核種から放出される陽電子の最大飛程で最も短いのはどれか。
- ¹¹C
- ¹⁸F
- ¹³N
- ¹⁵O
- ⁶⁸Ga
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
2.¹⁸F
解説
✔ PETと陽電子の飛程
PET検査とは、陽電子(β⁺)を放出する核種(¹⁸Fなど)を目印として薬に付け、体内に投与する検査です。 この陽電子は、原子核から放出された後、ごくわずかな距離を飛んで(これを飛程と呼びます)、近くの電子と衝突して消滅します。この消滅の際に放出されるγ線を、PETカメラで検出します。
✔ 飛程は「画像のボケ」の原因
重要なのは、この「飛程」が、画像のボケの直接的な原因になるという点です。 なぜなら、私たちが本当に知りたいのは「薬がある位置(陽電子が放出された位置)」なのに、実際に検出しているのは「陽電子が少し飛んでから消滅した位置」であり、その差が位置のズレ(ボケ)となるからです。
✔ 飛程の長さは何で決まるか? → エネルギー
陽電子の飛程の長さは、その核種が陽電子を放出する際の「エネルギーの強さ」で決まります。
- エネルギーが高い 🚀
- 陽電子が勢いよく飛び出すため、飛程が長くなり、画像はボケやすくなります(低解像度)。
- エネルギーが低い 👟
- 陽電子がそっと飛び出すため、飛程が短く、画像はシャープになります(高解像度)。
✔ 主要なPET核種の比較
以下の表は、主要なPET核種の最大エネルギーと、それによる平均飛程を示しています。

✔ 各選択肢について
1. ¹¹C
- ❌ 誤り
- ¹⁸Fよりもエネルギーが高く、飛程も長いです。
2.¹⁸F
- ✅ 正解
- 主要なPET核種の中で、陽電子エネルギーが最も低く、飛程が最短です。
3.¹³N
- ❌ 誤り
- ¹⁸Fよりもエネルギーが高く、飛程も長いです。
4.¹⁵O
- ❌ 誤り
- ¹⁸Fよりもエネルギーがかなり高く、飛程も長いです。
5.⁶⁸Ga
- ❌ 誤り
- エネルギーが非常に高く、飛程が最も長い核種の一つです。
出題者の“声”

この問題の狙いは、「陽電子エネルギー」→「飛程」→「画像分解能」という、PET画質の根幹をなす因果関係を、正しく理解しておるかを問うことにある。
PET画像のボケ(分解能の低下)は、PET装置の性能だけで決まるのではない。使っている「核種の物理特性」そのものが、画質の限界を決めてしまうのじゃ。
- エネルギーが低い = 飛程が短い = 高解像度(シャープ)
- エネルギーが高い = 飛程が長い = 低解像度(ボケる)
この関係性は、核医学の専門家として、絶対に押さえておくべき基本中の基本じゃ。
臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「陽電子の飛程」を理解する必要があるのか?ー
この知識は、私たちが目にするPET画像の「画質の違い」を、論理的に説明するために不可欠です。
- 画質の限界を理解する
- 「¹⁸F-FDGの画像はシャープなのに、同じPET装置で撮った⁶⁸Ga-PSMAの画像は、なぜか少しボケて見える…」 それは装置のせいではなく、核種が持つ陽電子飛程の違い(¹⁸F: 0.6 mm vs ⁶⁸Ga: 3.5 mm)が原因です。このように、核種ごとに「物理的な画質の限界」があることを理解しておくことが重要です。
- ¹⁸Fが“王様”である理由
- 現在、PET検査の主役が¹⁸F-FDGである理由は (1)がん細胞の糖代謝を見るという優れた生理的特性に加え (2)陽電子エネルギーが最も低く、物理的に最もシャープな画像が得られること (3)半減期(約110分)が検査や薬剤の配送に丁度良いこと、という複数の強みを併せ持つ万能核種だからです。
今日のまとめ
- 陽電子の飛程とは、放出されてから消滅するまでの移動距離であり、PET画像のボケの原因となる。
- 飛程の長さは、陽電子エネルギーによって決まり、エネルギーが低いほど短く、高いほど長くなる。
- 飛程が短いほど、画像はシャープ(高解像度)になる。
- 主要なPET核種の中で、¹⁸Fは陽電子エネルギーが最も低く、飛程が最短であるため、最も高解像度な画像が得られる。



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