第77回 午後 71

理工学・放射線科学

高エネルギーX線の深部量百分率曲線(PDD曲線)の図を示す。

正しいのはどれか。
ただし、照射野は全て等しいものとする。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


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解説

この問題は、一見すると5つの似たグラフが並んでおり、グラフの形を暗記していないと解けないように思えます。しかし、高エネルギーX線の「3大原則」さえ知っていれば、論理的に正解を「見つけ出す」ことができる、典型的な良問です。

✔ PDD曲線とは?:X線が体内でどう減衰するかを示す「性能グラフ」 📈

PDD (Percentage Depth Dose)とは、X線ビームが水(人体と見なす)に入射したとき、線量が最も強くなる点(最大線量点 Dmaxを100%として、それより深い場所での線量が何%に減衰していくかを示したグラフです。 このグラフの「形」を見れば、そのX線ビームの「個性」が一目でわかります。

✔ 高エネルギーX線の「3大原則」

X線のエネルギーが高くなる(例: 4MV → 6MV → 10MV)と、「透過力(貫通力)」が強くなります。その結果、PDD曲線には以下の3つの明確な変化が現れます。

  • 原則1:表面線量が「低く」なる(スキン・スペアリング)
    • エネルギーが高いほど、電子をより「前方(深い方)」へ弾き飛ばします。その結果、入射点である表面(深さ0mm)の線量は相対的に低くなります。
    • 正しい順序: 4MV > 6MV > 10MV (4MVが一番皮膚に線量が当たる)
  • 原則2:ピークDmaxが「深く」なる(ビルドアップ)
    • 「原則1」の理由と同じで、電子が前方に飛ぶ力が強いため、線量が最大になるピーク地点も、より深い位置に移動します。
    • 正しい順序: 10MV > 6MV > 4MV (10MVが一番ピークが深い)
  • 原則3:深部での減衰が「ゆるやか」になる(透過性)
    • エネルギーが高いほど「透過力」が強いため、ピークを過ぎた後もエネルギーが深くまで届き、線量の減衰がゆるやかになります。
    • 正しい順序: 10MV > 6MV > 4MV (10MVが一番深くまで届く)

✔ 3大原則で、ニセモノのグラフを消去する

この3つの原則(チェックリスト)を使って、5つの選択肢を判定してみましょう。

  • 選択肢1、2、3は表面(深さ 0mm)での線量が一致しているため「原則1」に反するため除外
  • 選択肢5は全ての原則の真逆のグラフとなるため除外
  • 選択肢4のみすべての原則を満たす正解のグラフ

出題者の“声”

この問題の狙いは、「エネルギーと透過力の関係」を、PDD曲線の「形」として正しく認識できるかを問うことにある。

これは丸暗記の問題ではない「高エネルギーほど、深く突き刺さる」という、物理の直感さえあれば解ける問題じゃ。

  • 高エネルギー = 貫通力が強い
    • → ピーク(Dmax)が深い
    • → 深部での減衰がゆるい

そして「高エネルギーほど表面線量が下がる(スキン・スペアリング)」という3大原則を知っておるか。それだけで、毎年多くの受験生が正解と不正解に分かれる。

グラフを見た瞬間に、この3つのポイントをチェックする癖をつけておけば、絶対に落とさないぞ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師がPDD曲線を理解する必要があるのか?ー

このPDD曲線の「形」の違いこそが、放射線治療でエネルギーを使い分ける理由そのものだからです。

  • ① 腫瘍の深さに応じたエネルギー選択
    • 4MV、6MV
      • ピークが浅く、皮膚表面に近い線量も比較的高いため、頭頸部や乳房など、比較的浅い位置にある腫瘍の治療に用いられます。
    • 10MV以上
      • ピークが深く、深部までエネルギーが届くため、前立腺や子宮頸がんなど、体の奥深くにある腫瘍の治療に用いられます。
  • ② 皮膚(正常組織)の保護
    • 高エネルギーX線(特に10MV)は、ピークが深いため、皮膚表面の線量(表面線量)を低く抑えることができます。これにより、治療の副作用である皮膚炎を軽減する効果があります(スキン・スペアリング効果)。
  • ③ 治療計画(TPS)の基礎
    • 私たちがコンピュータ(TPS)で作成する線量分布は、このPDDのデータが基礎となっています。PDDの原理を理解していなければ、コンピュータが計算した結果が妥当かどうかを判断できません。

今日のまとめ

  1. 高エネルギーX線のPDD曲線には、エネルギーの違いによって決まる「3大原則」がある。
  2. 原則1 (表面線量)高エネルギーほど低くなる (4MV > 6MV > 10MV)
  3. 原則2 (ピーク深さ)高エネルギーほど深くなる (10MV > 6MV > 4MV)
  4. 原則3 (透過性):高エネルギーほど高くなる(減衰がゆるい) (10MV > 6MV > 4MV)
  5. 臨床では、このPDD特性を利用し、腫瘍の深さに応じてエネルギーを使い分ける。

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