右季肋部縦走査の超音波像を示す。矢印で示すアーチファクトはどれか。

- 音響陰影
- 外側陰影
- 鏡面反射
- 側方陰影
- 多重反射
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
5.多重反射
解説
✔ 多重反射とは?:やまびこのように繰り返す偽の影
多重反射(Reverberation)とは、超音波のビームが、プローブと体内の強い反射体(今回の場合は胆嚢壁)との間で、行ったり来たりと繰り返し反射してしまうことで生じるアーチファクトです。
峡谷での「やまびこ」をイメージしてみましょう。
あなたが「ヤッホー」と叫ぶと、「…ヤッホー…ヤッホー…」と、だんだん小さくなりながら、少し遅れて何度も返ってきます。 超音波装置もこれと同じで、返ってきた偽のやまびこ(多重エコー)を、「もっと奥にある本物のエコーだ」と勘違いしてしまいます。
その結果、画像上では、本物のエコーの真下に、等間隔で、だんだん弱くなる白い線が何本も並んで描出されるのです。
今回の像は、胆嚢内の手前側にある強い反射(胆嚢壁など)を起点として、その真下に複数の高エコーが階段状に並んでおり、まさに多重反射の典型的な所見です。
✔ 各選択肢について
1. 音響陰影
- ❌ 誤り
- 高減衰物(胆石・石灰化)背後が黒く抜ける現象。
2.外側陰影 / 4.側方陰影
- ❌ 誤り
- 嚢胞など丸いものの両端に、黒いスジ状の影が出る。
3.鏡面反射
- ❌ 誤り
- 横隔膜などを“鏡”として本来ない構造が対称側に複製される偽像。
5.多重反射
- ✅ 正解
- 強反射間の往復で等間隔の反復高エコーが並ぶ。胆嚢底部で頻出。
出題者の“声”

この問題の狙いは、「胆嚢で見える“段々の白線”を、即座に多重反射と診断できるか」を試すことじゃ。アーチファクトのパターン認識能力を問うておる。
学生が引っかかりやすいワナを二つ仕込んでおいた。 一つは「音響陰影」。「胆嚢」と聞くと「胆石」、「胆石」と聞くと「音響陰影」と、連想ゲームで反射的に選ぶ者が多い。しかし、画像を見よ!黒い影か、白い反復線か?見え方が全く違う。
もう一つは「鏡面反射」。肝臓と横隔膜の境界は鏡面反射の好発部位じゃ。しかし、鏡面は「対称な位置」に像が複製される。今回のような「真下に等間隔」というパターンとは明らかに違う。
この区別がつくかで、「用語の暗記」レベルか、「像パターンの本質的理解」レベルかが、はっきりと分かれる。まさにそこを見ておるのじゃ。
臨床の“目”で読む

胆嚢の底部(浅い部分)は、多重反射が最も起こりやすい場所です。このアーチファクトを知らないと、臨床で大きな間違いを犯す可能性があります。
ー誤診を招く、よくあるワナー
- 偽の病変
- 多重反射による高エコーを、小さなポリープや胆泥、胆砂と誤認し、不要な精密検査や経過観察に繋げてしまう。
- 所見の見落とし
- 胆嚢壁が厚くなる胆嚢腺筋腫症(アデノミオマトーシス)では、壁内に埋まったコレステロール結晶が原因で「コメットテイルサイン」というV字状の多重反射が生じます。これをただのアーチファクトとして片付けてしまうと、疾患を見落とすことになります。
ーアーチファクトを攻略する実践テクニックー
「これは本物の病変か、アーチファクトか?」と迷ったときは、以下のテクニックが有効です。
- 装置の調整
- フォーカス(焦点)の位置を変えたり、ゲインを調整したりすることで、アーチファクトを減弱させることができます。
- 体位変換
- 患者さんを仰向けから横向きに変えてもらう。アーチファクトは描出のされ方が大きく変わったり、消えたりしますが、本物の病変(ポリープなど)は壁にくっついたままです。
- 走査法を変える
- プローブを当てる位置や角度を少し変えるだけで、アーチファクトは大きく変化します。
今日のまとめ
- 胆嚢の浅い部分では、やまびこのようにエコーが繰り返す多重反射が頻繁に起こる。
- 「真下に並ぶ、等間隔の白い線」という特徴的なパターンを覚えること。
- 「後ろが黒く抜ける音響陰影」や「反対側に写る鏡面反射」とは、見え方が全く異なる。
- 体位変換や走査法の変更は、アーチファクトと本物の病変を鑑別する上で非常に有効なテクニックである。
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