第77回 午後 52

基礎医学大要

職業と職業病の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. タール取扱従事者 ―― 前立腺癌
  2. 蛍光塗料取扱従事者 ―― 肺癌
  3. ベンゼン取扱従事者 ―― 悪性リンパ腫
  4. アスベスト取扱従事者 ―― 悪性胸膜中皮腫
  5. 電離放射線作業従事者 ―― 白内障

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


4.アスベスト取扱従事者 ― 悪性胸膜中皮腫
5.電離放射線作業従事者 ― 白内障


解説

✔ 職業病とは?:原因物質と標的臓器の組み合わせ 🧑‍🏭

職業病とは、特定の職業に従事することで、特有の有害物質や物理的因子(放射線、騒音など)に長期間さらされることによって引き起こされる病気です。 この問題を解く鍵は、「どの原因物質が、体のどの部分を攻撃しやすいか」という組み合わせを正しく理解することです。

✔ 職業病とは?:原因物質と標的臓器の組み合わせ 🧑‍🏭


✔ 各選択肢について

1. タール取扱従事者 ―― 前立腺癌

  • 誤り
  • タールは主に接触する皮膚や、代謝・排泄される膀胱のがんリスクを高めます。

2.蛍光塗料取扱従事者 ―― 肺癌

  • 誤り
  • 過去に使用された放射性ラジウム塗料は、体内に取り込まれるとカルシウムと似た動きで骨に集積するため、骨肉腫白血病の原因となりました。

3.ベンゼン取扱従事者 ―― 悪性リンパ腫

  • 誤り
  • ベンゼンは血液を作る骨髄に毒性を持つため、主に白血病のリスクを高めます。

4.アスベスト取扱従事者 ―― 悪性胸膜中皮腫

  • 正解
  • 吸い込んだアスベストの線維が、肺を覆う胸膜に長期間留まることで、特異的に悪性胸膜中皮腫を引き起こします。潜伏期間が20~50年と非常に長いのが特徴です。

5.電離放射線作業従事者 ―― 白内障

  • 正解
  • 放射線は、細胞分裂が活発な目の水晶体の上皮細胞にダメージを与えやすく、白内障を引き起こします。これは放射線技師にとって最も身近な職業病リスクの一つです。

出題者の“声”

この問題の狙いは、「原因物質」「標的となる臓器・疾患」を、そのメカニズムに基づいて正しく結びつけられるかを問うことにある。

特に、放射線技師を目指す者として、5番の「電離放射線と白内障」は絶対に落としてはならん。これは単なる試験知識ではなく、自分自身の体を守るための職業倫理そのものじゃ。

そして、4番のアスベストも重要じゃ。臨床に出れば、胸部X線やCTで、アスベスト曝露のサインである「胸膜プラーク」「胸膜肥厚」を目にする機会は意外と多い。その画像を見たとき、「この患者さんは昔、どんな仕事をしていたのだろう?」と、背景を想像する臨床的思考の第一歩となる問題なのじゃ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が職業病を知る必要があるのか?ー

この知識は、「患者さんの画像を正しく理解するため」「自分自身の身を守るため」という、2つの極めて重要な意味を持ちます。

  • ① 患者さんの画像を正しく理解するため(アスベスト)
    • 高齢の患者さんの胸部CTを撮影した際、肺を覆う胸膜に石灰化(胸膜プラーク)や肥厚が見られたら、それはアスベスト曝露の重要なサインです。その所見から、「この方は、過去に建設業や造船業に従事していた可能性がある」と推測でき、悪性胸膜中皮腫の発生を警戒しながら画像を見ることができます。職業歴と画像所見を結びつけることは、読影の質を高める上で非常に重要です。
  • ② 自分自身の身を守るため(電離放射線)
    • 放射線による白内障は、過去の話ではありません。特に、IVR(インターベンショナルラジオロジー)など、術者の目がX線源に近くなる手技では、水晶体被ばくのリスクが依然として高いことが指摘されています。 防護メガネの着用、散乱線が少ない位置取りの工夫、そして水晶体線量計の適切な装着は、自らの目を守るための、私たち自身の責任です。ICRP(国際放射線防護委員会)が水晶体の線量限度を厳格化したのも、このリスクを重視しているからです。

今日のまとめ

  1. 職業病は、「原因物質・因子」と、それが特異的にダメージを与える「標的臓器・疾患」の組み合わせで理解する。
  2. 正しい組み合わせは、アスベスト → 悪性胸膜中皮腫電離放射線 → 白内障
  3. ベンゼンは白血病、タールは皮膚がん・膀胱がんと関連が深い。
  4. 放射線技師は、患者さんのアスベスト関連疾患を画像から疑う視点と、自分自身を放射線白内障から守る防護意識の両方が不可欠である。

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