温熱療法で正しいのはどれか。
- pHが高いほど効果が高い。
- 連日の加温で感受性が上昇する。
- 43℃よりも45℃の方が効果が高い。
- 現在、我が国で実施している施設はない。
- 細胞周期の中ではG₁期で効果が最も高い。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
3.43℃よりも45℃の方が効果が高い。
解説
✔ 温熱療法(ハイパーサーミア)とは? 🔥
温熱療法とは、がん組織を42℃〜45℃の熱で温めることで、がん細胞だけを選択的に攻撃する治療法です。 この温度帯では、正常な細胞は血流を増やして熱を逃がすことができますが、がん組織は血管構造が未熟なため熱がこもりやすく、正常細胞よりも熱に弱いという性質を利用しています。
✔ なぜ放射線治療と併用するのか?
最大の理由は、温熱療法が、放射線治療が苦手とする環境にいるがん細胞に対して、特に効果を発揮するからです。両者は互いの弱点を補い合う、理想的なパートナー関係にあります。

✔ 各選択肢について
1. pHが高いほど効果が高い。
- ❌ 誤り
- 上記テーブルの通り、温熱療法は、放射線が苦手とする低pH(酸性)の環境で、むしろ効果が増強されます。
2.連日の加温で感受性が上昇する。
- ❌ 誤り
- 繰り返し熱ストレスを与えると、細胞は熱ショックタンパク質(HSP)を作り出し、熱から身を守ろうとします。これを熱耐性といい、感受性はむしろ低下します。
3.43℃よりも45℃の方が効果が高い。
- ✅ 正解
- 治療効果は温度が高いほど強くなります。特に43℃を超えると、がん細胞へのダメージは急激に増大します。ただし、46℃以上になると正常組織へのダメージも急増するため、45℃程度が上限とされます。
4.現在、我が国で実施している施設はない。
- ❌ 誤り
- 放射線治療との併用療法として、保険適用のもと、現在も多くの大学病院やがん専門施設で実施されています。
5.細胞周期の中ではG₁期で効果が最も高い。
- ❌ 誤り
- 上記テーブルの通り、温熱療法は、DNAを複製しているS期に最も感受性が高くなります。これは、放射線が最も感受性の高いG₂/M期とは対照的です。
出題者の“声”

この問題の狙いは、温熱療法が放射線治療の弱点を補うパートナーであることを、その生物学的な原理から理解しておるかを問うことにある。
放射線治療の最大の弱点は、腫瘍の中心部にありがちな「低酸素」「低pH(酸性)」「S期の細胞」には効きにくいことじゃ。 驚くべきことに、温熱療法は、これら放射線が苦手とする3つの環境すべてで、逆に高い効果を発揮する。
この完璧な相補性(補い合う関係)こそが、両者を併用する最大の理論的根拠なのじゃ。この対比さえ頭に入っておれば、1番も5番も即座に誤りだと見抜けるはずじゃ。
臨床の“目”で読む

ー放射線治療の「増感剤」としての温熱療法ー
温熱療法は、単独でがんを攻撃するだけでなく、放射線治療の効果そのものを高める「増感剤」としても働きます。
- ① DNA修復の阻害
- 放射線はがん細胞のDNAを切断しますが、細胞にはそれを修復しようとする酵素があります。熱は、この修復酵素の働きを妨害します。その結果、DNAの傷が修復されにくくなり、がん細胞が死にやすくなります。
- ② 臨床での応用
- 子宮頸がん、膀胱がん、直腸がんといった骨盤内の腫瘍や、再発した乳がんなどに対して、放射線治療の直前または直後に温熱療法を組み合わせる治療が、実際に行われています。RF(ラジオ波)やマイクロ波を体の外から当てて、深部のがん組織の温度を上昇させます。
今日のまとめ
- 温熱療法は、がん組織を42℃〜45℃に加温して、がんを選択的に攻撃する治療法である。
- 治療効果は温度が高いほど強く、45℃ > 43℃ である。
- 放射線が苦手とする「低酸素」「低pH」「S期」の細胞に強い効果を発揮するため、放射線治療と非常に相性が良い。
- 繰り返し加温すると熱耐性が生じるため、治療間隔を空ける必要がある。



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