電離放射線の細胞に対する作用で正しいのはどれか。
- 間接作用は低温で増強される。
- 高LETでは直接作用が主である。
- 二重鎖切断が起きたDNAは修復不能である。
- 直接作用はフリーラジカルによるものである。
- 間接作用によるDNAの障害を一本鎖切断という。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
2.高LETでは直接作用が主である。
解説
✔ 放射線が細胞を傷つける2つの方法 ⚡️
放射線が私たちの体(主に細胞の核にあるDNA)にダメージを与える方法には、「直接作用」と「間接作用」の2種類があります。
- 直接作用 🎯
- 放射線そのものが、DNA分子に直接ぶつかって鎖を切断したり、構造を変化させたりする作用です。
- 間接作用 💧
- 放射線が、まず細胞の約80%を占める水分子(H₂O)に当たり、非常に反応性の高いフリーラジカル(特にOHラジカル)を作り出します。そして、このフリーラジカルがDNAを攻撃して損傷を与える作用です。 低LET放射線(X線、γ線)では、細胞損傷の約2/3がこの間接作用によるものとされています。
✔ 鍵を握る「LET(線エネルギー付与)」
どちらの作用が起こりやすいかは、放射線の種類、すなわちLET(線エネルギー付与)によって決まります。LETとは、放射線が物質の中を進むときに、通り道にどれだけエネルギーを密集して置いていくかを示す指標です。
- 高LET放射線 (α線、重粒子線など)
- エネルギーを狭い範囲に密集させて与えるため、DNAのような重要な分子に直接ぶつかる確率が高くなります。
- → 直接作用が主
- 低LET放射線 (X線、γ線など)
- エネルギーを広い範囲にまばらに与えるため、DNAに直接当たるよりも、周りに大量に存在する水分子に当たる確率の方が圧倒的に高くなります。
- → 間接作用が主
✔ 各選択肢について
1. 間接作用は低温で増強される。
- ❌ 誤り
- 低温状態では、フリーラジカルの動き(拡散)が鈍くなるため、DNAに到達する前に消滅しやすくなります。したがって、間接作用は減少します。
2.高LETでは直接作用が主である。
- ✅ 正解
- 解説の通り、高LET放射線はエネルギーを密集して与えるため、DNAへの直接的な衝突・損傷が主体となります。
3.二重鎖切断が起きたDNAは修復不能である。
- ❌ 誤り
- 二重鎖切断はDNA損傷の中で最も重篤ですが、細胞には高度な修復機構(非相同末端結合や相同組換え修復など)が備わっており、修復される場合もあります。
4.直接作用はフリーラジカルによるものである。
- ❌ 誤り
- フリーラジカルが関与するのは間接作用です。「フリーラジカル」という言葉は、間接作用のキーワードと覚えましょう。
5.間接作用によるDNAの障害を一本鎖切断という。
- ❌ 誤り
- 間接作用によっても一本鎖切断や二重鎖切断など、さまざまな損傷が起こります。「間接作用=一本鎖切断」と限定することはできません。
出題者の“声”

この問題の狙いは、「LET」という物理的な性質と、「直接・間接作用」という生物学的な現象を、正しく結びつけて理解しておるかを問うことにある。
「X線やγ線は、なぜ間接作用が主なのか?」「重粒子線は、なぜ直接作用が主なのか?」――その理由を、エネルギーの与え方の「密集度」で説明できるかが勝負の分かれ目じゃ。
この「LETと生物効果の関係」は、放射線治療におけるRBE(相対的生物効果)や酸素効果といった、より高度な概念を理解するための全ての土台となる。放射線生物学の、まさに基本中の基本と言える最重要知識じゃ。
臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「直接・間接作用」を知る必要があるのか?ー
この知識は、私たちが扱う放射線の種類によって、その効果やリスクがどう違うのかを根本から理解するために不可欠です。
- ① 放射線治療(特に粒子線治療)の原理
- がん治療に用いられる重粒子線(炭素イオン線など)は、高LET放射線の代表です。その高い治療効果の秘密は、がん細胞のDNAに対して、修復が極めて困難な複雑な損傷(クラスター損傷)を直接作用によって引き起こす能力にあります。これにより、従来のX線(低LET)では抵抗性を示すようながんにも効果が期待できます。
- ② 画像診断(X線、CT)と放射線防護
- 私たちが日常的に扱う診断用のX線は、低LET放射線です。細胞への影響は、主に間接作用を介して起こります。細胞には修復機構があるため、低線量の被ばくによる損傷の多くは修復されますが、確率的影響のリスクを最小限にするため、ALARAの原則(被ばくを合理的に達成できる限り低く保つ)を遵守することが、私たち自身の職業被ばくを防ぐ上でも極めて重要です。
今日のまとめ
- 放射線の細胞への作用には、放射線がDNAに直接当たる「直接作用」と、水から生じたフリーラジカルがDNAを攻撃する「間接作用」がある。
- 高LET放射線(α線、重粒子線)はエネルギーを密集して与えるため、直接作用が主となる。
- 低LET放射線(X線、γ線)はエネルギーをまばらに与えるため、間接作用が主となる。
- この原理の違いが、放射線治療における効果の差や、放射線防護の考え方の基礎となっている。



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