第77回 午後 70

理工学・放射線科学

GM計数管の分解時間が影響する特性はどれか。

  1. 空間分解能
  2. 真の計数率
  3. 方向依存性
  4. エネルギー分解能
  5. 幾何学的検出効率

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


2.真の計数率


解説

✔ GM計数管の個性:エネルギー情報を捨てた「カウンター」

GM計数管(ガイガー=ミュラー計数管)は、放射線が1本入るたびに、そのエネルギーの大小に関わらず、内部のガスで常に100%の大放電(電子なだれ)を起こすように設計されています。 これにより、非常に微弱な放射線でも検知できる高い感度を持ちますが、2つの大きな特徴(弱点)が生まれます。

  • エネルギーの大小が区別できない(=エネルギー分解能がゼロ
  • 一度大放電すると、ガスが元の状態に戻るまで、次の放射線を検知できない(=分解時間(dead time)がある

✔ 分解時間とは?:「数え落とし」が発生するクールダウンタイム

分解時間とは、まさにこの「大放電」が鎮まるまでの、クールダウンタイムのことです。 このクールダウンタイム中に、次の放射線が飛び込んできても、GM計数管は反応することができず、その放射線は「数え落とし(カウント漏れ)」となります。

✔ なぜ「真の計数率」に影響するのか?

放射線が少ないうちは、この「数え落とし」は無視できます。 しかし、高線量になって放射線が立て続けに飛び込んでくると、「クールダウンタイム中」に飛び込んでくる放射線が増え、「数え落とし」が大量に発生します。

その結果、

  • 真の計数率(本当に飛んできた数): 毎秒10,000本
  • 観測計数率(検出器が表示する数): 毎秒5,000本 といったように、観測される値が、実際よりも著しく低くなるという現象が発生します。 したがって、分解時間は、検出器が測定できる「真の計数率」の上限を決定づける、極めて重要な特性なのです。

✔ 各選択肢について

1. 空間分解能

  • 誤り
  • これは、画像の鮮明さなどに関わる「空間」的な性能です。分解時間という「時間」の性能とは無関係です。

2.真の計数率

  • 正解
  • 解説の通り、分解時間によって「数え落とし」が発生するため、観測される計数率と、実際に発生している「真の計数率」との間にズレ(誤差)が生じます

3.方向依存性

  • 誤り
  • これは検出器の形状や窓の位置によって、どの方向からの放射線に感度が高いかという「空間」的な特性です。

4.エネルギー分解能

  • 誤り
  • GM計数管は、エネルギーの大小に関わらず常に同じ信号(大放電)を出すため、そもそもエネルギー分解能を持ちません(ゼロです)

5.幾何学的検出効率

  • 誤り
  • これは、線源と検出器の位置関係(距離や大きさ)で決まる「空間」的な効率です。

出題者の“声”

この問題の狙いは、「GM計数管の弱点を、その動作原理から理解しておるか」を問うことにある。

GM計数管は、感度は高いが、非常に不器用な検出器じゃ。 エネルギーの大小を無視して、常に「100%の大放電」というお祭り騒ぎを起こす。

その結果、「エネルギーが分からない(分解能ゼロ)」うえに、「一度騒ぐと、鎮まるまで次のお客さん(放射線)に気づけない(=分解時間)」という弱点を持つ。

この「鎮まる間に来たお客さん」が「数え落とし」となり、「真の計数率」とのズレを生む。

「エネルギー分解能」を選んでしまった者は、エネルギーの大小に応じて信号の大きさが変わる「比例計数管」と、全て同じ信号になる「GM計数管」との、根本的な違いを理解していない証拠じゃ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「分解時間」を知る必要があるのか?ー

この「数え落とし」は、臨床現場で私たちが使うGMサーベイメータにおいて、「頭打ち」という非常に危険な現象として現れるからです。

  • 汚染検査での「頭打ち」
    • 放射性物質がこぼれた場所など、非常に線量が高い場所をGMサーベイメータで測定すると、メーターの針が一定の値以上上がらなくなったり、逆に低い値を示したりすることがあります。 これは、放射線が多すぎて「数え落とし」が大量に発生し、検出器が麻痺(まひ)している状態です。
  • 過小評価のリスク
    • この「頭打ち」を知らないと、「なんだ、この程度の汚染か」と、実際は非常に高い線量がある場所を「低い」と誤って判断し、重大な被ばく事故を引き起こす可能性があります。

GMサーベイメータは、低レベルの汚染を見つけるのは得意ですが、高線量域の正確な測定には向いていません。この「限界(分解時間)」を知っておくことが、安全管理の第一歩なのです。


今日のまとめ

  1. GM計数管は、エネルギーに関わらず常に大放電を起こすため、エネルギー分解能を持たない
  2. 分解時間とは、大放電が鎮まるまでのクールダウンタイムであり、この間に来た放射線は「数え落とし」となる。
  3. この「数え落とし」のせいで、観測される計数率は「真の計数率」よりも低くなる。
  4. 高線量域では「数え落とし」が多発し、測定値が頭打ちになるため、被ばくの過小評価に注意が必要である。

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