変圧器に使用する絶縁油に求められる性状で適切でないのはどれか。
- 粘度が高い。
- 引火点が高い。
- 比熱が大きい。
- 絶縁耐力が大きい。
- 化学的に安定である。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1.粘度が高い。
解説
✔ 絶縁油の「2つの大切な仕事」⚡️💧
X線装置の高電圧発生装置や変圧器の中は、絶縁油という特別な油で満たされています。この油には、まったく異なる2つの重要な役割があります。
- ① 絶縁(電気を止める)⚡️
- 内部には高電圧がかかっています。油がこの高電圧部分を覆うことで、電気が外に漏れたり、部品同士がショート(短絡)したりするのを防ぎます。
- ② 冷却(熱を運ぶ) 💧
- 変圧器は、動作中に大量の熱を発生します。絶縁油は、この熱を吸収し、油自身が循環することで、熱を外部に逃がす「冷却水」のような役割も担っています。
✔ 理想の絶縁油に求められる性質
この「絶縁」と「冷却」という2つの仕事を高いレベルでこなすため、絶縁油には以下の性質が求められます。
- 【絶縁のための性質】
- 絶縁耐力が大きい:電圧に耐える力が強く、電気が流れないこと。
- 化学的に安定である:長期間使用しても酸化したり、劣化したりしにくいこと。
- 【冷却のための性質】
- 比熱が大きい:多くの熱を蓄えることができる(熱を奪う効率が良い)こと。
- 粘度が低い (サラサラである):油が循環しやすく、熱を効率よく運べること。
- 【安全のための性質】
- 引火点が高い:高温になっても燃えにくいこと(火災防止)。
✔ 各選択肢について
1. 粘度が高い。
- ✅ 正解 (誤り)
- もし油が「粘度が高い」(ドロドロしている)と、油がうまく循環できません。その結果、熱を運ぶ効率(冷却効率)が著しく低下し、変圧器の内部に熱がこもって故障の原因となります。冷却のためには、粘度は低い(サラサラな)方が適しています。
2.引火点が高い。
- ❌ 誤り (正しい)
- 熱を持っても燃えにくい方が、火災のリスクが低く安全です。
3.比熱が大きい。
- ❌ 誤り (正しい)
- 比熱が大きいほど、多くの熱を吸収できるため、冷却効率が高くなります。
4.絶縁耐力が大きい。
- ❌ 誤り (正しい)
- 絶縁油の最も基本的な役割であり、電気が流れない(絶縁できる)能力が高いことが求められます。
5.化学的に安定である。
- ❌ 誤り (正しい)
- 長期間の使用で劣化(酸化)すると絶縁性能が落ちるため、安定性が高いことが求められます。
出題者の“声”

この問題の狙いは、「絶縁油がなぜ使われているか」を、2つの役割(絶縁と冷却)の両面から理解しておるかを問うことにある。
多くの学生が、「絶縁油」という名前から「①絶縁」の役割しか覚えておらん。しかし、変圧器やX線管は熱との戦いであり、「②冷却」も同じくらい重要な役割なのじゃ。 「粘度」という性質は、まさにこの「②冷却」の効率に直結する。
「絶縁油は、電気を通さず、熱を運ぶ」 この2つの役割さえ押さえておけば、自ずと答えは導き出せるはずじゃ。
臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「絶縁油」を知る必要があるのか?ー
この原理は、私たちが毎日使うX線装置や放射線治療装置(リニアック)の安定動作を支える、まさに縁の下の力持ちだからです。
- X線装置の高電圧トランス
- X線管に10万ボルトを超える高電圧をかけるための変圧器(トランス)は、絶縁油で満たされています。この油のおかげで、装置は安全に、かつ安定して高電圧を発生させることができます。
- リニアック(LINAC)
- 放射線治療装置も、内部の導波管や高周波発生装置などを、絶縁と冷却のために特殊な油やガスで満たしています。
- 装置のトラブルシューティング
- 古い装置で「油が漏れている」「異音がする」といったトラブルは、この絶縁油の劣化や漏れが原因であることも少なくありません。装置の構造を理解することは、安全管理や保守点検の意識にも繋がります。
今日のまとめ
- 絶縁油には、「① 絶縁(電気を止める)」と「② 冷却(熱を運ぶ)」という2つの重要な役割がある。
- 冷却効率を高めるためには、油が循環しやすい(=粘度が低い)必要がある。
- したがって、「粘度が高い」は絶縁油の性状として不適切である。
- この原理は、X線装置の高電圧発生部など、放射線機器の安定稼働にも応用されている。



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