第77回 午後 57

理工学・放射線科学

7 Svの全身被ばくの数か月後に生じる有害事象はどれか。

  1. 骨髄死
  2. 腸管死
  3. 発がん
  4. 中枢神経死
  5. 放射線宿酔

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1.骨髄死


解説

✔ 急性放射線障害とは?:被ばく線量で決まる3つの致死パターン

短時間で全身に大量の放射線を浴びた場合、被ばくした線量の大きさによって、現れる症状と死に至るまでの期間が、特徴的な3つのパターンに分かれます。これを急性放射線症候群(ARS)と呼びます。

問題の7 Svという線量は、「骨髄型」の範囲に含まれます。 この場合、放射線によって骨髄にある造血幹細胞(血液の元となる細胞)が破壊され、白血球や血小板が作れなくなります。その結果、数週間から数か月後に、重い感染症や出血によって死に至ります。これを骨髄死と呼びます。


✔ 各選択肢について

1. 骨髄死

  • 正解
  • 7 Svの全身被ばくでは、骨髄の造血機能が停止し、数週間から数か月後に感染症や出血で死亡する「骨髄死」が典型的な経過です。

2.腸管死

  • 誤り
  • 10 Sv以上の、より高い線量で発生します。小腸の粘膜が剥がれ落ち、脱水や栄養吸収障害で数日以内に死亡します。

3.発がん

  • 誤り
  • がんは、被ばくしてから数年から数十年後に発生する可能性のある晩発影響(確率的影響)であり、数か月後に生じる急性の症状ではありません。

4.中枢神経死

  • 誤り
  • 50 Sv以上という、極めて高い線量で発生します。脳の機能が障害され、数時間から数日で死亡します。

5.放射線宿酔

  • 誤り
  • これは、被ばく後、数時間以内に現れる吐き気や倦怠感といった早期の一時的な症状であり、数か月後の致死的な影響とは異なります。

出題者の“声”

この問題の狙いは、「線量」「障害の型」、そして「時間経過」3点セットを、正確に整理できているかを問うことにある。

全身に大線量を被ばくしたときの影響は、どのくらいの線量で、どの臓器がやられ、どのくらいの期間で命に関わるのか。この対応関係を理解しておくことが、放射線安全学の基本じゃ。

覚え方の目安は、線量が増えるほど、死に至るまでの時間が短くなること。

  • 骨髄型 (~10 Sv) → 週~月単位 🩸
  • 腸管型 (10 Sv~) → 日単位 💩
  • 中枢神経型 (50 Sv~) → 時間単位 🧠

この「線量・標的・時間」の3要素で整理しておけば、どんなひっかけ問題にも惑わされることはないぞ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「急性放射線障害」を知る必要があるのか?ー

この知識は、自分自身の安全を守るための基礎であり、万が一の原子力災害などに備える医療人としての教養です。

  • ① 職業被ばくと事故被ばくのスケール感を理解する
    • 私たちが日常業務で管理している線量限度(年間50 mSv = 0.05 Sv)は、急性放射線障害が起こるSv(シーベルト)という単位とは、桁が全く違うことを理解することが重要です。数Svレベルの被ばくは、原子力事故などの極めて例外的な状況でしか起こり得ません。
  • ② 放射線治療との違いを理解する
    • 放射線治療では、がんに数十Gy(グレイ)という、致死線量をはるかに超える線量を照射します。これが可能なのは、照射範囲をがんに限定した「局所照射」だからです。同じ線量でも、「全身」に浴びるのと「局所」に浴びるのでは、体への影響は全く異なるということを、明確に区別しておく必要があります。
  • ③ 緊急被ばく医療の基礎知識として
    • 万が一の被ばく事故の際、患者さんの被ばく線量を推定する初期の指標として、血液中のリンパ球の減少具合が用いられます。これは、骨髄型障害のメカニズムに基づいた評価方法です。

今日のまとめ

  1. 7 Svの全身被ばくでは、数週間から数か月後に骨髄死(造血機能の停止による感染症や出血死)が生じる。
  2. 急性放射線障害は、線量に応じて「骨髄型」「腸管型」「中枢神経型」に分類される。
  3. 線量が増加するにつれて、標的臓器が骨髄→腸管→脳と移り、致死的な期間も数か月→数日→数時間と短くなる。
  4. 放射線技師は、職業被ばく・治療(局所照射)・事故(全身照射)の線量スケールの違いを正しく理解しておく必要がある。

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