第77回 午後 37

基礎医学大要

心原性ショックの臨床症状で誤っているのはどれか。

  1. 頻呼吸
  2. 意識低下
  3. 顔面蒼白
  4. 皮膚乾燥
  5. 脈拍微弱

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


4.皮膚乾燥


解説

✔ 心原性ショックとは?:心臓ポンプの機能不全 ❤️‍🩹

心原性ショックとは、心筋梗塞や重症不整脈などによって心臓のポンプ機能が急激に低下し、全身へ十分な血液を送り出せなくなった状態を指します。 心臓から送り出される血液量(心拍出量)が著しく減少するため、脳や腎臓などの重要臓器への血流が不足し、生命の危機に瀕する極めて危険な状態です。

✔ なぜ様々な症状が現れるのか?

心拍出量が低下すると、体は生命を維持するために、交感神経系を最大限に活性化させて緊急事態に対応しようとします。ショックの多くの症状は、この代償反応の結果として現れます。

  • 末梢血管の収縮
    • 手足や皮膚への血流を減らし、脳や心臓といった重要臓器へ血液を集中させようとします。→ 顔面蒼白脈拍微弱皮膚が冷たくなる
  • 発汗の促進
    • 交感神経が汗腺を刺激します。→ 冷汗(皮膚が冷たく湿る)
  • 呼吸数の増加
    • 全身の酸素不足を補うため、呼吸が速く浅くなります。→ 頻呼吸
  • 脳血流の低下
    • 全身の血圧が維持できなくなると、脳への血流も低下します。→ 意識低下

これらの反応から、心原性ショックの患者さんの皮膚は「冷たく、湿っている(冷汗)」のが典型的な所見であり、「皮膚乾燥」は誤りとなります。


✔ 各選択肢について

1. 頻呼吸

  • 誤り (正しい)
  • 全身の酸素不足を補うための代償反応です。

2.意識低下

  • 誤り (正しい)
  • 脳への血流が低下することによって生じます。

3.顔面蒼白

  • 誤り (正しい)
  • 末梢血管が収縮し、皮膚への血流が減少するためです。

4.皮膚乾燥

  • 正解 (誤り)
  • 交感神経の緊張により発汗が促進されるため、皮膚は冷たく湿潤している(冷汗)のが特徴です。

5.脈拍微弱

  • 誤り (正しい)
  • 血圧が低下し、末梢の血管が収縮するため、脈が触れにくくなります。

出題者の“声”

この問題の狙いは、ショック状態における体の基本的な生理反応を理解しておるか、という点じゃ。

心臓のポンプ機能が低下するという緊急事態に、体は交感神経を最大に活性化させて対抗する。この反応が分かっていれば、各症状を丸暗記せずとも導き出せるはずじゃ。

交感神経が興奮すれば、血管は収縮し(→顔面蒼白、脈拍微弱)、汗が出る(→皮膚湿潤)。酸素が足りなければ、呼吸は速くなる(→頻呼吸)。脳に血が行かなければ、意識は落ちる(→意識低下)。 「皮膚乾燥」は、この交感神経の反応とは真逆の所見。

この問題は、「ショック=交感神経MAX!」という基本原則を知っておるかを試す、知識と思考力を結びつける問題なのじゃ。


臨床の“目”で読む

ー放射線技師が遭遇するショックへの対応ー

造影CTや血管造影検査の最中に、患者さんがアナフィラキシーショックや心原性ショックに陥る可能性はゼロではありません。その「もしも」の時に、私たちは冷静に観察し、行動する必要があります。

  • ① 観察(見る・触れる)
    • 患者さんの顔色(蒼白か?)、呼吸(速くないか?)、そして皮膚の状態を観察します。特に、患者さんの手に触れて「冷たい」「じっとり汗ばんでいる」と感じたら、それはショックの重要なサインです。
  • ② 報告
    • 「顔色が悪いです」「脈が弱いです」「反応が鈍くなってきました」など、気づいた変化を具体的かつ速やかに医師や看護師に伝達することが、救命の第一歩となります。
  • ③ 初期対応の補助
    • 医師の指示のもと、検査を中断し、酸素投与の準備、輸液ルートの確保、心電図モニターの装着などを補助します。

放射線技師は、診断画像を提供するだけでなく、検査中の患者さんの状態を最も近くで観察できる医療チームの一員です。異常の早期発見は、私たちの重要な責務の一つなのです。


今日のまとめ

  1. 心原性ショックは、心臓のポンプ機能低下による循環不全状態である。
  2. 体は交感神経を活性化させることで対抗し、頻呼吸、意識低下、顔面蒼白、脈拍微弱などの症状が現れる。
  3. 交感神経の刺激により発汗が促されるため、皮膚は冷たく湿潤(冷汗)するのが特徴。
  4. 臨床現場では、患者さんの皮膚に触れて「冷たい・湿っている」かを確認することが、ショックを疑う重要な観察項目となる。

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