第77回 午後 20

核医学診療技術学

ソマトスタチン受容体シンチグラフィで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 標識核種は¹²³Iである。
  2. 撮影直前に排尿を行う。
  3. 神経内分泌腫瘍に集積する。
  4. 高分化腫瘍では低分化腫瘍より集積が低い。
  5. 消化管の生理的集積は後期像より早期像で頻度が高い。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


2.撮影直前に排尿を行う
3.神経内分泌腫瘍に集積する


解説

✔ ソマトスタチン受容体シンチグラフィとは?

ソマトスタチン受容体とは、特定の細胞の表面にある、ソマトスタチンというホルモンを受け取るための「アンテナ」のようなものです。 神経内分泌腫瘍(NET)と呼ばれる腫瘍の多くは、この「アンテナ」を大量に持っています。

ソマトスタチン受容体シンチグラフィは、このアンテナに結合する性質を持つ物質に放射性同位元素を標識した薬剤(例: ¹¹¹In-ペンテトレオチド)を投与し、腫瘍が持つ「アンテナ」を可視化する検査です。

✔ 検査のポイントと薬剤

  • 標的腫瘍
    • 主に神経内分泌腫瘍(NET)です。カルチノイド、インスリノーマ、褐色細胞腫などが含まれます。
  • 標識核種
    • SPECTでは ¹¹¹In が、PETでは ⁶⁸Ga が一般的に用いられます。¹²³I は使用しません。
  • 患者準備
    • 薬剤は主に腎臓から尿中へ排泄されます。骨盤内の腫瘍を明瞭に観察するため、撮像の直前には必ず排尿してもらい、膀胱内の放射能を減らす必要があります。

✔ 各選択肢について

1. 標識核種は¹²³Iである。

  • 誤り
  • 標準的に用いられる核種は¹¹¹In(SPECT)⁶⁸Ga(PET)です。

2.撮影直前に排尿を行う。

  • 正解
  • 薬剤は尿中に排泄されるため、膀胱内の放射能が骨盤内の病変の妨げにならないよう、撮影直前の排尿が必須です。

3.神経内分泌腫瘍に集積する。

  • 正解
  • 神経内分泌腫瘍(NET)はソマトスタチン受容体を高発現しているため、本検査の良い適応となります。

4.高分化腫瘍では低分化腫瘍より集積が低い。

  • 誤り
  • 逆です。腫瘍の分化度が高い(悪性度が比較的低い)ほど、ソマトスタチン受容体の発現量が多く、薬剤は強く集積します。分化度が低い(悪性度が高い)腫瘍では、受容体が少なく集積は低くなります。

5.消化管の生理的集積は後期像より早期像で頻度が高い。

  • 誤り
  • 薬剤の排泄経路により、消化管への生理的集積は時間と共に増加し、後期像でより明瞭になる傾向があります。

出題者の“声”

この問題は、ソマトスタチン受容体シンチの臨床的な要点を、正確に理解しておるかを試しておる。

学生がひっかかりやすいワナは、「標識核種」と「分化度と集積の関係」じゃ。

  • 「¹²³I」という、核医学でよく見る核種に、つい飛びついてしまう。
  • 低分化=悪性度が高い=活発だろうから集積も強いはず」と、FDG-PETの感覚で誤解してしまう。

しかし、この検査の本質は「受容体の量」を見ること。だから、受容体を多く持つ高分化な腫瘍ほど、強く光るのじゃ。

この、FDG-PETとは逆の相関を理解しているか。そこが、知識の深さを測るポイントじゃな。


臨床の“目”で読む

ー診断から治療へ繋がる「セラノスティクス」ー

ソマトスタチン受容体シンチグラフィは、単なる診断のためだけの検査ではありません。

この検査で腫瘍に強い集積が確認されれば、同じアンテナを標的とする放射線治療薬(例: ¹⁷⁷Lu-ドータテート)を用いたPRRT(ペプチド受容体放射性核種治療)の良い適応となります。

このように、診断薬と治療薬が同じメカニズムを共有する概念を「セラノスティクス(Theranostics)」と呼び、この検査はその代表例です。

ーFDG-PETとの使い分けー

前述の通り、高分化で増殖が緩やかなNETはソマトスタチン受容体シンチで強く集積し、FDG-PETでは集積が弱い傾向があります。 逆に、低分化で増殖が速いNETはソマトスタチン受容体シンチでの集積は弱く、FDG-PETで強く集積する傾向があります。

このため、両方の検査を組み合わせることで、腫瘍の性質をより詳細に評価することができます。


今日のまとめ

  1. ソマトスタチン受容体シンチは、神経内分泌腫瘍(NET)の診断に用いられる。
  2. 標識核種は¹¹¹In(SPECT)や⁶⁸Ga(PET)が一般的。
  3. 高分化な腫瘍ほど受容体が多く、薬剤は強く集積する(FDG-PETとは逆)。
  4. 膀胱への尿中排泄があるため、撮像直前の排尿が必須である。
  5. この検査は、PRRTという放射線治療の適応判断にも用いられる重要な検査である。

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