頭頸部癌の放射線治療における急性期有害事象はどれか。
- 粘膜炎
- 脳壊死
- 下顎骨壊死
- 頸動脈狭窄
- 甲状腺機能低下
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1.粘膜炎
解説
✔ 急性期 vs 晩期:細胞分裂のスピードが鍵 🔑
放射線治療による有害事象は、発生する時期によって「急性期有害事象」と「晩期有害事象」に明確に区別されます。この時期の違いは、ダメージを受ける組織の細胞分裂の速さによって決まります。
- 急性期有害事象 ⏱️ (数週間以内)
- 皮膚や口腔・咽頭の粘膜のように、細胞分裂が活発で、新陳代謝が速い組織に現れます。放射線によって細胞を作る能力がダメージを受けると、組織の再生が追いつかなくなり、治療開始から数週間で炎症や潰瘍となって現れます。
- 晩期有害事象 ⏳ (数か月~数年後)
- 神経、骨、血管、結合組織のように、細胞分裂が遅い組織に現れます。これらの組織はすぐには変化しませんが、放射線によるダメージが時間をかけてゆっくりと蓄積し、血流障害や線維化(組織が硬くなること)などを引き起こします。その結果、数か月から数年経ってから、壊死や機能低下といった深刻な障害として現れます。
✔ 各選択肢について
1. 粘膜炎
- ✅ 正解
- 口腔粘膜は細胞分裂が非常に活発なため、放射線の影響が早期に現れます。
- 治療開始後2〜3週で出現する、典型的な急性期有害事象です。
2.脳壊死
- ❌ 誤り
- 神経細胞や血管は細胞分裂が遅いため、障害はゆっくりと進行します。
- 照射後、数か月から数年経って現れる晩期有害事象です。
3.下顎骨壊死
- ❌ 誤り
- 骨や骨への血流を供給する血管のダメージが原因です。
- これも晩期有害事象に分類されます。
4.頸動脈狭窄
- ❌ 誤り
- 放射線による血管壁の動脈硬化が、長い年月をかけて進行した結果です。晩期有害事象です。
5.甲状腺機能低下
- ❌ 誤り
- 甲状腺ホルモンを分泌する細胞が、時間をかけてゆっくりと破壊されていくことで生じます。晩期有害事象です。
出題者の“声”

この問題の狙いは、有害事象の「急性期」と「晩期」を、その発生原理に基づいて区別できるかを試すことじゃ。
学生がよくやる間違いは、「下顎骨壊死」や「甲状腺機能低下」など、放射線治療の副作用として有名な言葉を知っているだけで、その発生時期をごちゃ混ぜに記憶してしまうこと。
ワシが本当に見たいのは、「なぜ粘膜炎はすぐに出るのか?」「なぜ骨の壊死は後から来るのか?」という、細胞分裂のスピードという生物学的な背景を理解しているかどうかじゃ。
「細胞分裂が速い組織=急性期」「遅い組織=晩期」という基本原則さえ押さえておれば、これはサービス問題。この原則を知らん者は、まんまとワナにはまるというわけじゃ。
臨床の“目”で読む

ー急性期有害事象への対応:チームでのQOL維持ー
頭頸部がんの放射線治療において、粘膜炎はほぼ必発であり、その管理が治療を完遂できるかを左右します。痛みで食事ができなくなると、体力や免疫力が低下し、計画通りの治療が続けられなくなるからです。そのため、栄養士による栄養管理、歯科・歯科衛生士による専門的な口腔ケア、医師・看護師による疼痛管理など、多職種が連携する「チーム医療」が極めて重要になります。
ー晩期有害事象への対応:長期的な視点ー
一方で、骨壊死や甲状腺機能低下といった晩期有害事象は、治療が終わって何年も経ってから現れる可能性があります。そのため、放射線治療を受けた患者さんには、定期的な診察や血液検査といった、生涯にわたる長期的なフォローアップが必要です。
私たち放射線技師も、この時期による違いを明確に理解し、患者さんへの説明や、他職種との情報共有において、適切な知識を提供することが求められます。
今日のまとめ
- 放射線治療の有害事象は、発生時期で急性期(数週)と晩期(数か月~数年)に大別される。
- 急性期有害事象 ⏱️: 細胞分裂が速い組織(粘膜、皮膚など)に起こる。代表例は粘膜炎。
- 晩期有害事象 ⏳: 細胞分裂が遅い組織(神経、骨、血管など)に起こる。代表例は脳壊死、骨壊死、甲状腺機能低下。
- 臨床では、急性期の粘膜炎ケアと、晩期障害を見据えた長期フォローアップの両方が重要である。
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