第77回 午後 11

核医学診療技術学

標識化合物の純度で正しいのはどれか。

  1. 標識率は放射性核種純度と同義である。
  2. 放射性核種純度検定に高速液体クロマトグラフィが用いられる。
  3. 標識化合物を長時間保存した場合、放射化学的不純物が生成される。
  4. 化学的純度は目的とする化学形で放射性核種がその物質の全放射能に占める割合をいう。
  5. 放射化学的純度は化学形に関係なく着目する放射性核種の放射能がその物質の全放射能に占める割合をいう。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.標識化合物を長時間保存した場合、放射化学的不純物が生成される。


解説

✔ 3つの「純度」とその違い

放射性医薬品や標識化合物には、いくつかの純度の概念があります。

  • ① 放射性核種純度
    • これは、製剤に含まれる全放射能のうち、目的とする放射性核種の放射能が占める割合です。核種そのものの純度であり、γ線スペクトロメトリで放出されるガンマ線のエネルギーを測定して評価します。
  • 放射化学的純度
    • これは、目的の放射性核種のうち、目的の化合物(化学形)として存在しているものの割合です。「正しく標識されているか」の純度であり、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)などで化合物を分離して評価します。
  • 化学的純度
    • これは、製剤に含まれる全物質のうち、目的の化合物が占める割合です。放射能の有無は関係なく、化学物質としての全体の純度を指します。

✔ 各選択肢について

1. 標識率は放射性核種純度と同義である。

  • 誤り
  • 標識率は「用意した化合物のうち、何%にRIがくっついたか」という合成の効率を示す指標。
  • 放射性核種純度は「存在するRIのうち、何%が目的のRIか」というRI自体の純度であり、全くの別物です。

2.放射性核種純度検定に高速液体クロマトグラフィが用いられる。

  • 誤り
  • 放射性核種純度は、放出されるγ線のエネルギーを測定(γ線スペクトロメトリ)して核種を同定します。
  • 高速液体クロマトグラフィ(HPLC)は、化合物を分離する技術なので、放射化学的純度の検定に用いられます。

3.標識化合物を長時間保存した場合、放射化学的不純物が生成される。

  • 正解
  • 標識化合物自身が放つ放射線によって、化合物が分解されてしまうこと(オートラジオライシス)があります。これにより、RIが化合物から外れて「遊離したRI」などの放射化学的不純物が生成され、時間と共に放射化学的純度は低下します。

4.化学的純度は目的とする化学形で放射性核種がその物質の全放射能に占める割合をいう。

  • 誤り
  • これは放射化学的純度の定義です。

5.放射化学的純度は化学形に関係なく着目する放射性核種の放射能がその物質の全放射能に占める割合をいう。

  • 誤り
  • これは放射性核種純度の定義です。

出題者の“声”

この問題は、3種類の「純度」を、その定義と測定法まで含めて正確に区別できているかを試す、知識問題の王道じゃ。

学生が最も混乱するのが、「放射性核種純度」と「放射化学的純度」という、似た名前の区別。さらに、2番の「高速液体クロマトグラフィ」というキーワードを見て、よく考えずに飛びついてしまう者も多い。

高速液体クロマトグラフィは確かにRIの分析で頻繁に使うが、それはあくまで化合物を分離するための道具。つまり「化学形」を見る放射化学的純度のためであって、「核種」そのものを見る放射性核種純度の検定には使えん。

つまりこの問題は、用語を正確に定義して覚えているか、それともイメージで覚えているかをふるいにかける仕掛け問題。引っかかる人は「なんとなく」で記憶している証拠じゃ。


臨床の“目”で読む

放射性医薬品を扱う核医学の現場では、これら3つの純度は、患者さんの安全と診断の質に直結する、極めて重要な品質管理項目です。

  • 放射化学的純度が低いと…
    • 目的の化合物(例: FDG)から外れたRI(例: 遊離¹⁸F)は、目的の臓器(がんなど)に集まらず、骨などに集積します。これにより、診断能が低下するだけでなく、余計な被ばくを生じさせます。特にPET薬剤は半減期が短く、時間と共に放射化学的純度が低下しやすいため、調製から投与までの時間管理が非常に重要です。
  • 放射性核種純度が低いと…
    • もし¹⁸F-FDG製剤に、半減期の長い別の核種が不純物として混入していたら、患者さんに予期せぬ長期の被ばくを与えてしまいます。
  • 化学的純度が低いと…
    • 目的の化合物以外の化学物質(合成の過程で残った試薬など)が多量に含まれていると、アレルギー反応などの副作用を引き起こすリスクがあります。

このように、「純度管理」は、私たちが患者さんに安全で質の高い核医学検査を提供するための、根幹をなす業務なのです。


今日のまとめ

  1. 標識化合物の純度には①放射性核種純度②放射化学的純度③化学的純度の3種類があり、それぞれ意味が異なる。
  2. 放射性核種純度 ☢️: 目的の核種か? → γ線スペクトロメトリで評価。
  3. 放射化学的純度 🔬: 目的の化学形か? → 高速液体クロマトグラフィなどで評価。
  4. 放射性化合物は自己分解(オートラジオライシス)により、時間と共に放射化学的純度が低下する。
  5. 臨床現場では、これらの純度の管理が、診断能の維持患者の安全確保に不可欠である。

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