放射線治療で正しいのはどれか。2つ選べ。
- PTVはCTVよりも大きい。
- PTVとリスク臓器は重なることはない。
- 平坦化フィルタを除くと線量率を上げることができる。
- 放射線治療計画CTではFOVを腫瘍にできるだけ絞って撮影する。
- 粒子線治療におけるブロードビーム法ではコリメータは不要である。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1.PTVはCTVよりも大きい。
3.平坦化フィルタを除くと線量率を上げることができる。
解説
✔ 標的体積の階層構造(ICRUレポート) 🎯
放射線治療では、どこにどれだけ線量を照射するかを定義するために、国際放射線単位測定委員会(ICRU)によって標的体積が階層的に定義されています。
- GTV (肉眼的腫瘍体積)
- 画像や触診で確認できる、目に見える腫瘍そのもの。
- CTV (臨床的標的体積)
- GTVの周囲に存在する可能性のある、目に見えない微小な浸潤領域を含めた体積。
- ITV (内部標的体積)
- 呼吸などによる体内の臓器の動きを考慮し、CTVにマージンを加えた体積。
- PTV (計画標的体積)
- 毎日の治療での患者さんのセットアップ誤差(位置のズレ)を考慮し、ITV(またはCTV)にさらにマージンを加えた、最終的に処方線量を照射すべき体積。
この定義から、PTVはCTVにマージンを加えて作られるため、原則としてCTVよりも大きくなります。
✔ 平坦化フィルタフリー(FFF)ビーム ⚡
従来の医療用リニアックでは、X線ビームの中心が強く、辺縁が弱いという特性を均一にするため、平坦化フィルタ(Flattening Filter)という金属製の分厚いフィルタをビームの経路上に置いていました。
FFF (Flattening Filter Free)とは、このフィルタを取り除いた状態のビームを指します。ビームを減弱させるフィルタがなくなるため、線量率を数倍に高めることができ、治療時間の大幅な短縮が可能になります。
✔ 各選択肢について
1. PTVはCTVよりも大きい。
- ✅ 正解
- PTVは、CTVに対して、呼吸性移動や日々のセットアップ誤差を補うためのマージンを付加して設定されるため、原則としてCTVよりも大きくなります。
2.PTVとリスク臓器は重なることはない。
- ❌ 誤り
- 腫瘍がリスク臓器に近接・浸潤している場合、PTVとリスク臓器が重なることは臨床上、頻繁にあります。その重なった領域の線量をどうするかは、治療計画における最も重要な課題の一つです。
3.平坦化フィルタを除くと線量率を上げることができる。
- ✅ 正解
- ビームを減弱させる平坦化フィルタを取り除く(FFF化する)ことで、線量率を大幅に向上させることができます。
4.放射線治療計画CTではFOVを腫瘍にできるだけ絞って撮影する。
- ❌ 誤り
- 正確な線量計算には、ビームが体を通過する全ての経路の情報が必要です。そのため、体の輪郭が全て含まれるように、FOVは十分に広く設定する必要があります。FOVを絞りすぎて体の輪郭が途切れる(トランケーション)と、線量計算に重大な誤差が生じます。
5.粒子線治療におけるブロードビーム法ではコリメータは不要である。
- ❌ 誤り
- ブロードビーム法(受動散乱法)では、加速器から出た細いビームを散乱体で広げた後、患者さん一人ひとりの腫瘍の形に合わせて、コリメータ(アパーチャ)や補償フィルタでビームを成形します。コリメータが不要なのは、細いビームを直接スキャンして照射するスポットスキャニング法です。
出題者の“声”

この問題には狙いが二つある。 一つは、ICRUの体積定義という、治療計画の最も基本的な概念を理解しておるか。
PTV > CTV は、その階層構造を分かっていれば即答できる。
もう一つは、治療計画から照射までの実務的な知識じゃ。
FFFで線量率が上がる理由、計画CTはなぜ広く撮るのか、粒子線の受動散乱法ではコリメータが必須であること。
これらは、日々の臨床の流れの中で体得すべき知識じゃ。 単なる用語の暗記ではなく、それぞれの意味と理由をセットで理解しているかが問われる問題じゃな。
臨床の“目”で読む

ー治療計画の実際ー
- 計画CTの撮像
- 治療部位だけでなく、固定具や体の輪郭が全て収まるように、常に広いFOVで撮影することが鉄則です。
- PTVとリスク臓器(OAR)の重複
- 臨床現場では、PTVとOARが重なることは日常茶飯事です。その場合、腫瘍をしっかり治療しつつ(PTVのカバレッジを保ち)、OARの副作用を許容範囲に抑える、という両者のトレードオフを考慮して、線量分布の最適化を行います。
ーFFFビームの活用ー
高線量率を実現するFFFビームは、特に体幹部定位放射線治療(SBRT)など、1回に大線量を短時間で照射したい場合に非常に有用です。ビームが出ている時間が短くなることで、治療中の患者さんの動きによる影響を低減できるという大きなメリットがあります。
今日のまとめ
- 標的体積の定義は GTV < CTV < ITV < PTV。PTVはCTVにマージンを加えるため、原則としてCTVより大きい。
- FFFビームは、平坦化フィルタを外すことで線量率を大幅に向上させ、治療時間を短縮できる。
- 治療計画CTは、正確な線量計算のために広いFOVで撮影し、体の輪郭が途切れないようにする。
- 粒子線治療のブロードビーム法(受動散乱法)では、腫瘍の形にビームを合わせるためのコリメータが必須である。
- PTVとリスク臓器は重なり得るため、治療計画において両者のバランスを最適化する必要がある。
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