第77回 午前 99

放射線安全管理学

国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告における組織加重係数で、大きい順に並んでいるのはどれか。

  1. 甲状腺-生殖腺-皮膚-乳房
  2. 生殖腺-乳房-甲状腺-皮膚
  3. 生殖腺-乳房-皮膚-甲状腺
  4. 乳房-甲状腺-生殖腺-皮膚
  5. 乳房-生殖腺-甲状腺-皮膚

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


5.乳房 -生殖腺 - 甲状腺 - 皮膚


解説

✔ 組織加重係数とは?:臓器の「放射線感受性」の重みづけ

組織加重係数 (WT​) とは、放射線が全身に均等に照射された場合に、それぞれの臓器や組織が、がんや遺伝的影響といった放射線による不利益(確率的影響)の全体に対して、どれくらいの割合を占めるかを示した係数です。

簡単に言えば、「その臓器が、放射線に対してどれだけ敏感か(リスクが高いか)」という「重みづけ」を表す数値です。 この係数を用いて、体の各部位が受けた線量(等価線量)から、体全体のリスクを表す単一の指標「実効線量」を計算します。

✔ ICRP 2007年勧告における主要な組織加重係数

国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告(Publ.103)では、各臓器の組織加重係数が以下のように定められています。

この表から、問題で問われている4つの組織を大きい順に並べると、

乳房 (0.12) → 生殖腺 (0.08) → 甲状腺 (0.04) → 皮膚 (0.01) となり、選択肢5が正解であることが分かります。


出題者の“声”

この問題は、放射線防護の根幹をなす「組織加重係数」について、その数値を正確に記憶しておるかを問う、知識のストレート問題じゃ。ひねりも計算もない。知っているか、いないか。それだけじゃ。

ワナがあるとすれば、記憶の曖昧さ、特に知識が古いまま更新されておらんことじゃな。 多くの者が「生殖腺が一番危ない」と昔の常識で覚えておるが、それはもう古い!

ICRP 2007年勧告(Publ.103)で、生殖腺の係数は0.20から0.08へ大幅に引き下げられ、逆に乳房の係数は0.05から0.12へと引き上げられた

この、主要な臓器の「序列の変化」こそ、ワシが最も問いたいポイントじゃ。

最新の勧告に基づいた、正確な知識が身についておるか。プロとしてのアップデート能力が試されておるのじゃ。


臨床の“目”で読む

組織加重係数の大小は、日々の臨床業務における放射線防護の実践に直接結びついています。

ALARAの原則と防護の優先順位

放射線防護の最適化(ALARA)を考えるとき、私たちはこの組織加重係数を意識しています。係数が大きい臓器、すなわち放射線感受性が高い臓器は、特に重点的に防護する必要があるからです。

  • 乳房 (WT​=0.12)
    • 若年女性の脊椎撮影などでは、この高い係数を考慮して撮影方向をA-PからP-Aにすることもあります。
  • 甲状腺 (WT​=0.04)
    • IVRなどで術者が甲状腺防護カラーを装着するのは、被ばくしやすく、かつ感受性が比較的高いためです。

生殖腺防護の考え方の変化

かつて、骨盤股関節撮影では生殖腺防護プロテクターの使用が常識でした。これは、旧勧告で生殖腺の組織加重係数が0.20と非常に高く設定されていたためです。 しかし、近年ではその方針が大きく変わりつつあります。

  1. リスク評価の変化
    • ICRP 2007年勧告で、遺伝的影響のリスクが従来考えられていたよりも低いと評価され、係数が0.08に引き下げられました。
  2. 技術的な問題
    • プロテクターが自動露出制御(AEC)の検出器を覆ってしまい、逆に全体の線量が増加する可能性がある。
    • 診断に必要な骨盤の一部を隠してしまい、診断価値を損なう、あるいは再撮影の原因となる。

これらの理由から、米国物理医学会(AAPM)を筆頭に、国際的に「生殖腺防護は一律には推奨しない」という動きが加速しています。日本でもこの考え方が広まっており、臨床現場では、まさに今、転換期をむかえています。


今日のまとめ

  1. 組織加重係数(WT​)は、各臓器の放射線に対する相対的な感受性(リスクの大きさ)を表す係数である。
  2. ICRP 2007年勧告における値の順番は、乳房(0.12) > 生殖腺(0.08) > 甲状腺(0.04) > 皮膚(0.01)
  3. 組織加重係数は、各臓器の等価線量から、体全体のリスクを示す実効線量を算出するために用いられる。
  4. 臨床現場では、この係数の大きさが放射線防護の優先順位を決定する科学的根拠となっている。

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