加速過分割照射が標準治療である腫瘍はどれか。
- 食道癌
- 膵臓癌
- 髄膜腫
- 肝細胞癌
- 小細胞肺癌
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
5.小細胞肺癌
解説
✔ 加速過分割照射とは?:治療期間を短縮する照射法
加速過分割照射(Accelerated Hyperfractionation)は、放射線治療の照射スケジュールの一つです。 通常の照射(通常分割照射)が1日1回なのに対し、1日の照射回数を複数回(通常は1日2回)に増やし、1回あたりの線量を少し減らすことで、全体の治療期間を短縮することを目的とした方法です。
✔ なぜ小細胞肺癌で用いられるのか?
その理由は、小細胞肺癌が、がんの中でも特に増殖速度が非常に速いという性質を持つからです。
通常の1日1回の照射スケジュールでは、治療期間が6〜7週と長くなります。その間に、放射線で叩かれたがん細胞が再び増殖してしまう「加速再増殖」が起こり、治療効果が薄れてしまう危険があります。 そこで、治療期間そのものを3〜4週間に短縮する加速過分割照射を行うことで、がん細胞に再増殖する暇を与えず、治療効果を高めることができるのです。このため、化学療法と併用する胸部放射線治療において、加速過分割照射が標準治療とされています。
✔ 各選択肢について
1. 食道癌
- ❌ 誤り
- 標準的な放射線治療は、化学療法と併用した通常分割照射です。
2.膵臓癌
- ❌ 誤り
- 手術や化学療法が治療の中心であり、放射線治療の役割は限定的です。
3.髄膜腫
- ❌ 誤り
- 多くは良性腫瘍であり、増殖も緩やかです。定位放射線治療や通常分割照射が基本となります。
4.肝細胞癌
- ❌ 誤り
- 肝動脈化学塞栓療法(TACE)やラジオ波焼灼術(RFA)、粒子線治療などが主体であり、加速過分割照射は標準的ではありません。
5.小細胞肺癌
- ✅ 正解
- 腫瘍の増殖速度が非常に速いため、治療期間中の再増殖を抑制する目的で、化学療法と併用した加速過分割照射(例: 1回1.5 Gyを1日2回、計45 Gy / 30回)が標準治療とされています。
出題者の“声”

この問題は、「腫瘍の生物学的な特性」と「最適な放射線治療スケジュール」とを、正しく結びつけて理解しているかを試しておる。
多くの学生は「小細胞肺癌は進行が速い」という特徴は知っておる。しかし、その知識が「だから治療期間を短くする必要がある」→「だから加速過分割照射が標準治療なのだ」という、臨床的な思考にまで繋がっておらんことが多い。
そこで、食道癌など、放射線治療が行われる他のがんを並べ、「加速過分割が標準なのはどれか?」と問うことで、その思考プロセスを試しておるのじゃ。
腫瘍ごとの治療戦略の「なぜ?」を理解しているかが問われる問題じゃな。
臨床の“目”で読む

ーなぜ加速過分割照射が有効か?ー
小細胞肺癌に対する通常分割照射は、「急いで水を抜かなければならない船から、小さなバケツ一杯ずつ水を汲み出している」ようなものです。汲み出すスピードより、水が溜まるスピード(腫瘍の再増殖)が上回ってしまう可能性があります。加速過分割照射は、「バケツを2つ使って、倍のペースで水を汲み出す」ことで、船が沈むのを防ぐ戦略と言えます。
ー放射線技師に求められることー
加速過分割照射では、1日に2回、正確な照射を行う必要があります。照射スケジュールが通常より過密になるため、患者さんの体調管理やポジショニングの再現性を、より高いレベルで維持することが求められます。また、なぜこの患者さんが1日に2回も治療室に来る必要があるのか、その理由を正しく理解し、不安を抱える患者さんに寄り添うことも、チーム医療における放射線技師の重要な役割です。
今日のまとめ
- 加速過分割照射 ⏱️: 1日の照射回数を増やし(通常2回)、全体の治療期間を短縮する照射法。
- 小細胞肺癌は、腫瘍の増殖速度が非常に速いため、この照射法が標準治療として用いられる。
- 目的は、治療期間中の腫瘍の加速再増殖を抑制し、治療効果を高めることにある。
- 他のがん(食道癌、肝細胞癌など)では、通常分割照射などが標準であり、本法は一般的に用いられない。
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