脳実質から発生する腫瘍で正しいのはどれか。
- 膠芽腫
- 髄膜腫
- 神経鞘腫
- 下垂体腺腫
- 頭蓋咽頭腫
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1.膠芽腫
解説
✔ 「脳実質」とは?:脳の“中身”そのもの 🧠
まず、「脳実質」とは、神経細胞や、それを支える神経膠細胞(グリア細胞)で構成される、脳の“中身”そのものを指します。 脳腫瘍は、この「脳実質」から発生するか、あるいは脳を包む膜(髄膜)や脳神経、下垂体といった「脳実質以外の周辺組織」から発生するかで、大きく2つに分類されます。

✔ 膠芽腫(こうがしゅ)とは
膠芽腫 (Glioblastoma)は、脳実質を構成する神経膠細胞(グリア細胞)から発生する、最も悪性度の高い代表的な脳実質内腫瘍です。 増殖スピードが非常に速く、周囲の正常な脳組織へしみ込むように広がっていくため、手術で完全に取り除くことが極めて困難です。
✔ 各選択肢について
1. 膠芽腫
- ✅ 正解
- 脳実質を構成する神経膠細胞から発生します。
2.髄膜腫
- ❌ 誤り
- 脳を包む「髄膜」から発生する、多くは良性の腫瘍です。
3.神経鞘腫
- ❌ 誤り
- 脳神経を覆う「神経の鞘(さや)」から発生します。聴神経にできるものが有名です。
4.下垂体腺腫
- ❌ 誤り
- ホルモンの司令塔である「下垂体」から発生します。
5.頭蓋咽頭腫
- ❌ 誤り
- 胎児期の組織の「なごり」から、下垂体の近くに発生する腫瘍です。
出題者の“声”

この問題の狙いは、「脳実質内腫瘍」と「脳実質外腫瘍」の違いを、その発生母地に基づいて明確に区別できるかを問うことにある。
「脳の腫瘍」と一括りに考えがちじゃが、臨床では、その腫瘍が「脳の“中”から湧いてきたのか」、それとも「脳の“外”から圧迫しているのか」で、診断から治療方針まで、全てが大きく変わってくる。
CTやMRIを読むときも、
- 境界が不明瞭で、脳にしみ込んでいる → 実質内腫瘍(膠芽腫など)を疑う
- 境界が明瞭で、脳を押しやっている → 実質外腫瘍(髄膜腫など)を疑う
というように、画像所見と発生部位を結びつけて考えるのが、読影の第一歩なのじゃ。
臨床の“目”で読む

ー放射線技師は、治療戦略を支える「目」となるー
脳腫瘍の診断と治療において、私たち放射線技師が提供する画像は、治療方針を決定するための最も重要な情報源の一つです。
- ① MRIによる質的診断
- 膠芽腫は、造影MRIを撮影すると、特徴的なリング状の増強効果を示すことが多くあります。これは、腫瘍の中心部が壊死し、活動性の高い腫瘍細胞がリング状の辺縁に存在していることを反映しています。私たち放射線技師は、このような特徴を明瞭に描出するための最適な撮影法(プロトコル)を駆使します。
- ② 放射線治療計画における役割
- 膠芽腫のような浸潤性の腫瘍では、目に見える腫瘍(GTV)だけでなく、周囲にしみ込んでいるであろう微小な浸潤領域(CTV)まで含めて照射範囲(PTV)を設定する必要があります。私たちが撮影する治療計画CTと、腫瘍の広がりを詳細に描出するMRIを、ミリ単位の精度で画像融合(フュージョン)させることが、正確な治療計画の根幹を支えます。
- ③ 手術支援(術中ナビゲーション)
- 手術前に、腫瘍と、手足の動きを司る神経線維(錐体路)との位置関係を拡散テンソル画像(DTI)で可視化し、外科医が安全な手術ルートを計画するための「手術用地図」を作成することも、重要な役割です。
今日のまとめ
- 脳腫瘍は、発生する場所によって脳実質内腫瘍と脳実質外腫瘍に大別される。
- 膠芽腫は、脳実質を構成する神経膠細胞から発生する、代表的な脳実質内腫瘍である。
- 髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫は、いずれも脳の周辺組織から発生する脳実質外腫瘍である。
- 画像診断では、腫瘍の境界が不明瞭で浸潤性か、明瞭で圧排性かを見極めることが、両者を鑑別する上で重要なポイントとなる。



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