撮影する

まず、金属などでできたカミソリのように鋭いエッジを、検出器の画素の並びに対してわずかに(2~5度程度)傾けて撮影します。

なぜ傾けるの?

わざと傾けることで、エッジの境界線が多数の画素を少しずつ横切ることになります。これにより、画素と画素の間の情報も補間でき、あたかも画素サイズより遥かに細かい精度(スーパーサンプリング)でエッジのボケ具合を測定(数学的に推定)できる、という非常に賢い工夫です。

【Step 2】 ESF(エッジ拡がり関数)を作成する

撮影した画像から、エッジ部分の濃度(信号値)が「暗→明」へと変化していく様子を詳細にプロファイルします。

この「エッジのボケ具合」をグラフにしたものがESF (Edge Spread Function)です。

【Step 3】 ESFを「微分」してLSF(線拡がり関数)を得る

ここがこの問題の核心です。エッジ(面)の拡がりであるESFを、数学的に「微分」すると、線 (Line) の拡がりであるLSF (Line Spread Function)が得られます。LSFは、その画像システムで「無限に細い一本の線」を撮影したときに、それがどれだけボケて写るかを示す、解像性能の基本的な指標です。


✔ 各選択肢について

1. 単位は mm² である。

  • 誤り
  • MTFは、入力と出力のコントラストの「比」なので、単位はありません(無次元)。0から1の間の値をとります。

2.ESF のトレンド補正をする。

  • 誤り
  • より正確なMTFを求めるために、ESFのデータから撮影系のカゲ(ヒール効果などによる低周波な濃度勾配)を取り除くトレンド補正は、実際に行われる重要な前処理です。しかし、エッジ法の原理そのものを定義づけるステップは、3の「微分」であるため、これが最も的確な正解となります。

3.LSF は ESF を微分して得る。

  • 正解
  • 「エッジ(ESF)の微分が、線(LSF)になる」というのが、エッジ法の数学的な根幹であり、本質です。

4.LSF のパワースペクトルである。

  • 誤り
  • MTFは、LSFをフーリエ変換したものです。パワースペクトルは、ノイズ評価(ウィーナースペクトル)などで用いられる別の指標です。

5.金属エッジを画素列に対して 15 度傾けて撮影する。

  • 誤り
  • スーパーサンプリング効果を得るための傾きは、通常2~5度程度のわずかな角度で十分です。15度は傾けすぎです。

出題者の“声”

この問題は、MTF測定という高度なテーマについて、その「手順」と「数学的な背景」を正確に理解しておるかを問うておる。単語の丸暗記では太刀打ちできん、思考力を試す問題じゃ。

この測定法のレシピを、頭の中で再現できるか? 「傾けたエッジを撮る」→「ESFを作る」→「微分する」→「LSFができる」→「フーリエ変換する」→「MTFが完成」

この一連の流れ、特に「ESFを微分するとLSFになる」という、このレシピの「肝」となる部分を理解しておるかが、勝負の分かれ目じゃ。

他の選択肢は、手順の一部(トレンド補正)や、設定条件(角度)、あるいは全く別の概念(パワースペクトル)を混ぜ込んだワナ。本質を見抜く力が試されておるのじゃよ。


臨床の“目”で読む

「MTFなんて、研究好きな人たちの世界の話でしょ?」と思うかもしれません。しかし、このMTFこそが、私たちが日々使う画像診断装置の画質(鮮鋭度)を保証する、最も重要な「ものさし」なのです。

装置の性能評価と品質管理(QC)

CT、マンモグラフィ、FPDなど、新しい画像診断装置を導入する際や、年に一度行われる「品質管理(QC)」では、まさにこのエッジ法を用いてMTFを測定します。

  • 「この装置は、メーカーが公表している通りの解像性能が出ていますか?」
  • 「1年前に比べて、性能が劣化していませんか?」

といったことを、MTFという客観的な数値で厳密に評価しているのです。

なぜ技師も知っておくべきか?

私たち放射線技師が、この測定を直接行う機会は少ないかもしれません。しかし、MTFが何を意味するかを理解していると、

  • 画像のボケの原因が、装置の性能限界なのか、あるいは手ブレや体動なのかを切り分けて考える
  • 品質管理データを見て、自施設の装置の状態を把握する

といった、より深いレベルで画質と向き合うことができます。MTFは、私たちが提供する画像の「質」を支える、縁の下の力持ちなのです。


今日のまとめ

  1. MTFは画像の鮮鋭度を評価する最も重要な指標で、その測定法の一つがエッジ法である。
  2. エッジ法の測定手順の核心は、ESF(エッジ拡がり関数)を微分してLSF(線拡がり関数)を求める点にある。
  3. 測定時にエッジをわずかに傾けるのは、画素サイズより細かい精度でデータを取得するスーパーサンプリングのため。
  4. このMTF測定は、臨床現場では画像診断装置の導入時や定期的な品質管理(QC)に応用されている。

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