NEW!第77回 午前 96

放射線安全管理学

男性の放射線業務従事者が体幹部を覆う放射線防護衣を着衣し、頸部および防護衣の内側に1か所ずつ個人線量計を着用した。
実効線量を評価する算出式で正しいのはどれか。

ただし、不均等被ばくに対する実効線量の算出式は以下とする。

E=0.08 Ha+0.44 Hb+0.45 Hc+0.03 Hm

E:実効線量

Ha:頭部または頸部の1 cm線量当量

Hb​:胸部の1 cm線量当量

Hc​:腹部の1 cm線量当量

Hm​:Ha,Hb,Hcのうち最大となる値

  1. 0.11Ha​
  2. 0.08 Ha+0.92 Hb
  3. 0.11 Ha+0.89 Hb
  4. 0.11 Ha+0.89 Hc
  5. 0.08 Ha+0.44 Hb+0.48 Hc

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.0.11 Ha+0.89 Hb


解説

✔ この問題のゴール:不均等被ばく時の実効線量を正しく計算する

IVR(インターベンショナルラジオロジー)などで放射線防護衣を着用すると、防護衣で覆われた体幹部と、露出している頭頸部とで被ばく線量に大きな差が生まれます(不均等被ばく)。

この問題は、このような状況下で、与えられた算出式と測定条件から、実効線量Eを評価するための正しい式を導き出す問題です。

✔ 計算の前提となる「ルール」を読み解く

式を立てる前に、問題文に隠されたヒントと、適用すべきルールを整理します。

  1. ヒント①:「男性」というキーワード
    • 問題文の「男性」という記述が最初の重要なヒントです。防護衣の内側に装着する個人線量計の着用部位は、性別によって原則が定められています。
      • 男性 → 胸部
      • 女性 → 腹部 (妊娠の可能性を考慮) これにより、問題文の「胸部に着用した」という状況が確定し、その測定値が Hb​(胸部線量) を示すことが分かります。
  2. ルール①:内側線量計の扱い
    • 「防護衣の内側に線量計が1つ」の場合、その測定値を胸部(Hb​)と腹部(Hc​)の両方の値として用いるというルールがあります。したがって、Hc​=Hb となります。
  3. ルール②:最大値の判断
    • 防護衣の外側(頸部 Ha​)は内側(胸部 Hb​)より線量が圧倒的に高くなるため、最大値は Ha​ となり、Hm​=Ha となります。

✔ 算出式を導き出す3ステップ

上記のルールを基に、与えられた基本式から答えを導き出します。

【Step 1】 与えられた基本式を確認する

E=0.08Ha​+0.44Hb​+0.45Hc​+0.03Hm

【Step 2】 ルールを基本式に代入する

Step 1の基本式に、ルール① (Hc​=Hb​) と ルール② (Hm​=Ha​) を代入します。

E=0.08Ha​+0.44Hb​+0.45(Hb​)+0.03(Ha​)

【Step 3】 最終的な式を完成させる

E=0.11Ha​+0.89Hb


出題者の“声”

見た目のゴツい計算式に面食らったかの? 安心せい、これは数学の試験ではない。放射線防護の実務的な「ルール」を、君たちがどれだけ知っておるかを試す、知識の問題じゃ。

ワシが問題文の冒頭でわざわざ『男性』と書いたのを見落としてはおらんか? これが最初のヒントじゃ。

放射線防護の実務では、防護衣の内側に着ける線量計の着用部位は、性別によって原則が定められておる。

  • 男性: 胸部に着用
  • 女性: (妊娠の可能性を考慮し)腹部に着用

その上で、計算に必要なルール、すなわち「内側の線量計が1つの場合は、その値を胸部(Hb)と腹部(Hc)両方に用いる」「最大値(Hm)は防護衣の外側(Ha)の値」を適用すれば、自ずと答えは導かれる。

問題文の隅々までヒントが隠されておる。冷静に読み解く力が試された問題じゃったな。


臨床の“目”で読む

この2点測定による実効線量の評価法は、特にIVRや心臓カテーテル検査、外科手術(透視下での整形外科手術など)といった、術者がX線透視下で長時間作業する現場で働く放射線業務従事者にとって、極めて重要です。

ーなぜ2つの線量計が必要なのか?ー

防護衣を着用すると、体幹部の被ばくは大幅に低減されますが、「不均等被ばく」という状態が生まれます。防護されていない頭頸部、特に放射線感受性の高い水晶体(眼)や甲状腺は、患者さんから散乱したX線を直接浴びることになります。

もし、防護衣の内側の線量計だけで被ばく評価をしてしまうと、この頭頸部の高い被ばくが完全に無視され、実効線量を著しく過小評価してしまいます。これを避けるため、防護衣の外(頸部)と内(胸部/腹部)の2点で測定し、今回のような式で計算することで、より現実に即した、正確な実効線量を評価しているのです。

ー技師としての責任ー

私たち放射線技師は、自身の被ばくを管理する上で、この2点測定の重要性を理解し、必ず定められた位置に2つの線量計を正しく着用する責任があります。これは、自分自身の健康を守るためだけでなく、法律で定められた線量限度を遵守し、安全な労働環境を維持するための基本中の基本です。


今日のまとめ

  1. 防護衣着用による不均等被ばくの評価は、原則として頸部(防護衣の外側)体幹部(防護衣の内側)2点で測定する。
  2. 内側の線量計の着用部位は、男性は胸部女性は腹部が基本である。
  3. 実効線量の計算ルールは、①内側の測定値を胸部(Hb)と腹部(Hc)の値とし、②外側の測定値を頭頸部(Ha)と最大値(Hm)の値として、与えられた式に代入する。
  4. この2点測定法は、IVRなどで働く医療従事者の実効線量をより正確に評価し、安全を確保するために不可欠である。

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