第77回 午後 61

理工学・放射線科学

光電効果が生じたときに放出されるのはどれか。2つ選べ

  1. β
  2. δ
  3. 特性X線
  4. 内部転換電子
  5. Auger(オージェ)電子

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.特性X線 / 5.Auger(オージェ)電子


解説

✔ ステップ1:光電効果(=光電子が飛び出す)

まず、入射X線(光子)が、原子の内側にあるK殻などの電子に「衝突」します。 入射X線は消滅し、その全てのエネルギーが電子に与えられます。 エネルギーをもらった電子は、原子の外へ勢いよく「はじき飛ばされ」ます。

このはじき飛ばされた電子を「光電子」と呼びます。

✔ ステップ2:原子の“穴埋め”(=特性X線とオージェ電子が飛び出す)

ステップ1の結果、原子は内側のK殻に「電子の空席(空孔)」ができてしまい、非常に不安定な状態(励起状態)になります。 この空席を埋めるため、外側にあるL殻などの電子が、内側のK殻に向かって「落下」します。

この落下によってエネルギーが余るため、原子はその余ったエネルギーを2つのうちどちらかの方法で放出します。

  • Aパターン:【特性X線を放出する】
    • L殻からK殻へ落下する際のエネルギー差を、「X線(光)」として原子の外へ放出する。 このX線は、原子(元素)に固有のエネルギーを持つため、特性X線と呼ばれます。
  • Bパターン:【オージェ電子を放出する】
    • L殻からK殻へ落下する際のエネルギーを、近くにいる別(例: L殻)の電子に「パス」する。 エネルギーを受け取ったその別の電子が、原子の外へ「はじき飛ばされ」る。 この電子をAuger(オージェ)電子と呼びます。

つまり、特性X線オージェ電子は、光電効果によって生じた「穴」を埋める際に、兄弟のように競合して発生する、二次的な放出物なのです。


✔ 各選択肢について

1. β 線

  • 誤り
  • 原子核の放射性壊変(β壊変)で放出される電子です。原子(電子殻)の現象である光電効果とは、発生源が全く異なります。

2.δ 線

  • 誤り
  • α線やβ線などの「荷電粒子」が、通り道にある原子の電子をはじき飛ばしたものです。X線のような「光子」が原因ではありません。

3.特性X線

  • 正解
  • 光電効果の「穴埋め」の際に、エネルギーが光として放出されたものです。

4.内部転換電子

  • 誤り
  • これは原子核が励起状態から戻る際に、エネルギーを電子に与えて放出するものです(γ線の代わりに電子が出る)。光電効果(原子)ではなく、原子核の現象です。

5.Auger(オージェ)電子

  • 正解
  • 光電効果の「穴埋め」の際に、エネルギーが別の電子として放出されたものです。

出題者の“声”

この問題の狙いは、「光電効果」という一連のドミノ倒しを、最後まで正確に理解しておるかを問うことにある。

多くの学生は、「光電効果=光電子が飛び出す」という、最初のステップだけで止まってしまう。 しかし、臨床で重要なのは、その後に起きる「穴埋めの連鎖(緩和過程)」じゃ。

特性X線オージェ電子は、この「穴埋め」の際に発生する兄弟のようなもの。エネルギーを「光」として出すか、「別の電子」として出すか、その違いじゃ。

この2つが、光電効果とセットで発生する二次現象であることを、確実に押さえておくこと。これが、物理学と画像診断学の橋渡しとなる重要な知識なのじゃ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「光電効果」を理解する必要があるのか?ー

私たちが毎日見ているX線画像のコントラストは、この光電効果によって生み出されているからです。

  • X線・CTの画像コントラストの源
    • なぜ骨は白く、肺は黒く写るのか? それは、骨の主成分であるカルシウム(原子番号 Z=20)が、空気や軟部組織(Z=7.4程度)に比べて原子番号が大きく、光電効果を圧倒的に起こしやすいからです。光電効果を起こしたX線は、骨でストップ(吸収)されるため、検出器に届かず、画像上で白くなります。
  • ヨード造影剤の原理
    • ヨード(Z=53)やバリウム(Z=56)といった造影剤がなぜあれほど白く写るのかも、原子番号が非常に大きいために光電効果を爆発的に起こし、X線を強力に吸収するからです。
  • X線管の原理
    • そもそもX線管球で特性X線が発生する原理も、加速した電子がターゲット(タングステンなど)に衝突し、光電効果の逆のプロセス(電子衝突による内殻励起)で「穴」を作り、そこを埋める際に発生しています。

今日のまとめ

  1. 光電効果は、①X線が原子に衝突して「光電子」を放出する現象と、②その後に生じた「穴」を埋める現象、の2ステップで起こる。
  2. ②の「穴埋め」の際には、エネルギーが「特性X線」(光)または「オージェ電子」(電子)として放出される。
  3. この光電効果の起こりやすさ(原子番号依存性)こそが、X線画像のコントラストを生み出す最も重要な原理である。

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