第77回 午後 34

画像工学

画像圧縮に用いられる手法はどれか。

  1. ウィンドウ処理
  2. ボケマスク処理
  3. 離散コサイン変換
  4. ヒストグラム平坦化
  5. サブトラクション処理

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.離散コサイン変換


解説

✔  画像圧縮とは?:データ量を小さくする技術 💾

画像圧縮とは、画像の品質をできるだけ保ちながら、データサイズを小さくする技術のことです。これにより、大量の画像を効率的に保存したり、ネットワークで高速に転送したりすることが可能になります。

医療画像における圧縮には、目的によって2つの種類があります。

  • 可逆圧縮 (Lossless)
    • データを一つも失わずに圧縮する方法。完全に元の画像に戻せますが、圧縮率は低めです。診断に用いるCTやMRIなどのオリジナル画像に適用されます。
  • 非可逆圧縮 (Lossy)
    • 人間の目には分かりにくい細かな情報を一部間引くことで、高い圧縮率を実現する方法。完全に元には戻せませんが、データサイズを劇的に小さくできます。教育用の資料や、参照用の画像などに用いられます。

✔ 離散コサイン変換(DCT)とは?:JPEG圧縮の中核技術

離散コサイン変換(Discrete Cosine Transform, DCT)は、非可逆圧縮の代表であるJPEG形式で用いられる中核的な技術です。 これは、画像を「さまざまな周期を持つコサイン波の重ね合わせ」として表現し直す、数学的な処理です。

自然画像の多くは、なだらかな階調変化(低周波成分)で大部分が構成され、急なエッジなどの細かい部分(高周波成分)はわずかです。DCTはこの性質を利用し、画像を周波数成分に分解することで、重要度の低い高周波成分のデータを大胆に削減し、高い圧縮率を実現します。


✔ 各選択肢について

1. ウィンドウ処理

  • 誤り
  • これはCT画像などを表示する際に、見たい部分(骨や肺など)のコントラストを調整する表示技術であり、データ圧縮とは関係ありません。

2.ボケマスク処理

  • 誤り
  • これは、画像の輪郭を強調して鮮明に見せる画像処理(鮮鋭化)の一種です。

3.離散コサイン変換

  • 正解
  • 画像を周波数成分に分解することで、データ量を削減する準備を行う、JPEG圧縮の基本となる技術です。

4.ヒストグラム平坦化

  • 誤り
  • 画像のコントラストを改善するための画像処理(階調変換)の一種です。

5.サブトラクション処理

  • 誤り
  • DSA(デジタルサブトラクション血管造影)などで用いられる、2つの画像間の差分を求める画像演算処理です。

出題者の“声”

この問題の狙いは、数ある画像処理技術の中から、「画像圧縮」という目的に特化した技術を正しく選び出せるか、その基本知識を問うことにある。

ウィンドウ処理、鮮鋭化、コントラスト改善…。これらはすべて画像の「見え方」を変える処理じゃ。一方で、DCTは画像の「データ構造」そのものを変換し、圧縮の準備をする処理。この目的の違いを理解しておるかが勝負の分かれ目じゃ。

余談じゃが、次世代の圧縮方式であるJPEG2000では、DCTの代わりに離散ウェーブレット変換(DWT)が使われる。「JPEG=DCT」「JPEG2000=DWT」とペアで覚えておくと、一歩進んだ知識として役立つぞ。


臨床の“目”で読む

医療画像の保存や転送は、日々増え続ける膨大なデータ量との戦いです。そのため、画像圧縮の知識は、放射線技師にとっても必須の教養と言えます。

ー臨床における圧縮のポイントー

  • ① 可逆圧縮と非可逆圧縮の厳格な使い分け
    • 診断や法的証拠となるオリジナル画像は可逆圧縮が原則です。非可逆圧縮は、その適用範囲(研究、教育など)を院内ルールで明確に定める必要があります。
  • ② 再圧縮の禁止
    • 一度、非可逆圧縮された画像を再度、非可逆圧縮すると、画質の劣化が雪だるま式に累積します。これは絶対に避けるべき操作です。
  • ③ DICOM規格における圧縮方式の理解
  • 医療画像の標準規格であるDICOMでは、JPEG、JPEG-LS(可逆)、JPEG2000など、様々な圧縮方式が定義されています。PACSなどのシステム間で画像を転送する際、どの圧縮方式(転送構文)でやり取りするかを適切に設定することが重要です。

これらの知識は、画像の品質を維持し、診断の信頼性を担保する上で、放射線技師が果たすべき重要な役割の一部です。


今日のまとめ

  1. 画像圧縮は、データ量を小さくする技術で、元に戻せる可逆圧縮と、戻せない非可逆圧縮がある。
  2. 離散コサイン変換(DCT)は、非可逆圧縮の代表であるJPEG方式で用いられる中核技術である。
  3. ウィンドウ処理、ヒストグラム平坦化、サブトラクションなどは、表示解析のための画像処理であり、圧縮とは目的が異なる。
  4. 医療現場では、診断画像の品質を担保するため、圧縮方式の適切な選択と管理が極めて重要である。

コメント